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レセプションルーム2

「血って美味しいのよと」

「……」

 優貴は沈黙せざるを得ない。

「あなたの血も美味しいに違いない、吸い取ってやる、殺してやる、必ずと西川は続けました。馬鹿なことを言うなと言って私はその場を離れたんですが……」

 その後も、那須塩原、鎌倉とそれらしい殺人事件が続いたのだという。



「だが、それだけだとただの脅しとも取れる。あんたの身に直接身の危険が迫ってるとは思えないがね」

「いいえ、迫っています。鎌倉は僕らが旅行した最後の街です、ということは、次はわたし本人しかない」

「なるほど」

 身の危険を感じた菊池は絢に相談したというわけだった。

「頼みます。サウジに行くまでの一ヶ月だけで構いません。身辺警護を、そして、西川の調査をお願いします」

「身辺警護は当然として、調査ってのは?」

「西川が殺人を犯している、もしくは誰かにやらせている証拠があれば、逮捕につなげることができます。それが私にとっても安心につながります」

 莉愛と優貴は同時に左の口角をあげた。シニカルな笑みだ。まぁ、普通なら断ってもいい依頼だが、血を吸い取るというのは気になるところだ。

「なるほど、判りました。お引き受けしましょう」

 優貴はそう言うと条件を出した。

「ただし、身辺警護中はこちらの指示に従ってもらう。あんたの行動の自由を拘束することもある。それでもかまわねぇかい?」

 菊池は一瞬考えた。だが、深く頷く。

「構いません。たった一ヶ月のことだ。我慢します」

 話は決まりだった。


 優貴は連絡先と住所を聞くと、菊池を帰した。今この瞬間から警護が始まると思っていた菊池は不満げだったが、防犯カメラだらけの東京の昼日中に襲撃、拉致誘拐は難しいと優貴が言うと菊池は不承不承腰を上げた。

 優貴は玄関先で夕方には菊池のマンションに行くと告げて、部屋に戻る。

「莉愛、ちょっと調べてくれ。菊池の言っていた事件の裏取りだ」

「了解なのだ。優貴は?」

「絢に連絡する。詳しいことを知ってるだろ」

「うん」

 莉愛がちょっと不安気に頷く。

「マシアスが動いてるのかなぁ」

「かもな」

 莉愛が優貴を見上げた。

 優貴がにっと莉愛に笑いかける。

「おれがいる。大丈夫さ」

 途端に莉愛が笑顔になる。射していた不安が吹き払われ、代わりに蕩けるような笑顔が浮かぶ。

「だね」

 莉愛はそう言うと思い切りよく立ち上がった。


『知らないと怖いが、知るとそうでもないさ』

 優貴はそう呟くと、絢に連絡を入れる。暗号化ノイズの低音が響く呼び出し音のあと、絢が出る。

「おひさ~。相変わらず美人かな、絢は」

「え~え、おかげさまで。日本政府から搾り取った金で、SKⅡをたらふく使ってるわ。ぴちぴちよ」

 絢も随分言うようになった。肩に力が入り過ぎないというのはいいもんだ。

「ダイヤモンドタワーの地下搬入口以来かしら」

「だな」

 優貴は重装備でダイヤモンドタワーの天辺の水晶宮クリスタルパレスに殴り込みをかけたことを思い出す。あれ以来ちょっと高所恐怖症だ。地上四〇〇メートルで飛んだり跳ねたりしたうえに、命綱なしで二〇〇メートル落下すれば君たちもそうなる。

「ステーツのサテライトカントリィの病院にいたって聞いてたけど」

 何でも知ってやがる。属国とはいえ、もちっと口を慎めないもんか。

「いたって快適な洋館の病院だったんだんだがね。やたら検査しやがるんで、黙って退院しちまったよ」

「大騒ぎだったらしいわよ。貴重な……」

「実験体が逃げ出したってか」

 優貴は絢が言いにくいことを言ってやった。

「そんなところ」

「市井に出ちまえばパーティのブラウニーさ。属国くんだりが手出しは出来ないし、あんたらにとってもその方が都合がいい」

 優貴はCIAやS3(統合情報三課)の立ち位置を認識していることを絢に教えてやった。危ういバランスの上だが、優貴と莉愛はのんびり都会暮らしを愉しめるのは間違いない。

「そのあたしたちに都合がいいというところなんだけど」

「ああ、その件だった。美人と話して満足して、切っちまうところだわ。すっかり忘れてたよ」

 絢がふふっと含み笑いをする。まんざらでもないらしい。

「菊池が言っている殺人事件には伏せられている情報があるわ」


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