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聖域を駆ける咆哮 十八章

聖域を駆ける咆哮 十八章

 ――ユグドラシルの森、神域


 ウルキューレが両手に剣を構えて、サーヴァントと打ち合う。

 3体のサーヴァントが剣を振りかざし、斬りつけるが、ウルキューレは軽い身のこなしで躱し、剣で受け流しながら隙をついて斬りつける。

 ガン、ギィン、ガキン…剣戟が交差するたび、火花が弾け、空間を切り裂くようなエーテルの残光が夜の闇に輝く。

 エーテルを纏った斬撃でさえ、奴らの黒い甲冑に傷一つつけられなかった。


「なんなのよ、こいつら……攻撃が効かない」


「おそらくじゃが、あの黒い甲冑は高濃度に凝縮された瘴気じゃろう」


 そこへ、オーディーンが合流しグングニルを構える。

 

「凝縮されたって、ヨトゥンの瘴壁より強度が上がってるってこと?」

「そう考えるのが妥当じゃな。しかし、あれが3体となると……」

 

「ウルキューレの、神装を展開させるわ」

「リシェル?目覚めたばかりなのに、それは無茶よ!」

「でも、早くヘルを止めないと、もっと状況が悪くなる」

「それは……はぁ、わかった。フォローは任せなさい」

「ありがとう、姉さん。ユーディンは退がってなさい」


 そして、ウルキューレはサーヴァントたちの上へと上昇していく。

 

「は、はい……リシェルさん、大丈夫なのかな」

「ここを突破するには、他に手はあるまい」

「でも、目覚めたばかりって」

「うむ、あやつの身体にかかる負担も大きいじゃろう……」

「そんな……」


 心配そうにユーディンはリシェルを、ウルキューレを見上げる。


「姉さん、いくわ……『神装展開』」


 リシェルの言葉に反応するかのように、ウルキューレはエーテルの翼を広げる。

 両肩の装甲が分離し、宙を舞う。分離した装甲の周りにエーテルのシールドを形成し、機体を守るように展開した。

 そして、両肩の内部装甲から蒼色のエーテル粒子が溢れだし、頭部や、腕、腰、脚部に蒼いエーテル結晶を纏っていく。


「すごい、エーテル指数が格段に上昇してる」


 その様子を伺いながら、ユーディンが呟いた。


「リシェル、大丈夫?」

「ええ、やれるわ」

 (身体が燃えるように暑い、短時間で切り抜けないと)

(ラングリーズ)の操作は任せなさい」


 エーテルシールドがウルキューレの周りを円を描くように旋回する。


「最初から全力でいく……『エインフェリア』よ、ともに戦場を駆けなさい」


 リシェルの言葉とともに、ウルキューレから膨大なエーテル粒子が溢れ出す……それは次第に人の形を成していき、蒼い巨影となる。


「ウルキューレが増えた……あれは?」

「あれはエーテルで創り出した、他のウルキューレたちじゃ」

「他のって?」

「ヴァルキリーの神格は、魂を選定し、エインフェリアとするもの……あれの中にはリシェルの姉たちの魂が込められておる」

 

 3体の蒼いウルキューレは、それぞれ剣、槍、弓の形状の武器を持ち、後方の騎士が弓を構えた瞬間……リシェルを含む3体がサーヴァントたちへと突撃した。


 弓から放たれた無数の光は上空へと放たれた後、敵目掛けて雨のように降り注いだ。

 それをきっかけに、前に出た3体はそれぞれ1体のサーヴァントに攻撃を仕掛け、対峙する。


「すごい連携だ……」


 3体の蒼いウルキューレの動きに無駄はなく、仲間の攻撃に合わせて止めどない連撃が繰り広げられていた。

 剣と槍のウルキューレが2体のサーヴァントを惹きつけている間に、リシェル機は残りの1体に怒涛のコンビネーションを見せる。


 両手に持つ2本の剣で斬りつけ、宙を舞う盾で敵の視界を奪った瞬間に上空へと姿を消す。

 

 そこから弓を構え、エーテル粒子を溜め……強力な熱線を撃ち込んだ。

 

 その攻撃が敵に直撃し、爆煙が立ち込める中、槍を構えてエーテル粒子を極限まで矛先に込め……瞬足で穿つ。


 空気が"キィン"と弾けるような音と、一瞬の静けさの後……ズドォォン……と地面から天にかけて震えるような衝撃が伝わってきた。


 爆煙が晴れるとともに視界に映ったのは、上半身が吹き飛び、瘴気となって霧散していくサーヴァントの姿だった。


「リシェルさんも、凄い……一瞬で倒した」

「じゃが、まだ2体残っておる」

「僕も、戦わなきゃ!」

「やめい、おぬしが行けばリシェルが本気で戦えんじゃろうが」

「ぐ……」


 これじゃ、足手纏いじゃないか。神装機を動かせるようになったのに、僕は……


「そうだ……神装、僕にも使うことが出来れば」

「ユーディン、それはならん!おぬしの身体にどれほどの負荷がかかるのかわからんのじゃぞ!」

「でも、出来るかもしれないんでしょ?それに、早くヘルをなんとかしないと」

「いかん!よすのじゃ」


 ミーミルの心配を他所に、ユーディンは意思を固める。


「神装展開!」


 次の瞬間、オーディーンは各部の装甲が開き、眩いエーテル粒子を溢れさせた。


 暑い……身体中の血液が燃えるような感覚だ、機体の内側をもの凄い量のエーテルが駆け巡ってるのがわかる。

 だけど、ダメだ……意識が、保てない


「くっ、ぅゔああアアア!」

「ユーディン!」


 ユーディンの意識はそこで消えてしまった。


 ――守護者の集落入り口


 レイヴァンスとグエンは、住人たちを入り口まで避難させるため、駆け回っていた。


「グラード!ライナ!ヘルが来やがった!住人を避難させるのを手伝ってくれ!」

「ああ!?なんだってそんなことに、ちくしょう……住人の数は?」

「わかんねぇ!乗せられるだけキャリアに乗せたら一旦森の入り口まで離れるんだ」

「その後は……」


 ……グラードとレイヴァンスが話している間、グエンは辺りを見渡していた。


「エリシュ……あいつ、どこ行きやがった?」


 ここまで、一緒に避難していたはずの彼女が見当たらず、来た道を戻っていく。


「どこだ?なんでいないんだよ」


 無性に焦りを感じ始めたグエン、その瞬間……神域の方から凄まじい地響きを感じた。

 神域の方へと視線を向けると、エリシュが胸元のエーテル結晶を握りしめながら、神域へと駆けていく姿が目に映った。


「あいつ、何考えてんだ!」


 グエンはエリシュを追って走りだした。


 ――エリシュが、神域へと戻ると

 目の前でオーディーンが膨大なエーテル粒子を溢れさせ、その姿を変えている瞬間だった。

 白金のエーテル結晶を身に纏い、まるで聖騎士のような清廉な姿を見せ、神々しさを感じさせた。


「あれが、オーディーン……いえ、見惚れてる場合じゃない、ヴァーリの元へ行かないと」


 エリシュは危険を顧みず、戦場へと駆けていった。




 


 ――

「ユーディン!しっかりするのじゃ!」

「ミーミル!どうなってるの?なぜオーディーンが神装を……」

「大丈夫なの?ユーディンは!?」


 ブリュンヒルドとリシェルが神装を展開させたオーディーンへと振り返る。

 その瞬間、雄叫びのような叫びとともにオーディーンが動きだす。


「ぁあアア!」


 スラスターも使わず、機体の脚だけでサーヴァントへと突進をしかける。


「ぅゔぅあ」

 

 ユーディンの言葉に理性はなく、膨大なエーテルの奔流に意識が飲まれているようだった。

 機体から溢れるエーテルを身体に纏い、サーヴァントを殴り、千切り、引き裂いていく。

 その圧倒的な力の奔流を前に、一瞬で塵となり消滅する……そして、最後のサーヴァントに身体を向ける。


「なんて力、完全に暴走してる」

「どうするの、リシェル……」

「あの調子じゃ、すぐに稼働限界を迎える……けど、生命の樹と、集落を守らなきゃ」


 思考を巡らせてる間に、オーディーンはサーヴァントに取り付き、力任せに殴り倒す。

 地に伏した敵に向かい胸部装甲を開くと、その中心から白い熱線が放たれる。


 その熱線は瘴壁に触れ、乱反射するように弾かれたが……ドロドロと瘴壁を溶かし、サーヴァントの身体を貫いた。

 サーヴァントは痛みに苦しむかのように悶え、やがて瘴気となって消えた。


「ユーディン……私がとめなきゃ、っぁぐ!」

「リシェル!」


 リシェルの身体に針が刺すような痛みが広がる。


「はぁ、はぁ……時間、切れ…か」


 視界がぼやける中、纏っていたエーテル結晶とエインフェリアが砕け、粒子となって空気に溶けていく。


「リシェル!しっかりしなさい!」

「ごめん、ねえさん……動け、な……」


 そして、リシェルの意識もそこで途絶えた。


「リシェルっ!……バイタルは?…問題ないわね…」


 リシェルの無事を確認し、オーディーンを見つめる。


「私には止められそうに…な、っは!?」


 そのオーディーンの横を駆けていく娘の姿を見つけ、ブリュンヒルドは驚きの声をあげる。


「あれは、人?どうして!」


 ブリュンヒルドの視界の端でオーディーンが動き出す。

 オーディーンは、まるで瘴気に反応するかのようにヘルとヴァーリの元へと歩み始める。


「オーディーン……何をするつもりなの?」


 ウルキューレを動かそうとするも、機体のコンソールのアラートが虚しく響く。

 各稼働部の冷却と、ユグドラシル・ドライブへのエーテル供給率の低下で身動きがとれなくなっていた。


「こんなときに……」


 ブリュンヒルドは歯噛みするように神域を見る。

 そして、オーディーンがヘルの瘴壁にたどり着くと、無造作にそれを叩き始め……パヂィ、と黒い稲光ととも腕を弾かれる。

 何度かそんな動きを繰り返していたが、神域の中から禍々しい気配が溢れだす。


「あぁ、兄上……お会いしたかった」


 ヴァーリを捉えていた樹の根が朽ちて剥がれ落ちる。機体は瘴気を纏いながら、ゆっくりと動きだすと咆哮をあげた。


「ヴゥワォォォォォォオオオン」


 耳を劈くような声に反応するかのように、オーディーンはエーテルを凝縮し始める。

 胸部装甲が開き、先の一撃とは比べ物にならない量のエーテルが集まっていく。


「なんて熱量……生命の樹も無事では済まないわよ!」


 ブリュンヒルドが声を上げるも、その身体は動くことができない。

 その声も届くことはなく、オーディーンから光の奔流が放たれる瞬間……


「ダメっ!……ヴァーリ!」


 エリシュが、翠の光を放散させながら熱線を受けた。


「ヴァーリ、力を貸して……生命の樹を守りたいの!」


 エリシュの言葉に応えるかのように翠の光は質量を増していき、オーディーンの攻撃を弾く。

 しかし、その膨大なエーテルを全て受け切られず、徐々に光を失う……


「く…ぅ……もう…………ぁ、グエン?」


 パァアアン……硝子が割れるような音とともに、熱線が光の粒子となって消えていく。


 粒子が消えても、そこに、エリシュの姿は跡形も残っていなかった。

 その光景を、エリシュを追ってきていたグエンが見つめ……力なく膝をつく。


「は?……エリ、シュ?……エリシューーゥ!!」


 グエンの叫びが、虚しく神域に響き渡った。

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