グレイブディガー 二十二章
グレイブディガー 二十二章
――荒野を這う巨大な影……
大地の上を、細長い胴体をうねらせながら這うヨトゥン……蛇にも似た姿だが、その先端には三つの頭があった。
それぞれ、別の思考をもって動いているのか、個々の頭が違う動きを見せていた。
「あれがティアマット型、初めて見たぜ」
レイヴァンスがG.O.Dに乗り込み、モニターに映し出された巨影に息を呑む。
『しかし、良いのか?俺たちに任せて、休んでていいんだぞ?』
ダナンからの通信にレイヴァンスは、短く息を吐く。
「いいんだよ、助けてもらったんだ……黙って見てるわけにはいかねぇよ」
『まぁ、協力してくれるんなら有難い……空の敵は"ウォーカー"部隊が相手をする。あんたは、うちの大将とあの蛇野郎の相手を頼む』
「了解した……そんじゃ、そろそろ出るぜ!」
レイヴァンスはハンガードッグから発進口まで向かう。そして、後ろへと流れていく大地を見つめ、飛び降りた。
ホバー船の慣性に乗りながら、風の抵抗を受けつつ落下していく機体を、バーニアやスラスターを小刻みに噴射させながら姿勢を維持する……常人では難しい機体の空中制御を感覚のみでこなしていく。
「っと、移動する船から降りたのは初めてだが……何とか、なるもんだなっと!」
……地面に着地する瞬間に、"ブワッ"と足底のバーニアを噴かせて落下の衝撃を和らげる。
「……流石だな、ヴァルハラG.O.D部隊の隊長を務めるだけのことはある」
聞き慣れない通信の声に、レイヴァンスは咄嗟に反応する。
「おたくは、この船隊の大将さんか?」
「ああ、挨拶が遅くなってしまったな。俺がこの商船隊のリーダー、グレイブだ」
上空のホバー船から、降下してくる機影の反応があり、レイヴァンスがモニターを確認する。
その機体は、降下しながら両腰にそれぞれ取り付けてあった半円状の装甲板を足底に装着させた。
そして、風の波に乗るかの様に空中を駆け回る。
「何だ……ありゃ?」
レイヴァンスは、その光景に一瞬目を奪われたが、すぐに応答する。
「おっと、俺の方こそ助けてもらったってのに挨拶も出来ず、申し訳ない……もう知っているみたいだが、俺はレイヴァンス=テイルだ」
「そちらの事情も把握している、気にしないでくれ。それよりも、ヨトゥン殲滅への協力、感謝する」
グレイブの機体はレイヴァンスのG.O.Dと並ぶ様に空中で制止し、ホバリングを続ける。
「この周辺ではワイバーン型やティアマット型のヨトゥンがよく出るんだが、あの蛇に関しては倒すのにコツがいる」
「コツ?」
グレイブの言葉に首を傾げる。
「そうだ……奴には頭が幾つもあり、それぞれが別の思考をもって攻撃を仕掛けてくる。誰かが前で攻撃を惹きつけてる間に……背後から、仕留める」
「攻撃を惹きつけるって、あの首三本相手にってことか?」
レイヴァンスはティアマット型のヨトゥンを確認しながら、グレイブに確認する。
「当然だ、だから……コツがいる。囮は俺が引き受ける。レイヴァンスは背後から攻撃を仕掛ける。簡単だろ?」
「簡単に言ってくれるぜ……だが、任された!」
「頼もしいな、行くぞ!」
グレイブは猛スピードでティアマットの目の前まで飛び込み、両腕と両肩の機銃を乱射して牽制を仕掛けた。
すると、狙い通り……ティアマットは3本首をうねらせながらブレス攻撃を連続で放ち始める。
その様子を確認しながら、レイヴァンスはティアマットの右横から大きく旋回しつつ背後へと回り込む。
レイヴァンスが後方へと回り込んでいくのをモニターのレーダーで確認しつつ、迫りくるブレス攻撃の波を乗り越えるように空を舞う。
間髪入れずに襲ってくるブレス攻撃を躱しながら、機体は上空へと駆け上り……燃え盛る火炎のブレスの影に、その身を隠す。
そして一瞬の間を利用し、急降下した。
……ティアマットがグレイブの機体を見失い、上空を警戒している隙に、胸部と脚部のミサイルを発射。
そのミサイルが頭部に着弾し、爆炎で視界を奪うと同時……グレイブは機体の背部に装着していた鎌状の双剣を構えて、ティアマットに突撃を仕掛ける。
グレイブの機体が空を一閃すると、その風圧で爆炎が霧散し、視界が開けた。
その瞬間、ティアマットの中央の首が両断され瘴気を噴き出す。
「よし、今だ!」
グレイブの声でレイヴァンスも動き出す。
ティアマットに気付かれることなく、後方に回り込んだレイヴァンスは大剣を構えて、全速力で斬りかかる。
「ウゥォオオオ!」
気合いを込めた声とともに、ティアマットの背後から尻尾を左右に両断させながら胴体を駆け上がる。
そして、大剣のエーテル出力を最大まで引き上げると……一気に空へと斬り上げた。
「レイヴァンス・キャリバー、フルバースト!ってな!」
その一撃は、胴体を貫き、地面を抉りながらティアマットを引き裂き……G.O.Dの数倍もある巨体を真っ二つにして瘴気へと変えた。
「凄まじい威力だな……量産機でここまでの火力が出せるとは」
トドメの斬撃を見て、グレイブが感嘆の声を洩らす。
「これは俺専用の特注だけどな……それより、おたくもすげぇな!その空中機動も、射撃からの近接戦も、圧巻だったぜ」
「まぁ、あいつらの相手にも、この機体の扱いにも慣れてるんでな」
「ディガー?」
初めて聞く名前に、レイヴァンスはつい聞き返してしまった。
「ああ、グレイブディガー……神の遺産を掘り出すために使ってるから、そう呼んでるんだ。覚えやすいだろ?」
「そのまんまだな……」
「ははは、商人は名前を覚えて貰うことからが始まりだからな」
二人でそんな話をしていると、ダナンから通信が入った。
『おい、グレイブ!まだ終わってねぇぞ?そっちが片付いたなら空の方も手伝ってやれ』
その言葉に面倒くさそうに項垂れるグレイブ。
「はぁ?放っておいても、あいつらなら問題ないだろうに……船長使いが荒いやつだ」
「そういや、ウォーカー部隊に任せろって言ってたな」
レイヴァンスもレーダーとモニターを見ながら上空を確認する。
そこには、ホバー船五隻から切り離された機体が五機、空を駆けていた。
その形状を見て、レイヴァンスは驚きの声を上げる。
「ありゃ、空飛ぶ靴みてぇだな……」
「だから"ウォーカー"部隊なんだよ」
「ほんとに、そのまんまじゃねぇか」
――ウォーカー部隊
ホバー船の甲板前方から飛び立った機体……その機底部分にはホバー船同様に強力なエアークッションとジェット推進器が取り付けられていた。
「反重力システム、異常なし……」
若い男の声……慣れた手つきで機体のコンソール画面を操作すると、通信回線を開く。
「一番機、ニック……発進します!」
「二番機、ブルース、出る」
「三番機、ローファ、行きまーす」
「四番機、ヒイラギ、出ます」
「五番機、ケイト、出撃しまーす!」
五機のウォーカーが扇状に展開し、フォーメーションを組む。
前方から向かってくるワイバーン四体対し、細身の機体……ヒイラギ機が熱線を撃ち込む。
ワイバーンはその攻撃を回避するために散会し、敵がバラけたところをウォーカー部隊が巧みな連携で攻め立てる。
「手前のやつから仕留める!」
ニックがスニーカー状の機体から、靴紐の穴を模した機銃から幾重もの熱線を放つ。
それに続く様に、ロウファ型の機体からエーテル粒子を凝縮したエネルギー弾が撃ち込まれる。
その連続攻撃を、ワイバーンは急降下と急上昇を行い回避すると……口元から炎が漏れ出したかと思うと、一気に先頭にいたニックへとブレスを放つ。
その反撃を、ブーツ型の機体がエーテルフィールドを展開させながら庇う。
「助かった!ブルース!」
「ブレスは任せろ!ヒイラギ!ケイト!頼むぞ!」
その言葉に答える様に、ヒイラギが熱線を連続で撃ち込む。
ワイバーンはその攻撃を避けようと、空中を飛び回っていると……五番機が機底部のブレードにエーテルを纏わせた斬撃を受けた。
「ギシャァァア!」
悶えるような叫びとともに、翼が切り裂かれ、落下していく。
そこへ、一筋の熱線が放たれ……胴体に風穴が空くと同時に消滅した。
「……決まった!」
「ナイスぅ!ヒイラギちゃん!」
ケイトは軽い口調で、ガッツポーズを決める。
その間に、ローファは残りの三体のワイバーンの動きを封じるために、球状のエーテル弾を周囲展開させていた。
「こいつで逃げられないだろ?皆、一気に決めよう」
ローファの言葉に、ウォーカー部隊全員が攻撃を一点に集中させる。
ニック、ローファ、ヒイラギの三機がエーテル弾と熱線の嵐を撃ち込むと……ワイバーンに直撃し爆炎が広がる。
その中へ、ブルースとケイトがエーテルフィールドを出力最大、最大戦速で突っ込んでいく。
その、エネルギーの塊となった二機の攻撃をまともに受けたワイバーンたちは、塵と化して消えていった。
「ワイバーン型ヨトゥンの殲滅完了!」
『周辺に敵影の反応はありません。状況を終了します』
若い女性の声……商船の管制官だろうか?
その凛とした声は、神域の中で聞いた声と同じだった。
「なんて統制の取れた戦い方だ……商船隊にしちゃ、戦い慣れし過ぎてないか?」
レイヴァンスがこぼしたセリフに、グレイブは得意げに答えた。
「ふふ、これも俺たちの仕事だからな」
「ヨトゥンと戦うことが、商人の仕事なのか?」
「俺たちが何のために移動商船隊として、各地を回ってるか知ってるか?」
移動商船隊……その実態は詳しく知られていない。
ヴァルハラで話を聞いた時も、神々の遺産を掘り返し、自分たちの利益のために活動する、墓荒らし集団だと言う噂を耳にするぐらいだった。
レイヴァンスは、言葉に詰まらせてしまう。
「そりゃ……商売のためじゃ?」
「ははは、まぁ、それは建前だ。とりあえず、船に戻って続きを話そう」
レイヴァンスは、これまでベールに包まれていた"グレイブウォーカー"の本当の姿を知ることとなる。




