第二節: 亡命の旅路1
王都を抜けてから三日たった。
街道に出るのは指名手配されている可能性を考え、道なき道をかき分けて俺は進んでいた。
「俺、やっぱり良い生活してたんだな。風呂に入れないだけでこのにおい……」
自分から発せられる汗や土などの匂い。正直鼻が曲がりそうだったが今はそうも言ってられない。
時折遭遇する魔獣から身を守るため剣を振って倒してきたが、すでに剣は刃こぼれを起こし今にも折れそうだった。
「そろそろ小さな町にでも行かないと亡命どころじゃないな……」
一人でいることが少なかったせいかつい独り言をこぼしてしまう。
生まれてから一人になることがなかったためにこの孤独というものに慣れることはないのだろう。
しかし、その孤独がどんどんと自分の中で焦りとして現れるのが怖かった。
しばらく歩いていると、視界が急激に開けて街道に出た。周りを見てみると左手側に少し大きな街が見えた。
「背に腹は代えられない。そろそろ物資を補給しなきゃな」
森で拾ったボロ布を頭に被り、俺は街に足を進めた。
街の入り口にまでくると門衛がおり、入場審査をしている。
さすがというべきか門衛のガタイは素晴らしいというしかない肉体を持っており、無理やり入ろうと思わなくなるものだ。
「次の者、前へ」
「は、はい」
自分が呼ばれたので門衛の前に立つ。
いざ目の前にするとその体の大きさが際立つ。
……いや、これは明らかに大きすぎる気がする。俺もそこそこ身長はあるはずだが筋肉のせいだろうか?
なぜか自分の倍の身長のように感じてしまう。
「名前と身分、街への入場理由を」
「名前は……、エイド。ただのエイドだ。身分は平民。旅の途中で物資の調達のためにこの町に来た」
「そうか、なにか身分を証明できるものは?」
「すまないがない」
「うむ……そしたら犯罪烙印がないかだけ確認させてくれ。その布はとれるか?」
「……わかった」
顔を見られたら最悪捕まってしまうかもしれない。俺は恐る恐る布をとった。
門衛の顔が少しきつくなりこちらを見ている。
「お前、まさか」
「……」
たのむ。見逃してくれ!!
「その顔の汚れひどいじゃないか。早めに宿に行って休むといい。犯罪烙印も確認されなかった」
「あ、あぁ。ありがとう」
「ノクシリウム帝国の門街、闇の天国へようこそ」
帝国の端、国境沿いにあるヘブン。いろんな国の亡命者やならず者、果ては犯罪ギルドがあふれる街。ここなら捕まることは無いと踏んで来てみたが。
やはりこの街自体が異様な雰囲気だ。古びた街並みは本来観光地としてもよかっただろうに。街の住人のせいかそれすらも異様に感じてしまった。
「早いところ安全な宿と物資を補給しなきゃな……」
思わず独り言をこぼす。ため息をついて歩き出そうとしたその時だった。
だ れ か に 見 ら れ て い る 。
門衛には気づかれなかった。並ぶ人たちが俺を見ても何も言ってこなかった。いますれ違っている人たちですら俺に見向きもしない。なのに。
形容しがたい恐怖が俺を襲った。
皇国には不始末や謀反を行おうとした貴族に暗部を仕向けることはあった。しかしそれはすべて確証を得ていたから。しかし、この刺すような視線は暗部よりも鋭い。
まるで袋小路に追い詰められて死が迫る感覚。
あまりの恐怖に体が震える。
「早くしなきゃ」
この独り言が治ることはないだろうと感じながら恐怖を押し殺し俺は街の中に進んでいった。
――――
――
「報告、ターゲット発見。これより尾行および誘導を行う」
『報告了解。間違っても殺さないように。その人は僕たちの希望だからね』
「手を抜く、難しい。全力の方が楽」
『彼はまだ力に目覚めて間もない。絶対に殺すなよ?』
「念を押されたらしかたない。しばらくの辛抱」
『……辛抱したところで殺させないからね?』
「ボスはケチ。たまにはわがまま、聞く」
黒い影がエイドを見ながら魔動機を使って話し終えると、エイドを追うため屋根の上を駆け抜けた。
その手にはなぜか……案内看板をもって。
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