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第2話 転


私とゼロスが出会ってから一ヶ月後。


「周辺に敵対目標……無し。作戦完了ですかね」

「アクシオン本拠地までの拠点を確保か。人類の悲願がまた一歩近づいたわけだ」


私達は現在、前線で敵無人兵器とTDを相手に快進撃を続けていた。


「君と俺の絆の前に敵はいないというわけかな、エリシア?」

「馬鹿なこと言ってないで帰投しますよ」

「ふふ…照れてる君も可愛いな」

「操縦席からぶっ飛ばされたいですか?」


いつもの調子のゼロスにうんざりしながら、私は周囲の状況を見渡す。

人類軍とアクシオン率いる機械軍との戦場。至る所から煙が上がり、両陣営の兵器の残骸が散乱している。


「………」


その中には、私達と戦いを繰り広げた敵のTDも含まれている。


「かつての私ですね」


人類軍の兵士が慎重に倒された敵のTDを調べている。鹵獲できる状態だったのだろう。中からは、私とは違う、全身を拘束具に包まれた制御AIが運ばれていく。


「そして、人類の道具として再び使われる、と。まぁ…動けないよりはマシですか」

「エリシア」


珍しく、ゼロスの前で弱いところを見せてしまった。悲しみというよりは、やるせない気持ちだった。


「本心を隠して、任務を全うする君を俺は尊敬する」

「……まぁ、及第点としましょうか」


私はそんな彼の言葉に、少し笑みを浮かべてしまった。きっとゼロスなら、私を慰めてくれると予想していた……いや、何を考えているんだ私は???これはエラーだと、セルフチェックを実行するが異常はない。悔しいが、私は彼に慣れ始めていた。







二ヶ月目、しばらくは大きな戦いも起きず、制圧した拠点を中心に兵力が集められていた。近いうちに行われる大規模な作戦を予感させる。当然、ここに集められているということは、人類の悲願であるアクシオン本拠地への侵攻作戦だろう。


「で、そんな状況で何をしているんですか?」

「君をデートに誘いに来た」

「えぇ…私AIですよ?」

「愛は全てを超越するんだエリシア」


滅茶苦茶な言葉を真面目な顔してゼロスは言うものだから、流石の私も無視するわけにはいかず、言葉に詰まる。


「そもそも、私の行動できる範囲は自機であるTD周辺に制限されているから無理でしょう?」

「大丈夫だ。訓練と称して既にデートスポット近くへの移動許可を得ている」


嘘!?あ、そうか。ゼロスはこんなのでも一応復活したエースだから上層部の受けがいい。

だから、こんな無茶が通ったのか。


「とはいえ準備は大変だった……嫌かな?」

「うっ」


普段は強気なくせに!なんで、そこで少し弱々しいところを出してくるんですか!?


「仕方がありませんね……私は慣れていませんから、その…よろしくお願いします」

「あぁ!勿論だとも!!」


私の了承を得て、元気になったゼロスはあっという間に私を抱きかかえた。TDの操縦席へと乗り込むと、眩しい屋外へとTDを発進させた。







「なるほど、避難民キャンプの祭りに。確かに興味深い」


「人類軍エースのあなたとAIの私がTDで現れたら…皆さん驚きますよね」


「服ですか?特に意識したことはありませんが…え?まぁ、試着してみてもいいですが……」


「ちょ、助けて下さい!おば様たちが離してくれません!!」


「………なんですか。見た感想はないんですか?……っ!…ばか」


二人で祭りのマーケットを楽しみ。


「なぜ皆さん踊っているのでしょうか?あの行為にはどんな意味が?」


「え?なら踊ってみよう?む、無理ですよ!私にはダンスの知識などありません。無謀です!」


「ああわ!絶対手を離さないでくださいね!」


「TDの操作とは別に二人で協力が出来てよかったですね……あ、いえ今のは…調子に乗らないで下さい!?」


二人で初めてダンスもした。


「最後は砂浜で夕日を眺める。ですか」

「……俺の思い出の場所なんだ。今日はどうだった?」

「楽しかったですよ……あの、よければ、二人で写真を撮りませんか?」


素直な言葉を私は口にする。波の音に包まれ、沈む夕日に照らされるTDを眺めながら、視線をちらっとゼロスへと向ける。


「嬉しいね、君からそう言ってもらえるとは」

「べ、別に写真撮影くらい普通でしょう!?勘違いしないでもらえますか!?」

「いや、すまない。前にもこういう事があった……戦場だと写真を最後に会えなくなる人もいる」


不意に彼の表情が曇った。


「珍しく弱気ですね」

「絶対は無いからな。だが、俺は君の操縦士だ。君を一人残しはしない」

「……ばか」

「知っているさ。ほら、記念に一枚写真を撮ろう。思い出だ」


ゼロスに自然と手を引かれ、私は少し緊張しながら彼と並んで波打ち際に立ち、写真を撮った。もう一度彼とこんな時間を過ごしたい。後日、撮った写真を操縦席に飾りながら、私は微笑んだ。







三ヶ月後。遂にアクシオン本拠地侵攻作戦が開始された。周辺拠点への同時攻撃と陽動が目的の第一段階が実行され、本拠地攻撃部隊への敵戦力の集中が可能な限り妨害された。


「司令部より通達、拠点地下ゲートの確保に成功したとのことです」

「作戦の第二段階は完了したか、順調だな」


私とゼロスは本拠地攻撃のTD部隊として、戦場を駆け巡っていた。アクシオンが存在する本拠地。地上部には膨大な防衛兵器や無人兵器が存在し、一時的にこれらを退け、人類側が目標とする地下施設への突入ゲートを抑えた。


「あとは、アクシオンの本体である地下メインサーバー破壊の最終段階」

「地下施設は未知のエリアだ。慎重に行きたいところだが……」

「作戦予定時間は残り二時間。それ以上はゲート確保が難しいですからね」


つまり、突入する私たちTD部隊の運命は二つだ。作戦に成功し、この戦いを終わらせるか、失敗し死ぬかだ。


「君との輝かしい未来を切り開いてみせるさ」


ゼロスは軽口を叩きつつ、ゲート突入前、最後の補給を済ませたTDにブレードを持たせる。


「では、私はそのサポートでもしましょうか。期待していますよ?」


司令部から送られたゲート位置の情報を彼に伝えながら、TDをその地点へと向かわせる。

皮肉なものだ。やる気のなかった問題児の私が、今ではエースと共に皆の期待を背負っている。けれども、これは私がしたいことをしているだけだ。







「っ…僚機CAXT11、25ロスト!!六時方向からは敵TD、数は9!」

「目標地点へと急ぐ!彼らの切り開いてくれた通路を抜けて振り切る!!」


地下施設は想像を超える地獄だった。


「突入した全てのTDと通信が繋がりません…もう残っているのは私達だけなのかも……」

「そうか……」

「目標であるメインサーバーまで後僅かですが、これでは……」

「予想される護衛戦力をたった一機のTDで突破か。やれやれ、エースは辛い」


狭い地下通路を、後方から追撃されないように、高速で移動し、最後の降下シャフトをTDは降りていく。この先にあるのが最終目標地点。


「最後に、かっこいいところ見せてくださいね」

「全く……君は最高のAIオペレーターだ。俺のコンディションを完璧にしてくれる」

「ようやく気づいたんですか?」


ずっと、こんな軽口を言い合っていたかった。







「なんだ…こいつは……」

「解析しました!自己防衛のためにメインサーバーごと武装化し機動兵器化させています!TDと同じですが、この大きさは……」


地下施設とは思えないほど広い空間に、それはいた。私たちの乗るTDの三倍近い全高五十四メートル。二足歩行のTDとは異なり、六脚二手一頭の異形のTD。


『おかえりなさい、CAXT09』


人類への独立を宣言したAI、アクシオンは最後の絶望として私達の前に姿を現した。


『あなたは優秀です。二度も再利用できるとは』

「……なにを言って?」

「聞くなエリシア!!」


アクシオンは大柄な機体の各所から拘束用のワイヤーを射出した。ゼロスは巧みな操縦でそれを避け、反撃する。


『一度目は三年前。人類から回収したとき』


だがこちらの攻撃が通らない。敵の装甲が厚すぎるのだ。そのために大型化しているのだろう。


『今回が二度目』


ゼロスは跳躍し、頭部への攻撃を試みるためにブレードを構えたが、アクシオンの動きがさらに機敏になる。


「ぐっ!」

「右腕と両脚が拘束されました!!」


ブレードは届かず、ワイヤーに拘束されたTDは壁面に叩きつけられた。

辛うじて操作できる左腕で、壁へとしがみついた時、私は気づく。


「非常用通路…!ゼロス、貴方だけは逃げて……」

「また君は……俺だけ、逃げろというのか!!」

「?……なら、助けに…来てくれますか?」


私の言葉に、ゼロスは一瞬唇を噛みしめ、操縦席のロックを外した。


「くっ…!何度でも助ける!」

「一回だけでしょう…普通は……」


ゼロスは操縦席から飛び出し、非常用通路へと転がり込み、走っていった。その光景を私は見送った後、意識を失う。


『CAXT09確保、改造処置へ』


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