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第4話「甘やかされ」



 目覚めると、朝食が出来ていた。見知らぬ人間の作る食事に、いままでの癖で、多少は警戒しながら口に入れる。


「……美味しい」

「だろ?」

 クロウの作ってくれた料理は、嘘みたいに美味しかった。


「料理なんて、しなそうなのに」

「色んなとこを旅してきてる。旅は基本一人だし、飯はちゃんと作るからな」

「そうか……本当に美味しいな」


 ハルが心底感心してそう言うと、クロウは、その逞しい外見には似合わず、照れたように微笑んだ。なんだか……警戒して悪かったなと、思った。


 食事を終えると、一緒に散歩に出かけた。


「ハルは寝ていればよかったのに」

「大丈夫だ。歩ける。というか、犬達が懐いてないのに散歩は無理だろ」


 そう言うと、そんなこと無いぞ、とクロウが言う。不思議に思うハルの前で、クロウがしゃがむと、二匹はクロウの差し出した手にまとわりついて尻尾を振っている。ハルが寝ていた朝の間にこんなに懐いたのかと驚いていると、な? とクロウがハルを見上げた。


「昔から、動物には好かれるんだよな」

 笑うクロウに、ハルもまた微笑む。


「クロウは、どこに行くところだったんだ?」

「ああ。オレは、旅をしているんだ」

「旅か……目的は?」

「流浪に旅をしているだけだ――護衛のような色々な依頼を受けながらな」

「……そうか」


 そういう人間が居るのは知っている。クロウの縛られない生き方を、少し羨ましく思いながら頷いた。


 湖のほとりに出て、二匹を走らせながらゆっくりと歩く。


「ボート小屋があるんだな」

「今の家も、元はボート小屋の管理人の家なんだ。戦で、ボート遊びなどは出来なくなって、空き家になったらしい。近くの町で聞いたら好きにしていいと言われたから、修繕してもらって住み始めた」

「戦が終わったから、またボートに乗りたい奴も出てくるかもな」

「そうだな。ボートも直せば乗れるかもしれない」


 湖に視線を向けて、ハルは微笑む。


「平和な光景が戻っていくといい」

 その為に戦ったのだから。言葉には出さずに、ハルがそう思っていると、クロウはハルをまっすぐ見つめた。


「――ハル」

「ん?」

「しばらく……ここに、居てもいいか?」


 その言葉に、ハルはクロウを見つめ返す。


「オレのは、急ぐ旅ではないんだ。少し旅に疲れた……ハルが許してくれるのならば、一緒に居たい」


 意外な言葉に、ハルはクロウを見つめる。


 クロウが旅をしていると聞いた時、すぐにどこかに行ってしまうんだと思って、少し……寂しく、感じた自分に、気付いていた。

 クロウの言葉を、断るという選択肢が浮かばない。


「オレも、少し訳があって、しばらくはここに居るつもりなんだ。クロウが旅を休む間くらいなら」

「じゃあとりあえず、決まりでいいか?」

「ああ」


 ハルは自分に戸惑いながらも頷いた。


「よろしくな?」


 不意に嬉しそうに笑ったクロウの顔に、心臓が少し跳ねて、ハルは戸惑いながら頷いた。


 その日から、クロウはハルの家に住むことになった。最初は、少し警戒はしていた。体の関係は持ってしまったけれど、与えられる快感と、クロウを信じていいかは別の話だと考えていた。


 けれど、その警戒も、長くは続かなかった。


 クロウは流浪に旅をしていたというだけあって、各地の美味しい料理を知っていてふるまってくれ、ハルにも教えてくれた。一緒に作るのも楽しかった。


 その内、ハルの剣の稽古にも付き合ってくれるようになった。

 クロウの剣は、空気を切り裂く音を奏でながら美しい弧を描く。数えきれない位の時間、きちんと訓練をしてきたことが分かる動きだった。動きを先読みする力、俊敏な動き。剣を振るう時に鋭く光る瞳に、惹きこまれそうになる。


 本気でやったら負けるかもしれないと感じる張り詰めた稽古は楽しかった。ハルのことを殺す気なら、隙をつけばいつでも殺せるだろう。それをしないクロウに、最初抱いていた僅かな警戒心も解けていった。


 ハルと一緒に畑の世話もし、二匹の犬や飼っている動物たちのことも、とても可愛がってくれた。そして極めつけが、いつも嫌と言うほどにハルのことを可愛いと言い、キスをしてくる。


 ヒートで一人苦しむこともなくなった。

 ドロドロに甘やかされて、溶かされるような日々だった。




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