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氷川さんはツンデレすぎる。  作者: 恋する豚共の紙
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第3話:氷の女王の威厳、崩壊の危機!?

昼休み。


 俺は教室で弁当を広げ、隣の佐藤と田中と適当に喋りながら食べていた。

 そして、その話題の中心は


「なあ、お前ら聞いたか? 氷川、球技めっちゃ苦手らしいぞ」


 田中の何気ない一言に、俺は思わず箸を止めた。


(……いや、噂になるの早くね?)


 確かに体育の授業中、氷川さんの球技音痴ぶりはそこそこ目立っていた。

 投げる方向は定まらないし、キャッチミスも多い。

 正直、「氷の女王」という異名が泣くレベルだった。


「でも意外だよなー。氷川って何でもできそうなのに」

「だよなー。頭もいいし、動きもスマートな感じなのに」

「やっぱ運動音痴って萌えるよな」


「……お前、今の発言は危険だぞ」


「いやいや、だってあのクールな氷川がさ、あたふたしてるの想像すると可愛くね?」


「……まあ、それはちょっとわかる」


 俺がそうぼそっと漏らした瞬間、


「は?」


 背後から低い声が響いた。


(……あれ? この声、どこかで――)


「なにが可愛いの?」


 振り向くと、そこには腕を組んでこちらを見下ろす氷川さんの姿があった。


 無表情だけど、目がほんの少しだけ冷たい。

 その圧に、俺たちは一斉に口をつぐんだ。


「……で?」


 机の上に手を置き、こちらをじっと見つめる氷川さん。

 どうやら俺たちの会話をバッチリ聞かれていたらしい。


(……終わった)


 そんな俺の心境とは裏腹に、佐藤はニヤニヤしながら口を開いた。


「いやー、氷川って球技苦手なんだなーって話をしててさ」


 おい、火に油を注ぐな。


「…………」


 氷川さんは、じっと佐藤を睨んだ。

 しかし、何も言い返せずに口をつぐむ。


 そして――


「……別に、苦手じゃない」


「え?」


 俺たちがポカンとする中、氷川さんはあくまでクールに言い放った。


「ただ、ちょっと調子が悪かっただけ」


「……えっと」


 確かに氷川さんは成績優秀で、基本的には何でもできるタイプに見える。

 でも、体育の授業を見た限り、球技が得意とは思えない。


「なら、明日もう一回やってみれば?」


 その瞬間だった。


「お、それいいじゃん!」

「今度の体育、バレーボールだし!」


 教室のあちこちから賛同の声が上がる。

 誰もが興味津々な様子で氷川さんの反応を待っている。


(やばい……! 逃げ場がなくなってる……!)


 俺がそう思った瞬間


「……いいわよ」


 氷川さんは静かにそう言い、すっと視線を逸らした。


「どこからでもかかってきなさい」


 そう言い残し、彼女は教室を後にした。


(……マジかよ)


 俺は思わず頭を抱えた。


 こうして、氷の女王 vs クラスメイトたちのバレーボール対決が決まってしまった。


 


 翌日、体育の時間。


 俺たちは体育館に集まり、バレーボールの練習を始めていた。


「それじゃあ、2対2のミニゲームをやるぞ」


 体育教師の号令で、クラスメイトたちはそれぞれペアを作っていく。

 そして、俺のペアは当然のように


「……よろしく」


 氷川さんだった。


(いや、大丈夫なのかこれ……)


 昨日のキャッチボールの時点で、球技のセンスが絶望的だとわかっている。

 でも本人は強気な態度を崩さない。


「とりあえず、俺がフォローするから」


「別に、いらない」


(いや、必要だろ)


 そう思いながら試合が始まった。


  が、開始3分。


 俺の予想通り、氷川さんのバレーボールスキルは壊滅的だった。


「……っ!」


 相手チームが打ったボールを受けようとするが、うまく手が合わずにボールはまっすぐ顔面へ。


 パスッ!


「わっ……!」


 ボールが直撃し、氷川さんはその場で崩れ落ちる。


「氷川、大丈夫か!?」


 俺が駆け寄ると、彼女は無言で立ち上がり、制服の袖でそっと顔を覆った。


「……見ないで」


「え?」


「……恥ずかしいから」


 そう言って、顔をそむける氷川さん。


(……やっぱり、めちゃくちゃ恥ずかしがってる!?)


 普段のクールな彼女からは想像もつかないほど、耳まで赤くなっている。

 体育館中の視線が集まり、彼女はさらに縮こまるように顔を隠した。


(これは……相当ダメージ受けてるな)


 俺はふっと息をつき、ポンと氷川さんの肩を叩いた。


「大丈夫、気にするなって。球技苦手な奴なんてたくさんいるし」


「…………」


「それに、そんなに恥ずかしがることでもないだろ?」


 俺がそう言うと、氷川さんはちらっとこちらを見た。

 ほんの一瞬、戸惑ったような表情を浮かべ


「……バカ」


 と、小さくつぶやいた。


 その声は、なんとなく少しだけ優しかった。


(……なんだろうな、この感じ)


 昨日から何度か感じていたが、氷川さんはただの「冷たい美少女」ではない。

 クールに振る舞っているだけで、本当は感情を隠すのが下手なだけなのかもしれない。


「……もう一回やる」


「え?」


「このまま終わるのは、いや」


 そう言って、氷川さんはボールを手に取った。


 瞳には、いつもの冷たい表情とは違う、少しだけ悔しそうな光が宿っていた。


(……こりゃ、まだまだ面白くなりそうだな)


 俺はそう思いながら、氷川さんと再び試合に挑むことにした。

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