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荒野を駆ける商船 二十章

荒野を駆ける商船 二十章

 神域の中からオーディーンやウルキューレ、レイヴァンスを救い出した巨大な影……それは五隻のホバー船が結合し、一隻の船艦のような姿を見せていた。


 レイヴァンスのG.O.Dがハンガードックに固定されるや否や、搭乗席から飛び降りた。

 自分よりも先に回収されていたオーディーンへと一目散に駆けていく。


「おい!どいてくれ!ユーディン!無事か!?」


 レイヴァンスが人集りを押し除けながら、ユーディンの元へと向かう……

 そして、格納庫に横たわるオーディーンの胸元、その搭乗席から引きずり出されるユーディンの姿が目に映る。

 その姿は、頭や腕、腹などに装甲の破片が刺さり、血まみれになっていた。


「っ!ユーディン!!」


 レイヴァンスは咄嗟に駆け寄ろうとするも、周囲の人間に押さえつけられる。


「ぐぁ!ってぇ、なにしやがる!」


 押さえつけられたレイヴァンスの前に現れたのは、ゴーグルを額にかけた壮年の男だった。

 

「落ち着け!あんたの仲間は重症だ、見たらわかんだろ……すぐに治療室に運ぶ!邪魔をするな」

「く、っそ!ユーディン……」


 男の指示で担架が滑り込み、素早くユーディンを搬送して行く。

 

「安心しろ、俺たちはあんたらの仲間だよ」

「仲間、だと?」


 男は、ゆっくりと周りを見渡すような素振りをしながら口を開く。


「そう、我々は"移動商船隊"、通称グレイブウォーカーだ……そして、俺はこのサルベージ隊の隊長、ダナンだ」


 移動商船隊、ヴィーダルが協力を要請していた勢力だが、要請に応じるかどうかは期待できないと言っていた。


「あんたらが?どうしてあの場所に……」

「ああ、どう説明したもんかな?」

「わしが案内したんじゃ」


 オーディーンから老人の声が響き、辺りが騒然とする。


「この声……」


 ダナンとレイヴァンスは、オーディーンへと振り向く。


「オーディーンが神装を展開させた後、近くにこの船団の反応があっての……助けを求めたんじゃ」


 ミーミルの言葉にレイヴァンスは納得した様子で頷いた。


「なるほど、あんたのおかげか……だが、今はユーディンのとこへ」

「ユーディンは今、身体に刺さった破片を取り除き、縫合、止血処理の最中じゃ……」

「んな!?そんなことまでわかんのか」

「まぁの……じゃが、少し血を流しすぎておる」


 ミーミルの言葉にレイヴァンスは、表情をこわばらせる。

 

「まずいのか?」

「生命機能の維持に必要な血色素量が足りておらん」

「どうすりゃいんだよ!?」


 そこへ、光に包まれながら1人の女性が姿を見せる。


「わたしの、血は?」

「嬢ちゃん!?フラフラじゃねぇか!」

「リシェル……」


 その表情は青白く、足取りも危うい。とても人の心配が出来る様子ではなかった。


「わたしは、いいの……少し休めば、大丈夫。だけど、ユーディンは……」

「だとしても、何で嬢ちゃんの血が必要なんだ?輸血なら…」

「いや、リシェルでなければならん」

「どういうことだよ?」

「ユーディンが神装を展開させた際、大量のエーテルを体内に取り込んだんじゃ」


 ミーミルの言葉にブリュンヒルドが続ける。


「神族の血は、エーテルを中和することが出来るの……でも、彼は中和出来ずに中毒症状を起こしたのよ」

「話は、いいから……わたしを、治療室に案内してちょうだい」


 リシェルはふらつく足で、ユーディンが運ばれた方向へと進んでいく。

 それをダナンとレイヴァンスが追いかけて肩を支える。


「なんだか、よくわからんが、その娘さんも治療室に連れていいんだな?」

「ああ、悪いが案内してもらえるか」

「任せな、こっちだ」


 レイヴァンスは、ダナンとともにリシェルを治療室まで連れて行く……治療室の扉を開けると、マスクやガウンを身につけた隊員に制止されてしまう。


「ちょっと、なんですか!?治療中の人間が居るんですよ?それ以上近寄らないで!」


 強い口調だが、張り詰めた空気の中でもよく通る綺麗な声だった。


「悪い、ウルカ……この娘さんの血を輸血に使えねぇか?」

「輸血に?確かに必要な状況だけど、親族なの?」

「ええ……神族、よ」

「それなら問題ないわね、こっちに来てベッドに横になって」


 ウルカと呼ばれた女性の指示で、治療室の隊員達がテキパキと動き出す。リシェルとの会話に、解釈の違いはあったが……


「だ、大丈夫なのか?」


 レイヴァンスは、そわそわと心配そうにダナンに尋ねる。


「彼女はこの治療室の室長だ、任せておけ」

「ほら、ここに横になって」


 治療室の中が慌ただしく動き始める。


 ――治療室

「……輸血の準備を!採血と交差試験を同時に行って!」


 ウルカの鋭い指示が、治療室の中に響き渡る。


「室長!この青年の血液データに異常な程のエーテル指数が検知されています!」


 治療スタッフの声に、急いでモニターを確認するウルカ……

 

「人の身体にこんな数値のエーテル……どうなってるの?」


 眉根を寄せながら、画面を見つめるウルカに、別のスタッフが声をかける。


「こ、こちらの女性の血液にも少量のエーテルが……いえ、交差試験中のエーテルが……中和されていっています!」

「エーテルを、中和……そういうことなのね!他に拒絶反応はない?」

「はい、ありません!」


 その言葉に、ウルカは何かを決心し、深く頷いた。


「すぐに輸血を開始して!Hbは…… 6.7g/dL、目標量は400ml」

「はい!」


 リシェルの血液を大きなパックに移しながら、ユーディンへの輸血が開始される。



 ――深い霧の中をユーディンは彷徨い続けていた。

 自分がどこにいるのかもわからず、ただひたすらに前に進む……いったいどれほどの時間、そうしていたのだろうか。

 気がつくと、目の前に何かの気配を感じる。


「……ここは……?……目の前に、誰か……いる?」


 薄っすらと、見える人影。


「誰?……あなたは……?…………リシェル、さん?」


 ピントの合わないレンズの中を覗かされているような、そんな感覚……目を凝らし、目の前の人物を見つめる。


 リシェルさん?らしき人が、膝をついて頭を下げている。


「……ディン様…………わたしの、魂は……と、ともに」


 その声が途切れた瞬間、闇が押し寄せ

 巨大な狼が現れる

 その牙が、ユーディンに迫る――避けることも叶わず、彼の世界は……喰われた。


「っ!うわぁぁあ!!」


 飛び起き、荒い呼吸を繰り返す。


「っ、はぁ!……はぁ、はぁ」


 心臓が飛び出そうなほど、激しく鼓動を打ち続ける。

 全身が焼けるように暑い……


「あ……ここは」

「ここは、移動商船隊の中らしいわ。うなされてたけど、大丈夫なの?」


 聞き覚えのある声がして、隣へ振り向くと、心配そうな顔でリシェルが覗き込んでいた。


「リシェル、さん?」


 彼女の顔を見て、意識を失う前の状況を少しずつ思い出す。


「あ、ヘルは?生命の樹は!?どう、痛っつぅ……」

「……落ち着きなさい。何があったのかゆっくり教えてあげるから」


 神域での出来事、オーディーンの暴走。

 エリシュの"死"

 全てを聴き、ユーディンの顔から血の気が引いて行く


「そん、な……僕が……殺した?」


「それを見たグエンが、復讐機ヴァーリ……フェンリルの魂と同調し、あなたに襲いかかったのよ」

「グエンが……僕、に」

「その戦闘のせいで、あなたは死にかけたの……でも、何とか一命を取り留めた」

「エリシュさんを殺した、僕が助かって……」


 自分の犯したことに打ちひしがれるユーディン。そんな彼を見かねて、ブリュンヒルドは声を荒げる。


「ちょっと、ユーディン!あんたを助けるためにリシェルは…『姉さんっ』…!」

「それ以上はやめて……少し、外の空気を吸ってくるわ」


 そう言って、リシェルはふらつく足で部屋を出て行く。


「リシェルさん……」


 ユーディンの呟きは、静かに閉じられた扉の向こうへと溶けていった。



 ――治療室の扉を抜けた先、商船の通路では

 

 ホバー船が荒野の風を切る音……その絶え間なく吹き付ける風が、リシェルの頬を撫でていく。

 

「リシェル……大丈夫なの?」


 ブリュンヒルドが妹の体調を心配し、声をかける。


「ええ、少し血を抜いたせいか……まだふらつくけど」

「まったく……あなたらしくもない。ちょっとユーディンに甘すぎるんじゃない?」


 姉の言葉に、目を伏せながら小さく笑みを浮かべた。


「そう、かもしれないわね。だけど、エリシュを殺してしまった事実と向き合うには……彼はまだ若い」

「だとしても、それを受け入れなければいけないわ」

「わかってる。わたしも……そうだったから」


 リシェルはゆっくりと目を開き、荒野を駆ける船を眺める。


「わたしが、オーディン様に創り出されたばかりの頃を……覚えてる?」


「ええ……あなたが無茶して、姉妹たちがそれを庇って命を落とした」

 

「うん、今も姉さんたちの魂は、わたしとともに戦ってくれてる」

 

「そうね、それで?何が言いたいの?」

 

「あの時、わたしのせいで死なせたと……自分を酷く責めたわ。そして、その事実を受け入れて、再び戦場に戻るのは、簡単ではなかった」


 通路の端へと歩き、手すりに手をかけながら空を見上げる。


「ましてや、彼は人の子よ?神の血を引いていたとしても……人間なの」


 手すりを握ったまま、ゆっくりと治療室へと向けると、誰かに言い聞かせるように呟いた

 

「その心は、わたしたちよりも脆く、壊れやすい……わたしが守らなきゃ」


「彼が、オーディン様の神格を受け継いでいるから?」


「わからないわ……ただ、そうしたいと思ったの」

 

「リシェル……」


 ブリュンヒルドはリシェルの言葉に、心の中で問いかける。

 (あなたが守りたいのは、人なの?それとも……)

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