第50話:放課後、氷川さんとぎこちない空気……!? ひまりがまさかの急接近!
放課後、下駄箱の前で靴を履き替えていると、ちょうど氷川さんと鉢合わせた。
「……あ」
「……あ、ども」
どっちからともなく気まずそうに挨拶して、ふたりとも視線を逸らす。
(な、なんだこの空気……)
バス旅行の帰り道――
あのとき氷川さんが俺の肩に寄りかかって寝てたこと、まだ忘れられてない。
というか、逆に意識しちゃってるまである。
「あの……この前の、バスの中」
意を決して俺が口を開くと、氷川さんはびくっとした。
「よく寝てたけど、大丈夫だった?」
「なっ……!」
氷川さんは顔を赤らめて、わかりやすく動揺していた。
「べ、別にアンタの肩が寝やすかったわけじゃないし! 硬かったし!」
「そ、そうか……うん」
「……でも、アンタが話しかけてくるの、嫌じゃないし……」
(!?)
今の、聞き間違いじゃないよな……!?
そんな風に脳内がパニック寸前だったとき――
「やっほー! 相沢くーん!」
元気いっぱいな声が、廊下に響いた。
「夏川……」
ひまりが駆け寄ってきて、俺の隣にぴたりと並ぶ。
「ねえねえ! 今日さ、クレープ食べに行かない? ほら、前言ってた新しいお店!」
「え、ああ……別にいいけど」
「やった!」
楽しそうなひまりの声と笑顔。
だけど、俺の横にいた氷川さんは、それを無言で見つめたあと――
「……私、寄り道とか興味ないし」
そう言い残して、クルッと背を向けて行ってしまった。
(う、うわぁ……やばい……)
まるで背中に「不機嫌」の文字が浮かんでるかのようだった。
「え、氷川さん今……機嫌悪くなかった?」
「……気のせいだと思う、多分」
「ふーん?」
ひまりはなぜかニヤッと笑いながら、俺の腕を引っ張った。
「ほらほら、行こー!」
クレープ屋のイートインスペース。
俺とひまりは、向かい合って座っていた。
「クレープうまっ! なんか久しぶりだね、こうやって話すの!」
「そ、そうか?」
「そうだよー! 最近、氷川さんとばっかり一緒にいるしさー」
(ド直球来た!?)
ひまりは明るく笑いながら、でもどこか探るように俺の顔を見てきた。
「……ねえ、陽向くん。ひとつ聞いていい?」
「な、なに?」
「氷川さんのこと……好きなの?」
(ふごぉぉぉぉ!!!!!)
心の中で盛大に吹き出した。
「す、すきって、そんな……いや、別に、そういうんじゃなくて……!」
「でもさ、ずっと一緒にいてさ、落ち着くとか言っちゃったりしてさ」
(あれ!? 思ってるより見られてた!?)
ひまりは、ほんの少しだけ口を尖らせて俺を見た。
「……私も、陽向くんと一緒にいると、楽しいけどな」
「へっ……」
「もっと話したいし、もっと近くにいたいって思うよ」
(今の……告白の予兆!?)
心臓がバクバクして、クレープの甘さも吹っ飛ぶ勢いだった。
「ま、でも焦らないから。ちゃんと考えてみてね?」
ひまりはそう言って、笑顔でクレープを一口。
その笑顔に、なんとなくドキリとしてしまった俺だった。
その帰り道。
校門の近くで、氷川さんの姿が見えた。
「……氷川さん?」
「……あ、相沢」
彼女は振り返って、一瞬だけ驚いたような表情をした。
「まだ残ってたの?」
「うん。図書室で読書してた」
そっけなく答えたあと、氷川さんはふと俺に目を向ける。
「……今日は、夏川さんと一緒だったんだね」
(うっ……)
言い方は普通なのに、なんか……ちょっと刺さる。
「べ、別に、ただクレープ食べに行っただけだよ?」
「ふーん」
そのまま、無言で並んで歩く。
途中、氷川さんがふと立ち止まった。
「……ねえ」
「ん?」
「……やっぱり、なんでもない」
「いやいや! なにそれ絶対なんかあるやつでしょ!?」
「し、知らない!」
そう言って、氷川さんは早足で歩き出した。
(なんだよ……可愛いじゃん……)
俺はそんなことを思いながら、彼女の後ろを追いかけた。




