陽光と月光の残滓 十二章
陽光と月光の残滓 十二章
――ヴァルハラ戦域、北側
漆黒と白銀のガルム……ハティとスコルが戦況を見つめる。
「初撃での長距離射撃、想定よりも威力の高いものだったか……」
「ああ、高台の上……他のものより重装甲を纏っているやつが、厄介だな」
「ならば、そいつから狩りに行くか」
「そうだな……っ!」
ハティの耳がピクリと反応し、“魂“が騒つくのを感じた。
「スコルよ、気付いたか?」
「お前もか?ワタシの中のヤツの“魂“が騒いでおるわ」
「確かめに行くか……」
後方にいたニ体のガルムが、ヴァルハラの方角へと凄まじい速度で駆けて行った。
――ヴァルハラ周辺、G.O.D部隊
「セルマ!コイツらは今までのガルムとは違うぞ、気をつけて対処しろ!」
熟練の戦士でもある、フェリクスが敵の動きを見て警戒心を強める。
「違うって言われてもルーナ!索敵はどう?」
「はい、03、07の初撃を回避したガルム、二十体は十キロの距離まで来てます」
「足まで速いな……よし、07は最後尾で狙撃支援を頼みます!03と06は中衛!フェリクスさんに敵が近づかないように牽制と俺たちの援護を!」
セルマが編成を考えながら指示を出していく。
「あたしは?いつも通り前に出て暴れたらいいの?」
ソレーユが前に出ようと動きだすのを、セルマが止める。
「ダメだ、今回は敵の数が多い、しかも、これまでのガルム型よりも動きが早い……前に出て孤立したら命取りだ」
「それじゃ、どうやって戦うのよ!」
「近接戦をこなせる機体は俺とソレーユだけだ、背後の三機と距離を保ちながら、数を減らすしかない」
(だが、奴らの中に異常な個体がニ体いると言っていた……どれほどの強さかは不明だけど、嫌な予感がする)
内心、焦りと不安を抱くセルマ。それほどまでに危機的状況であると肌で感じていた。
「前方、来ます!」
ジルが索敵レーダーを確認しながら声をあげる。
目視出来る距離にまで迫った敵へと、連装砲の照準を合わせ、射撃を開始する。
それに続いてルーナも機体の照準を合わせて射撃を開始するが……
「くっ……当たらない!」
敵の動きに合わせてエーテル弾を撃ち込むも、それを簡単に躱されてしまう。
「動きを止めるしかないか……」
セルマは後方の味方の射線が通る位置を確認しながら、接近してくるガルムに攻撃を仕掛けにいく。
G.O.D-04、セルマ機は近接戦用の斬撃槍を構え、刃からエーテル粒子を纏わせて斬りかかる。
それをガルムが後方に飛び退いて躱すが、すかさず左腕に内装されている連射砲を撃ち放つ……
「躱されるのは予想通りだ……こいつを喰らえっ」
撃ち放たれたエーテル弾はガルムに直撃したが、威力が足りず、少し怯ませた程度だった。
「……上出来だ」
ズドォォン……とセルマの後方から空気を震わせる銃撃音が響き渡る。
目の前のガルムは眉間を撃ち抜かれ、黒い霧と化して消えた。
銃撃音の方を見ると、G.O.D-07、フェリクス機が大口径のエーテリアスライフルを構えていた。その銃口からは排熱された空気と霧散したエーテル粒子が舞っていた。
「さすがに、こいつは避けられんか……お前達、出来るだけ敵の動きを止めろ!俺が仕留める」
フェリクスがライフルに次弾を装填しながら指示を出す。
「止めろって、言われても……ああ、もう!ちょこまかと鬱陶しいわね!」
ソレーユが敵に攻撃を当てられず、深追いしていく。
「ソレーユ!前に出すぎだ!……くそっ!」
「任せてください、そこっ!」
ルーナがG.O.D-06のマークスマンライフルで射撃する。
その弾は、ソレーユ機に横から飛びかかろうとしていたガルムの頭部に当たり、怯ませた。
その隙を逃さず、ソレーユのG.O.D-05のハンマーで叩きつける……
「もらったー!」
バヂィインと、電撃が迸る音が鳴り響き、ガルムを叩き伏せ、消滅させた。
「よっし!!ルーナ、サンキューね!」
「いぇい……っ、次!」
ダァン!と二発目を撃ち放ち、ソレーユに近づくガルムを怯ませ、そこをソレーユが叩き伏せる。
「ふぅ、流石だね……俺もしっかりやらないと」
双子の連携を見て、気合を入れ直すセルマ。
機体の腰に装着している、斬撃槍の予備の刃を左手に持ち、右手で斬撃槍を構える。
目の前に迫るガルムに、左腕の連射砲を放ち牽制すると同時に、背中のスラスターを噴射させ距離を詰める。
ガルムは連装砲の攻撃を体の瘴壁で弾きながら、瘴気を噴き上げる爪で斬りかかる。
「当たらないよ」
セルマは機体の脚部のバーニアを噴き出し、地面を滑るように回転しながら躱す。そのままガルムの横に位置取り、斬撃槍を振り上げる。
ガン!と瘴壁に弾かれる音とともに、ガルムを上空に打ち上げた……そこへ飛び込み、喉元へ左手にもった刃を斬りつける。
「この攻撃なら身動き取れないだろ?」
エーテルを纏った刃は、ガルムの喉を引き裂き、消滅させた。
「よし、まず一体……次は」
G.O.D部隊、五機の連携と奮戦により、次々とガルムを迎撃していく。
レーダーでは残り十体にまで敵影は減っていた。
しかし、ここに来て戦場を覆う空気が一変する……
駆け回っていたガルム達が、動きを止め、後方へ退き始めたのだ。
そして、セルマ達の前方より異常な程の速度で迫る熱源反応がニつ
『早い!エーテル指数異常個体、ニ体のヨトゥンが凄いスピードで迫って来ています!』
管制官が焦りを隠せぬほどの危機感を知らせる。
「言われなくても、ヤバいってのはわかるよ」
「何よあれ!」
巨大な砲弾のように駆けてくるニ体のガルムは、こちらを撹乱するかのように駆け回り、後方へと回り込んだ。
「まずい!フェリクスさん!?」
セルマが気づいた時には、漆黒と白銀の軌跡が宙を漂い、G.O.D-07に襲いかかっていた。
ニ体のガルムが纏う金色のエーテル粒子と陽炎が機体の装甲を溶かし、瘴気を纏った爪が両腕を抉るように切り裂いた……
「っぐぉ……ゔぅ」
くぐもった声をあげ、機体ごと後方へ倒れ込むフェリクス……
「無事ですか!?くそっ!皆!密集陣形!07の守りを固めろ!」
「り、了解!」
「うそ……おじさんが、一瞬でやられるなんて」
「お姉ちゃん!しっかりして!後ろに下がって!」
リーダー格のフェリクスが一撃で倒された事で、呆然となるソレーユ……その様子に、焦るルーナだったが、二体のガルムは次の獲物をソレーユに見定め、体勢を低くする。
「……っ!お姉ちゃんっ!」
それに気づいたルーナがソレーユのもとまで、機体のスラスターを全開にして駆け寄る。
「ルーナ!ソレーユ!ちぃっ!」
セルマとジルがニ体のガルムに向けて、撃ち始めると同時に二体は駆け出してしまう。
その勢いのまま、二機のG.O.Dを押し倒し、嘲るかの様に踏みつける。
そして、ソレーユ機を押さえつけながらスコルが口を開く。
「ほう……貴様らか?この微かに感じる神格の残滓。偽神の末裔か?」
「くぅ……なに、言ってんのよ!」
「ヤツらの神格が、こんな未熟な躯に宿っていようとはな」
その声に、ハティが続く。
「忌々しい……ワレラニ喰われても尚、血を残すか!」
スコルとハティは同時に牙を剥き、二機の喉元に喰らいつく。
機体の頭部が喰い千切られ、メインカメラが消える。
ソレーユとルーナの視界は闇に囚われ、死への恐怖が過ぎる。
「あ、ああ……怖い、怖いよ、お姉ちゃん!」
「この!何も見えないじゃん!!」
「ソレーユ!ルーナ!やめろぉお!」
セルマはG.O.D-07のエーテリアスライフルを拾い、弾丸を撃ち放つ……ズドォォン、バギィン……銃声とともに、その反動でセルマ機の両腕が弾け飛ぶ。
エーテル弾はスコル目掛けて迫っていったが、その躯に当たる瞬間、陽光を纏った瘴気が広がり、弾は粒子となって霧散した。
「邪魔をするな」
「そんな……」
ニ体のガルムは双子に向き直り、操縦席に手をかける。
「終わりだ……」
暗闇の中、死への恐怖に心が支配されていく二人の胸にドクンと脈打つ鼓動を感じた。
「「なに?この感覚……身体があつい」」
「ルーナ?そこにいるの?」
「お姉ちゃん?なんで?」
……グシャッ……その瞬間、二人の機体は喰い潰された。




