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レセプションルーム

「で、どんなふうに脅迫されてるのかな?」

 優貴は努めて軽く言う。

「あなたの血を吸い取って殺してやる……そう言われていて」

 優貴と莉愛は顔を見合わせた。



 菊池の話を要約するとこうだ。

 菊池には三年ほど付き合った女性がいたのだという。結婚も考える仲だったのだが、そこに菊池の海外赴任の話が持ち上がった。サウジアラビアの支店長としての赴任だ。もちろん、資源無し国日本の商社マンにとっては栄転になる。

 菊池は件のその女性、西川智海に一緒に来てくれるように頼んだ。もちろん、結婚したうえでだ。

 だが、西川はその申し出を断った。

 西川はゲームデザイナーだった。しかも、ようやくと芽が出て、ヒット作をだしたばかりだったのだ。菊池は優貴でも知っているスマホゲームの名前をあげた。

「それで、ぼくらは、いえ、私たちは別れることに決めました。それがお互いにとって一番いい選択だったんです」

 菊池はその整った顔立ちに憂悶の色を見せて話を続けた。

「でも、その後奇妙なことが起こり始めました」

「奇妙?」

「二人で旅行した場所で、殺人事件が起こり始めたんです」

 優貴は口をへの字に曲げた。先進国から滑り落ちかかって、絶賛治安悪化中の日本で、殺人事件は掃いて捨てるほどあるだろう。

 その表情に菊池が声を強める。

「ええ、私も思い過ごしだと思いました。だが、思い過ごしではなかった。事件が起こった場所と時系列が、私たちが旅行した場所と時系列に完全に一致していったんです。しかも、その事件が起こったホテルや旅館はすべてぼくらが宿泊したところでした」

「なるほど、偶然としてはあり得ない確率だな。それで?」

「無視してしまおう、初めはそう思いました。でも、一ヶ月ほど前に西川さんに会ったんです」

 会社のクリスマスパーティに出席するために、帝都ホテルを訪れた菊池は偶然西川に出会ったのだという。

「西川さんは見違えるほど美しくなっていました。元々美人ではあったのですが、仕事柄、それほど化粧や服装に気をかけるタイプではありませんでした。でも、その時は、きっちりとメイクをし、華やかなパーティドレスを着て周りの視線を集めていました」

 菊池はその時撮ったものだという写真を優貴に見せた。確かにかなりの美人だ。小柄ではあるが、黒木メイサばりの派手目の美人だ。

「ほほぉ」

 優貴は鼻の下を伸ばして感嘆の声をあげた。だが、すぐに呻き声に変わる。莉愛の拳が優貴の脇に突き立っている。

「で、その場でどんな話を?」

 優貴は脇の痛みに顔を歪めて、菊池に話を促す。

「別れた男女です。当たり障りのない、元気? 仕事はどう? という話です。ただ、西川さんは昔旅行して気に入ったところに行っているというんです」

 西川は薄笑いを浮かべて、札幌、那覇、京都、長崎、大阪と旅行先を並べたのだという。

「私はぞっとしました。そこで二の句を告げずにいると西川さんは続けて、『楽しかったわ、しかも美味しかった』と言ってきたんです」

「美味しかった?」

「ええ。でも、わたしが付き合っていた頃の西川さんはそれほど食事に興味あるタイプではありませんでした。どちらかと言うと名所旧跡の建物に興味があるタイプで。仕事の役に立つということでずいぶん写真を撮っていました。それで、私も反問したんですが」

「西川さんはなんと?」

「血って美味しいのよと」

「……」

 優貴は沈黙せざるを得ない。

「あなたの血も美味しいに違いない、吸い取ってやる、殺してやる、必ずと西川は続けました。馬鹿なことを言うなと言って私はその場を離れたんですが……」

 その後も、那須塩原、鎌倉とそれらしい殺人事件が続いたのだという。


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