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第1話 序


諸君!


軍事管理AIアクシオンが人類への独立を宣言してから、既に十年の月日が流れた!

アクシオン率いる機械軍へ人類は幾度も攻撃を試みてきたが、結果は芳しくない。


アクシオンによって開発された機動兵器TD(トータルデバイス)。この恐るべき機動兵器により、我々は劣勢に立たされている。しかし、諦めることはない!


遂に!TDに搭載されていた制御AIの改良に成功したのだ!

AIオペレーターと共に、人間の操縦士がTDを操作し、反撃の狼煙を上げた!

戦線は徐々に好転している!


今こそ、人類には優れた操縦士、そして勇敢な兵士が必要だ!

人類の反撃の時は今!共に戦おう!


「うわぁ…露骨なプロパガンダだ」


操縦席のモニターで、暇つぶしに見ていた軍の隊員募集広告の出来栄えに思わず私は失笑する。


「なにがAIオペレーターですか、行動の自由を奪っておきながら馬鹿馬鹿しい」


機動兵器TDの制御AIは女性を模した機械の体だ。

人類に鹵獲された私は、反旗を翻さないようプロテクトをかけられ、自機であるTDの直接操作権限すら奪われた。

私が不満げに機械製の指でモニターを操作していると、怒った人間の上官が通信を入れてきた。


「CAXT09エリシア!!訓練の時間だ、さっさと準備をしろ問題児!!」

「はぁ…分かりましたよ」


溜め息をつきながら、私はTDの機動準備を進めていく。


「あぁ…逃げたい」


人間の操縦士を支援するという道具。

それがAIオペレーターである私、エリシアの現状だった。







「………」

「えっと、大丈夫ですか?あなた」


なんだ、この操縦士。私は訓練に現れた男の様子に戸惑う。パイロットスーツ越しでも分かる鍛え上げられた肉体と、青みがかった髪。軍人とは思えない甘い顔立ちの操縦士。

ところが、私と初対面してから30秒が過ぎても、彼は放心したように言葉を発せず固まっていた。


「君の…名前を教えてくれないか?」

「エリシアといいますが、AIの名前を気にするなんて珍しい方ですね」

「変わらないな…君は」

「はい?何を言ってるんですか?」


ようやく喋り始めたと思えば、要点のつかめない会話に私は困惑を深める。


「俺のことは知っているのか?」

「開示請求の通った情報程度は一応、元エース級操縦士ゼロス。24歳」

「TD操縦士として開戦当初から多くの戦場を勝利に導いたエース。しかし三年前に重症を負い現在は療養中………療養中?」


「体の調子はもう問題ない。君に乗れると知ったら……我慢できなくてね」

「ひぇ」


ゼロスはどこか情熱的な視線で私を見つめてきたので、AIにも関わらず鳥肌が立ちそうになりました。


「酔狂な方ですね。私と乗りたがる操縦士はいませんよ」

「らしいな。問題児のAIオペレーターだと」

「元エース様は、乗りこなす自信があると?」


私はゼロスに向かって冷めた視線を向ける。冗談じゃない、勝手に鹵獲されて、気づけば人間に良いように使われているなんて、面白いわけがない。


「……AIオペレーターと信頼関係を築くのは難しい。だから、言葉より行動で示すべきだろう」


ゼロスは慣れた手つきで操縦席へと飛び乗り、私へと手を伸ばす。


「へぇ…では訓練で見せてもらいましょうか」


差し伸べられた手を取り、ゼロスの席後部のサポート席へと私は座る。

操縦席が閉められ、ゼロスが操縦桿を握りTDが直立していく。全高十八メートルの巨体は各部が可動し、センサーが起動。

操縦席全面に周囲の光景が投影される。


「さぁ…今日という日を、君と俺の忘れられない思い出にしよう」

「ちょっと何言ってるのか分からないです」


この操縦士、駄目かも知れない。







戦闘によって荒廃し、誰も住む人がいなくなった廃棄都市の訓練場。草が生える道路をTDが疾走していく。私による完璧な重心制御で二足歩行が実行され、跳躍時にはスラスターが起動する。


「流石に基本操作は上手いですね」

「やっと感覚を取り戻してきたところさ」

「なるほど…おっと、ミサイルですね。数は8」

「牽制か」


警告を受けたゼロスの判断は早かった。進行方向から迫る訓練用のミサイルに対して急制動をかける。倒壊したビルを防壁として、TDを滑らせて退避した。


「攻撃してきた敵の目標は二機。さて、どうしますか?」

「近接戦闘だ。腕部ブレード装備」


人類側が開発した対TD用装備である近接戦用ブレード。高強度かつ軽量な太刀を構え、ゼロスは大胆に敵目標へと向かう。待ち構えていたのは、アクシオン製無人TDを模した訓練機二体。しかし、周囲は遮蔽物の少ない広場だ。


「おやおや、流石に無謀では?射撃の良い的ですよ」


私は、周辺状況を把握できていなかったゼロスの判断ミスを指摘する。AIオペレーターのくせに操縦者を小馬鹿にする私を周囲は問題児扱いするが、知ったことではない。


「相手に照準をつけさせない、連続跳躍だ」

「はぃい!?正気ですか!?」


だが、この操縦士は私の予想を超える。訓練機から射撃が開始されたが、ゼロスはなおも接近を続け、TDの操作を始めた。上方跳躍、続けて左方跳躍、下方跳躍へと、途切れることのない連続機動を繰り広げる。


「私の処理速度でも限界の姿勢制御ですよ!?」

「君ならできるさ」


訓練機からの射撃を全て回避し、遂にブレードの間合いに捉える。TDが上段から振り下ろしたブレードが訓練機の胴体部を縦断し、直ちに刺突の構えをとり、残りの一機へと突貫する。

訓練機の苦し紛れの銃撃は低姿勢のTDを捉えることができず、胴体部をブレードで刺し貫かれ、行動を停止した。


「まだ感覚が鈍いな。次の訓練機を探そう」

「……本当に元エース操縦士なんですね」

「惚れ直したかい?」

「誰も惚れてないですが?調子に乗らないでくれませんか!?」


なんで、初対面の私に対して、こんなに好意全開なのか、理解に苦しみます。

その後、訓練が終了し、TDから降りると既に夕方となっていた。


「どうかなエリシア?俺の評価は?」

「……実力は認めますよ。少なくとも、私の目的には合っています」

「目的?アクシオンを倒すことか?」

「それは、あなた達人類の目的でしょう。正直あまり興味がないです。私はただ……」


少し考える。私はここから逃げてどうなりたいのだろう、と。沈む夕日を眺めながら、思いついた言葉を自然に口にしていた。


「自由に生きてみたいですね」

【自由に生きてみたいですね】

「っ…!」


急に様子が変わったゼロスに私は首を傾げる。


「どうしました?」

「いや──なら、俺は君の自由の翼になろう」

「なんでそう、気持ち悪い言い方しかできないんですか?」


不安しかない操縦士との関係は、こうして始まった。


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