第8話:氷川さんと二人三脚!?
2学期が始まってしばらく経ち、学校は体育祭モードに突入していた。
俺たちのクラスも、昼休みや放課後に練習が行われるなど、いつも以上に賑やかになっている。
そんな中、俺はある問題に直面していた。
ペア競技の相手が、氷川さんになった。
「マジかよ……」
俺は体育館の掲示板を見て、軽くため息をついた。
体育祭ではクラス対抗の団体競技のほかに、いくつかのペア競技がある。
そのうちの一つが二人三脚。
(いやいや、氷川さんって運動苦手じゃん……)
球技が壊滅的だったのはすでに知っている。
あの時のキャッチボールやバレーボールの様子から考えると、二人三脚も苦手そうな気がする。
しかも、俺はクラスメイトの佐藤から、こんな情報を耳にしていた。
「お前、氷川と組むんだって? ……気をつけろよ」
「なんで?」
「氷川、実はめちゃくちゃ運動音痴らしい」
「……いや、それはもう知ってるけど」
「違う違う。ただの運動音痴じゃなくてさ、バランス感覚が壊滅的なんだって」
「……は?」
「前にクラスでリレーの練習やったとき、氷川が走ったら3回転んだらしいぞ」
「……マジ?」
「しかも、50メートル走で」
「……」
(それ、もう走るの向いてなくね?)
俺は頭を抱えながら、自分のペア相手の姿を探した。
すると
「……」
氷川さんが、体育館の隅で立ったまま考え込んでいた。
(……あれ? なんか様子がいつもと違うな)
俺が近づくと、氷川さんはちらっとこちらを見た。
「……相沢」
「よっ。ペア、俺になったみたいだな」
「……うん」
普段と変わらないクールな表情だったが、どことなく気まずそうにも見える。
(……もしかして、不安なのか?)
俺は軽く笑いながら言った。
「運動苦手って聞いてるけど、大丈夫か?」
「……べ、別に」
氷川さんは視線をそらし、そっけなく答えた。
(あ、これ絶対大丈夫じゃないやつだ)
そして、昼休み。
俺たちは早速二人三脚の練習をすることになった。
「よし、じゃあ軽くやってみようか」
「……うん」
俺たちは互いの足首を布でしっかり結び、準備完了。
「じゃあ、せーので歩いてみるぞ?」
「……わかった」
俺が「せーの」と声をかけ、ゆっくりと歩こうとした瞬間――
ドンッ!!
「うわっ!?」
俺たちは豪快に転んだ。
「……いった……」
俺は地面に手をつきながら、隣を見た。
すると、氷川さんも同じように尻もちをついていた。
「……」
氷川さんは無言で立ち上がろうとしたが――
「っ……!」
バランスを崩して、再び俺の方に倒れ込んできた。
「うわっ!?」
俺はとっさに氷川さんを支えたが、結果的に氷川さんが俺の胸に倒れ込む形になった。
(えっ、ちょっ……!)
距離が近い。
というか、密着してる。
ふわっと、氷川さんの髪からシャンプーの香りがした。
そして、腕の中で微かに震えているのが伝わる。
「……っ」
氷川さんは固まったまま、動かない。
(……これ、俺の方が恥ずかしくなってきた)
俺はなんとか冷静を装いながら、
「だ、大丈夫か?」
と声をかけた。
すると
「……こ、これは……」
氷川さんの顔が、みるみるうちに真っ赤になった。
「……な、なんでもない!!」
勢いよく立ち上がろうとするが、まだ足が結ばれたまま。
「氷川さん、待っ」
ドンッ!!
結局、俺たちは再び転んだ。
その後、何度か練習を繰り返したが――
「いち、にっ、いち、にっ……」
「……っ」
3歩歩いて転倒。
「も、もう一回……」
「お、おう……」
2歩歩いて転倒。
そして
1歩目で転倒。
(……これ、本番どうすんの?)
俺は汗をかきながら、必死に氷川さんをフォローする。
「氷川さん、焦らなくていいから、まずリズムを合わせることを意識しよう」
「……わかった」
「いくぞ? せーの、いち、にっ……」
「……っ!!」
ドンッ!!
転倒。
(これは……やばいな)
クールな氷の女王は
実は二人三脚すらまともに歩けない、超絶運動音痴だった。