第二節: curse and gift
ヘブンの街中を歩いて気づいたのは、亡命者やならず者がいる街にしては治安が安定していること。
街にいる人間にかかわらずに治安自体は安定しているのがある意味不思議で仕方なかった。
しかし、未だ見られている感覚が離れず、俺は街中を足早に歩いていた。
「そこの男、うちの店、こい」
唐突に声を掛けられ焦る。未だに顔はボロ布で覆っているが、ばれたのではないかと考えてしまう。
「俺に、言っているのか?」
「お前に言ってる。店こい。拒否権なし」
「拒否権ないのかよ」
カタコトで話しかけてきた黒いコートを羽織った人物。顔もフードで隠しているせいで性別もわからない。そして、怪しい案内看板を持っている。
……怪しさの塊でしかない。俺は頭を掻きながらその場を去ろうとした。
「俺は先を急いでる。胡散臭い店に要はない」
「もう一度いう。拒否権は――ない!!」
唐突に看板を投げつけてくる。
俺は看板をギリギリで躱し、黒コートの人物をとらえようとした。
しかし、自分の認識できる速度を超えて動き、視界にとらえることができない。
「遅い。ニアについてこれない。弱い」
「なんだと!? うわっ」
背後から声が聞こえ、ぼろぼろの剣を振るう。しかし、黒コートの人物はその剣を短剣で受け流し適格に急所を狙ってくる。
「まさか、闇ギルド?」
「回答、正解。私たちは必要悪」
「闇ギルドが俺になんのよ――痛っ!!」
黒コートの短剣が腕に刺さる。
もう片方の手にも短剣があり今にもそれを振り下ろそうとしていた。
その瞬間。
自分のうちから黒い何かが全身を駆け巡った。
刺さった短剣から黒コートにその何かが渡り、動きをとめさせる。
「これ、何? うご、けない」
「俺は死ぬわけにはいかない。まだ、死ぬわけには!!」
俺の感情に呼応してその何かが黒コートを覆い絞めていく。
「だから言ったのに。やりすぎるなって」
その一言と共に俺と黒コートの間に男が割って入る。
「大神の鎌よ、『デリートミスト』」
その男がいうと何かが俺の方に戻っていき、黒コートはその場で膝をつく。
男はそれを確認すると俺の方に向かって笑いかけ、話始めた。
「うちのものがごめんね。君を案内するように言ったんだけど……。まさか喧嘩売るとは思わなかったよ」
「お前、そいつの仲間なのか」
「まぁそんなものかな? 手荒な歓迎をしてしまったね。僕の名前はマルコム。必要悪をまとめているものだよ」
「闇ギルドが俺に何の用なんだ」
「情報を提供しようと思って。ついでに勧誘かな」
マルコムと名乗った男は怪しく眼鏡を光らせていた。
【闇ギルド 応接室】
俺はソファーに座り、目の前にマルコムが座る。黒コートはギルドについた後、救護室的な場所に放り込まれていた。もちろん、言葉通りに。
マルコム曰く
「彼女は頑丈だからね」
らしい。あの黒コート、女だったのか。
「さて、改めて詫びるよ。うちのニアが君に失礼をしたね。エイドリアン・クリムゾンハート皇子?」
「俺のことは知ってるんだな」
「もちろん。現在皇国は大混乱。皇子が禁忌になり、神託によって新王が戴冠。さらには新王に新しい婚約者。シルヴァナリアは大変だね」
「新王が、戴冠?」
それも知らなかったんだと言いながらマルコムはお茶を入れる。
お茶と一緒に渡してきたのはシルヴァナリア内の新聞だった。
そこに書かれていたのが、
『イザベラ・サンダーウッド戴冠! 婚約者はツカイ・ステノーコマ侯爵』
だった。
「イザベラが戴冠…? 何故!」
父が失脚したとかそれよりも。
何故俺の婚約者であるイザベラが王に? しかも婚約者って……。
「皇子にとっては苦しい話ですよね。あんなに仲が良かった婚約者が自分を待たずして別の婚約者を得たのだから」
「こ、これは何かの間違いなんじゃないか!」
「残念ながら、シルヴァナリアの人から直接貰ったので。すべて現実です」
そんな馬鹿な。
嘘だと信じたい。
「あと、皇子。貴方に一つ言っておかなければいけないことが」
「これ以上に、なにを言うってんだ」
「あなたは今、ギフトを得たことで呪われています」
「なんだと」
「鏡で自分を見てみてください」
そう促された鏡の前に立ってみるとそこには。
顔にまるで蜘蛛のような模様が浮かび上がっていた。
以前王城にいたときに見たことがある。どんな術者でも制御ができなかった災厄の呪い。
禁忌に侵された証明。
「本当に、俺は禁忌になってしまったんだな」
「皇子の得たギフト。いや、世界のリセット機構というべきものですかね。それの性質はほかのギフトとは明らかに違いますから」
「リセット機構?」
聞きなれない言葉に俺は首をかしげる。
マルコムはそれに対し一瞬あって顔をすると笑いながら話した。
「リセットが聞きなれてなかったですか。言い換えれば、世界をやり直すってことですよ」
「世界をやり直す?」
マルコムはうなずくと本棚に向かい、そこで本を探しながら言った。
「伝承でしかないですが、過去に二度世界はやり直されてます。その時に必ず現れるのが皇子のギフトと呪い」
「二回も……」
「そしてこれは神が設けた最後の審判。運命を宿した人にギフトと呪いを与えて、世界をやり直すか存続させるかを選択させる」
確かに、アウローラとノクターンは似たようなことを言っていた。
このギフトがそれを導くと。
「言い換えれば当人がやり直す必要がないと思えば、皇子から呪いとギフトが消えて元通りってわけなんですが。残念なことにそのギフトがある時点で大きなことが起こるのも伝承にあります。皇子あなたは世界から選ばれたのです」
マルコムは伝承を読みながら言う。
本を棚に戻しながら、マルコムはソファに座った。
「さて、改めて勧誘です。ギルドに入りませんか?」
「俺は、犯罪者になるつもりはない」
「残念なことに私たちは犯罪者ではありません。傭兵ギルドが守るために盗賊を殺すように、僕らは世界の均衡を保つために、悪をもって悪を征しているのです」
だとしても。
無意識に握っていた拳がさらに強くなる。
「一応言っておきますが、このままいけば何も為せないまま終わりますよ」
「……。わかっている」
「それに、裏切り者には復讐を。いかがですか?」
「復讐だと?」
「えぇ、だってよくわからないギフトのせいで禁忌扱い、さらには婚約者はさっさと新しい男を作って王様に君臨。しかも死刑についてもあなたの婚約者が――」
それを聞いたときに俺の中の最後の何かが壊れた気がした。
「あいつが?」
俺が聞くとマルコムが少し嗤い答える。
「えぇ、あなたの婚約者が」
「……。いいだろう。復讐のために利用させてもらう」
「えぇ、ご存分に。あなたの為すことは誰もが悪だと言っても未来では正義的行いですから」
俺は窓に映る自分の呪われた姿を見ながら誓った。
神に言われたことの前に、俺は国に復讐すると。
――――
――
愛国心が深い人間ほど、裏切られたときの憎悪は計り知れない。
なんて、よく言ったものですね。
こうも簡単に堕ちてくれるとは。
「こちら、代表です。どうぞ」
「****殿、息子はどうなった」
「えぇ、無事保護いたしました」
「かたじけない。私も少ししたらそちらに合流する」
「承知いたしました。王族向けの部屋、用意しときますね」
冗談交じりに返答し連絡を切る。
「さて、今回はどう頑張るのでしょうね。皇子」
続
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