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吉祥寺

「出かける? どこに?」

「それはまだ判んねぇんだがね。ともかくお出かけってことで」

「はぁ」

 優貴の要領の得ない答えに菊池は首を傾げた。だが、すぐに頷く。優貴の条件を思い出したらしい。優等生なのだ。これで、イケメン、かつ将来有望なビジネスパーソン。周りの女が放っておかないだろう。

「五分待ってください」

 そう言うと菊池は正面のドアを開けて入っていった。



「ここは……」

 路肩に停めたマツダ2のナヴィゲーターシートで菊池が呟く。菊池はデニムのスラックスにパーカーを合わせて、からし色のロングコートに着替えている。まるで韓流スターのようだ。楚々として洗練されている。ったく、いい男っぷりにこっちがゲンナリする。街で一緒に歩きたくないタイプだ。

「知っての通り、西川智海のマンションさ」

 北吉祥寺のタワマンだ。

「どうしてここに?」

「身辺警護と調査を同時にやるには、あんたに一緒にいてもらって、西川を逆ストーカーする。それが一番効率的だろ?」

「……しかし」

「いつまでもここにいるのは非効率だってか?」

「ええ」

 菊池のような時間単位で金を稼ぐ人間にとって、張り込みは無駄なことなのだろう。

「その点は大丈夫さ」

 優貴はバックシートに陣取った莉愛に声をかけた。

「今、回線が開いたのだ」

 ラップトップを膝の上に載せた莉愛が答える。キィボードを叩いて莉愛がマツダ2のスピーカーにスローインする。

 スピーカーから軽やかな電子音が聞こえた。続いて一階ですというアナウンスがする。エレベーターの音声案内だ。

「どういうことです?」

「蛇の道は蛇ってこと。スマホのOSどれもこれもメイド・イン・USAだからね。バックドアがあるのさ。あのラップトップは今、西川のスマホとつながってる。あんたも気をつけな」

 菊池は真面目に頷くと当然の疑問を口にした。

「しかし、こんなジャストのタイミングで」

「ああ、それは、推理さ。西川は三時間ほど前に自室に男を連れ込んでいる。まぁ、なにしてなにするにはそれぐらいの時間だろ」

「……」

 菊池は困ったように前を向いた。お下品な話は不得意らしい。

 しかし、西川は外出するのか。誰か、後処理をする連中が来ると思ってたが。

 優貴は西川が男を殺して、あとから乗り込むマシアスの連中が死体の処理をするのだと予想していたのだ。その証拠を押さえてしまえば、この仕事は一瞬で終わりだ。CIAエージェントにデータを廻すなり、警視庁サクラに話をつけるなりすれば一件落着。今夜はのんびり莉愛と外呑みと思っていたのだが。

 ちょっと長くなりそうだが、まぁ、それも愉しだ。

 優貴がそう思っている間に、タワマンの玄関に西川が姿を現した。

「西川、だな」

 優貴は菊池に確認した。聞いていたのと印象が違うからだ。

「え、ええ」

 菊池が頷く。

 確かに遠目にもくっきりとした黒木メイサばりの派手な美人だが、華やかという感じはしない。小柄な上に背中を丸め、やや俯き加減に歩いている。しょぼくれて覇気がない。

 車道に出た西川はおずおずと手をあげた。タクシーを止めて乗り込む。タクシーは井の頭街道を渋谷方面に走り去った。

「莉愛、絢からこの辺の防犯カメラのPWパスワードはもらってるか?」

「送られてるよ」

「アクセスして、こっちにマルチでスローインしてくれ」

「うん」

 マツダ2のマルチファンクションモニターに九分割された映像が現れる。

「右下のやつをメインに」

「ほいほい」

 街路樹の陰に隠れるようにクロネコヤマトの運送車がハザードをつけている。ナヴィゲーターシートには懐かしい顔が見えた。

「あっ、大坂さん」

 天然パーマの黒髪に、以前の黒ぶちとは違って、銀縁眼鏡をしているが、見間違えようがない。いろんな意味で世話になった大坂誠だ。


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