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プロローグ

プロローグ

 世界は、一本の樹から始まった。

 

 生命の樹(ユグドラシル)


 そこから芽吹いた命は、草を揺らし、羽音を響かせ、咆哮とともに大地を駆けた。

 それはやがて、人を生み……神族と巨人族(ヨトゥン)という、世界を揺るがす存在までもが生まれた。

 

 

「そして、その二つの種族が争ったことで世界が滅んだんだね」


 小さな男の子が教本を手に、母親に話しかける。


「そうよ、ユーディン……この千年前の戦いを神々の黄昏(ラグナロク)と言うのよ」


「ふ〜ん、神様も滅んじゃったの?」


「いいえ、神族も人と交わることで、その血を残したの……あなたにも、その血が受け継がれているのよ」


「すごいね!神様の力が使えるの?」


 ユーディンは瞳をキラキラと輝かせて、母親に詰め寄る。


「そう、だったらどれほど救われたか……」


 そう告げた母親の顔は、どこか悲しそうだった……

 この時の少年には、どうして母親がそんな表情を浮かべているのかが分からなかった。


 ――

 それから十五年。ユーディンは、あの日の母親の表情を忘れられないまま成長していた。


 この頃には、当時の母の気持ちを察するようになっていた。

 

 なぜなら……神々の黄昏から千年の時を経た今も、世界はヨトゥンの脅威に晒され、オーディンの血を受け継ぐ"ユーディン"は人類の希望を背負う存在とされていたから……だが、その力も遂に目覚めの兆しを見せ始める。

 

 


 ――北の氷原、その遥か地下にて


 人類の脅威たるヨトゥンにも、新たな動きがあった。

 

 氷原の地下にある冥界の門。

 その禍々しい瘴気を放つ門の前に、ヨトゥンが集まり、何かを崇める様に平伏する。……


 ……その内の一体が口を開く。

 

「冥界ノ王よ、ツイニ、贄をミツケタ……我ラニチカラヲ」

 

 そして、門の前に金色に輝く髪の女を差し出した。女は意識を失っているのか、微動だにせず横たわっている……すると、門の周りに漂う黒い霧が、まるで生きているかのように蠢き、女を包み込む。

 その黒い霧が女の中に取り込まれたかと思うと、女はゆっくりと目を開き、起き上がる……その瞳は紅く、狂気を孕んでいた。

 

「黄金の魔女、グルヴェイグ……不死身の身体か……くく、はははははっ!妾の依代として申し分ないわ!」

「オオっ!ヘルよ!」

「ああ……この地に引かれる感覚、実に久しい」

 

 恍惚な表情を浮かべながら自分の身体を確かめた、かと思うと、女の顔はみるみる歪み……怨嗟のこもった表情へと変わる。

 

「黄昏はまだ終わらぬぞ……偽神どもが犯した罪、冥府の底で裁いてやろう」


 ヘルは、身を翻し……黒い霧の中へと溶けていった。


 ――大陸中央の要塞都市ヴァルハラ周辺


 荒廃した大地の中に、直径十kmほどのドーム状の要塞、ヴァルハラと呼ばれる都市があった。

 その要塞都市から更に数km離れた場所で大量の砂塵と爆炎が撒き上がる。


 ……ドォオーーン


 大地を穿つ爆音と共に砂塵を引き裂いて白い機体が姿を見せた。その機体の操縦席の男が通信機器を操作する。


「……こちら、G.O.D-01、対象の殲滅を確認。周辺の索敵を頼む」

「G.O.D-03より各機へ、周辺に熱源を認めず。迎撃任務完了」

『こちら、ヴァルハラ管制塔、ヨトゥンの迎撃任務、ご苦労様です。各機、帰還してください』

「「了解」」

 管制官からの要請に応答し、白い機体達がドーム状の要塞へと戻って行く。


 その様子を遠くから見つめる人影があった。

 戦闘のあった場所から少し離れた崖の上……銀色に輝く髪を風に靡かせ、若い女が一人呟く。

 

「世界を焼き尽くしても、まだ争いを続けるなんて」


 そう言った彼女の瞳は、どこか哀愁を漂わせていた。そこへ彼女とは別の声が響く。

 

「仕方ないわよ、リシェル……ヨトゥンは人間達の恐怖、混沌を糧にする存在よ」


 声がしたのは彼女の左手、その手首には小型のデバイスのような物が巻かれていた。リシェルと呼ばれた女はそれに向かって話しかける。

 

「だけど、オーディン様が命を賭してまで戦った結果が、こんな……」


 リシェルは目を伏せて、声を細める。

 

「そうね……それで、これからどうする?」

 

「……うん……とりあえず、現状の確認と、他の神装機の情報を確認して」


 左手のデバイスから、何かを計測する機械音が鳴り……数秒経ってから音が鳴り止む。

 

「周囲の土壌や、空気中のエーテル濃度を計測したみたけど……私たちが眠りついてから、千年は経っているわ」

「千年、そんなに」

「他の神装機の反応は……あの人族の要塞に二機、確認できたけど」

「そう、なら行ってみましょう……姉さん、お願い」

「わかったわ」

 

 その瞬間、崖の上にいたリシェルの姿は光に包まれて消えた。

 そして、崖の岩陰の中から白銀と青を基調にした人型の機動兵器が姿を現わす。

 

「神装機ウルキューレ、起動……ユグドラシル・ドライブ……異常無し」

 いつの間にか、その機動兵器の操縦席に移動したリシェルが、モニターを見ながら駆動系の確認を行う。

 そこへ先程、彼女と会話していた声が操縦席に響く。

 画面には『ブリュンヒルド』と表示され……

 

「ヴァルキリーの神格を確認。搭乗者、リシェル=ベアトリス、認証。インターフェースシステム、接続完了。いつでも行けるわよ」

「ありがとう姉さん、行こう!」

 

 ……キュィイン……シュゴォオオ!


 動力炉の音が鳴り響き、ブースターに点火すると同時……空を割く矢の様に蒼銀の騎士は空へと舞い上がっていった。


 ――彼女とオーディンの血を継ぐ青年、ユーディンとの出会いが、世界を揺るがすこととなる。

なろう初投稿です。

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