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ブロンド  作者: 東堂 アカリ
3/13

 私は驚きのあまり動けなくなりました。我に返り、少女のもとへ近づこうと思いましたが、次に窓辺を見た瞬間には少女の姿はなかったのです。

 私は、屋敷の周りに誰かいないかと探し回りました。偶然、庭師の老人がいたので今起こったことを話すと、怪訝な顔をされました。私がどうしても2階の部屋が見たいと言いましたが、男は顔を横に振るばかりでした。私は庭師の男を振り切り、男が道具を仕舞っているであろう古い納屋に入りました。そこで、何とか使えるかもしれない長さの梯子を見つけたのです。もう何年も使っていない古くて壊れそうな梯子でした。後からやってきた庭師の男が止めるのも聞かず、私は一人で梯子を運びました。梯子を運びながら、怪我をしても男を一切咎めないと約束しました。庭師の男はなおも渋り、屋敷から執事を連れてきました。執事は梯子を上ろうとする主人を強く止めましたが、私が耳を貸さずに梯子を登ってしまったため、青い顔をしながら庭師と共に下で梯子を支えてくれました。

 木が腐っているため、足をかけると踏みざんは体の重さで曲がってしまいました。梯子を昇るのはとても怖かったのですが、今を逃すとあの少女には会えないだろうという直感がありました。私は急いで、でも慎重に梯子を昇りました。

 何とか2階の部屋が見えるところまで行くと、私は窓から部屋の中を見ました。ーー驚きました。まるで何十年も前の部屋をそのままにしているような光景が広がっていたのです。調度品は貴族にものに比べて確かに粗末でしたが、今は手に入れることが難しい歴史を感じさせるものばかりでした。また壁側には大きな本棚がありびっしりと本が並べられていました。花瓶やぬいぐるみも見えました。机には、開きっぱなしになった本が置いてありました。しかし部屋の中を見回しましたが、あの少女はいませんでした。 もっとよく見ようと顔を近づけたとき、執事の悲鳴が聞こえ、足を置いていた踏みざんが音を立てて折れてしまいました。私は咄嗟に支柱を強く握ったので落ちることはありませんでしたが、まずいと思って急いで下まで降りたのです。

 あとで知ったことですが、梯子の踏みざんは一度昇り降りしただけで折れてしまっているものも多く、あの日に怪我をすることなく使うことが出来ただけでも運が良かったのでしょう。しかし、そのあと執事には長い時間説教をされました。話を聞いている間にも私はもう一度あの少女に会いたいとばかり思っていて、それからすぐに新しい梯子を注文したので、執事からはまた長く説教されたのです。

 それにしても不思議な少女でした。一瞬見ただけですが、あの美しい儚げな雰囲気が忘れられません。メイドの子供か、近所の子供がいたずらで入り込んでいるのかと思いましたが、それにしても品のある子供でした。屋敷を去る時まで何度もあの窓辺に近づきましたが、あれ以来一度も少女の姿を見つけることは出来ませんでした。


 私はパリに戻ってからも、あの少女のことが忘れられませんでした。できることなら私の近くにいて欲しい、成長を見守りたいと思うのです。

 しかし、そんな私を執事や周りの人間は気味が悪く見えたようで、見間違えただとか、屋敷に住んでいる幽霊に呪われたんじゃないかという人までいます。いいえ、私は確かにあの日少女を見ました。そして私が気になるのなら、知る権利はあるはずです。

 どうかあの少女のことを調べていただけないでしょうか。少しのあいだ手を尽くして調べたのですが、まったく分からないのです。偶然、知り合いからあなたの話を聞いてすぐに連絡を取りました。あなたほどの適任はいないと思います。どうかよろしくお願いします。

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