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三題噺もどき2

げんかい

作者: 狐彪

三題噺もどき―さんびゃくななじゅうよん。


※そういう表現はないけど一応注意※

 


 視界の隅で光が点滅した。

 何かと思えば、スマホの通知だった。

 どうでもいいなと心底思い、視界の中から外す。

「……」

 寝台のある一つの部屋。

 まぁ、住んでるこの家にはこの部屋と、狭いキッチンとリビングがあるぐらいで大した広さはない。1人暮らしには少し広すぎたかもしれない。

 その上、仕事をしているこの身ではたいしてここに居ることもないのだ。

 いや、寝台があるこの部屋はこの家の中で比べれば、一番時間は長いのかもしれない。

 ―とはいえ、仕事をしている時間に比べたら、大した時間はここに居ない。

「……」

 あぁ、でも。

 今日からは一番この部屋にいることになるかもしれない。

 キッチンよりも、リビングよりも、仕事先よりも。

「……」

 寝台と、棚が一つあるだけの部屋。

 服は備え付けのクローゼットに全部仕舞い込んでいる。大した量はないので、事足りている。

 棚の上には、数個のインテリアが飾ってある。

「……」

 仕事に就く様になる前に、興味本位で集めていた骨格標本である。

 そう言えるほど立派なものなのかは分からないが、一応標本と書いてあったので、そうなのだろう。

 どちらかというと、ライティング的な役割の方が大きい気もするが。

「……」

 青と、紫の、ぼんやりとした光の中。

 透明な液体が、光の色に彩られている。

 その中で、骨になっても尚、生かされている生き物。

 骨は本物ではないだろうけど、それでも美しさはある。

「……」

 全ての骨格標本が、海の中の生き物であると言う共通点でくくられているのが、私の趣味の現れだったりする。あぁ、でも、こういうのってやっぱり魚が多いよな。

 暗い部屋では、光の効果もあってか、美しさが倍増している気がする。

 それをぼうっと眺めるのが、私にとっての癒しとなっている。

「……」

 だから今もこうして、ぼうっと。

 部屋の電気を消して、カーテンを閉じて、棚の生き物たちを眺めている。

 これからもずっとこうしていていいのかと思うと、少しうれしくなる。

「……」

 突然、何かが振動するような音が聞こえた。

 何かと思えば、またスマホの通知だ。

 違いといえば、さっきのはメールで、今のは電話という点だろうか。

「……」

 これもまた、心底どうでもいいと思い。

 意識の外に追いやってみる。

 しばらく震えていたようだが、すぐに収まった。

「……」

 その瞬間。

 どっ―

 と。心臓が跳ねた。

 どっ―、どっ―、どっ―

 一定の間隔で動き、血液を全身に送っていく。

 体温が上がり、手汗が酷くなり、頭も痛くなってくる。

「……」

 まるで、何かから隠れて逃げて、もう来ないと言う安堵に襲われるような。

 または、その何かがまた来るかもしれないと言う終わらない恐怖に襲われるような。

 様々な感情がないまぜになったような。

「……」

 不思議と呼吸が乱れないのは、こういう体の反応に慣れてしまっているのもあるのだろう。その上、この状態で平静を保つのが当たり前になっているから、だろう。

 毎日、こんな風になりながら仕事をしていたのかと思うと、えらいなぁと感心してしまう。

「……」

 先程のメールと電話は、その仕事先からだろう。

「……」

 良くない事だとは分かっている。

 何も言わずに休んでいいような社会ではない。

 学生の頃とは違うのだ。

「……」

 休むなら変わりを出せと言われ、有給扱いにしておくと言われ。

 挙句の果てには、その程度で休むなと言われる。

 それが当たり前なのだから、何も言わずに休むだなんて。

「……」

 そうは思っていても。

 今朝から、体は動かないし、頭も働きそうにないのだ。

 なんでだろうなぁと、それしか思えない。

 体には力が入らないし。

 いくら癒しを得ようとしてみても、どうにもなりそうにない。

 ただひたすらに、心臓だけが動いている。

「……」

 もういっそ。

 このまま、忘れ去られて。

 ここで消えてしまえればいいのだろうけど。

 それができれば楽なのだけど。

 それができずにいたのが問題なのか。


「……ぁ」


 そうだ。

 そうしよう。

 ここにいても。

 いきていても。

 かちもないし。

 いみもないんだから。








 お題:骨格標本・寝台・共通点

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