第42話:ホワイトデー前日、氷川さんの様子がおかしい……?
3月13日――ホワイトデー前日。
昼休み。
俺はいつものように弁当を広げながら、なんとなく周囲の会話に耳を傾けていた。
「お前、ホワイトデーどうするんだ?」
「うーん、とりあえずクッキー買ったけど……これでいいのか?」
「いやいや、義理ならそれでいいけど、本命にはもうちょっと気合い入れるべきじゃね?」
「お前、そもそも本命いるのか?」
「……ぐっ」
男子たちは、ホワイトデーのお返しについてそれぞれ悩んでいるようだった。
(まあ、俺も他人事じゃないよな……)
俺はカバンの中に入れてある紙袋をチラッと確認する。
(ちゃんと準備はしたけど……氷川さん、受け取ってくれるかな……)
なんせ、バレンタインのときは「義理だから」とか言ってたけど、どう見ても義理じゃなかった。
でも、本人がそう言うなら、俺も変に意識しすぎるのはよくないのかもしれない。
(……いや、でもなぁ……)
悩みながら弁当をつついていると――
「……相沢」
聞き慣れたクールな声がした。
振り向くと、氷川さんが俺の席の横に立っていた。
「っ!?」
「……一緒に、食べる」
(…………)
(…………えっ!?)
俺は、一瞬で固まる。
(氷川さんが……俺と昼飯を……!?)
いや、今まで放課後一緒に帰ることは何度もあったが、昼飯は別だった。
氷川さんは基本的に一人で食べることが多いし、クラスの女子と食べることはあっても、俺と二人で食べることはなかったはず。
なのに――
「……ダメ?」
氷川さんは、少しだけ俺の顔を覗き込むように聞いてきた。
(お、おいおいおい、それはもう確信犯じゃないのか!?)
俺は心臓の動悸を抑えながら、なんとか平静を装い頷く。
「い、いいけど……」
「……うん」
氷川さんは、俺の向かいに座り、静かに弁当を広げる。
(……あれ? なんか様子が変だな)
いつもの氷川さんなら、黙々と食べるのに、今日は少しそわそわしているように見える。
そして――
「……相沢」
「ん?」
「……ホワイトデー」
(…………)
(…………えっ!?)
俺は思わず弁当を持つ手を止める。
(ま、まさか、向こうからその話を振ってくるとは……!!)
氷川さんは、弁当の中身をじっと見つめながら、小さく続けた。
「……お返し、する?」
「えっ?」
「……バレンタインの……」
(…………)
(…………あれ!? なんかいつもと違って、めちゃくちゃ意識してないか!?)
いや、普通こういう話って、あげた側が気にするんじゃなくて、貰った側が気にするもんじゃないのか!?
(ていうか、氷川さん、もしかして……お返しを期待してる!?)
俺は氷川さんの横顔をチラッと見る。
普段は冷静な彼女が、今日はなんだか落ち着かない様子で、何度も弁当の中身をつついている。
(……やっぱり、気にしてるんだな)
俺は、少し意地悪な気分になりながら、あえて軽く流すように答えてみた。
「うーん、どうしようかな?」
「っ!?」
氷川さんの箸が止まる。
そして、俺の方を見て――
「……いらない」
と、そっぽを向いた。
(うわっ!! めっちゃ拗ねてる!!)
いやいや、お前、それもう「本当は欲しい」って顔に書いてあるやつじゃん!!
俺は笑いをこらえながら、ゆっくりと口を開く。
「まあ、ちゃんと用意してるけどな」
「っ!!!」
氷川さんの肩がピクッと動く。
そして、耳まで真っ赤にしながら――
「……そ、そっか」
と、小さく呟いた。
(……お前、それもうデレてるのと同じだからな!?)
俺はニヤけそうになるのを必死に抑えながら、弁当を食べ続けた。
昼休み終了後。
俺が片付けをしていると――
「おいおい、相沢」
佐藤と田中が、ニヤニヤしながら近づいてきた。
「お前、さっき氷川さんと二人でメシ食ってただろ?」
「いや、まあ……」
「えっ、なにそれ、いつの間にそんな関係になったの?」
「だから、そんな関係じゃ……」
「いやいや、もう認めろって」
「ホワイトデー前日にあんな雰囲気出されて、気づかないとか鈍感か?」
「っ!!!」
俺は思わず口をつぐむ。
(いや、でも……)
確かに、今日の氷川さんは明らかにお返しを気にしていた。
バレンタインのときとは違い、明らかに「自分がどう思われているか」を意識している感じだった。
(……なんか、いよいよヤバいところまで来てる気がする)
俺はそんなことを考えながら、氷川さんの背中をちらっと見た。
(……まあ、明日、ちゃんと渡せばいいか)
こうして、俺はまた一つ、氷川さんの新しい一面を知ることになった。
クールな氷の女王は――
ホワイトデーのお返しを気にして、そわそわしてしまう、最高に可愛いツンデレになっていた。




