タワーマンション
11
暗色の戦闘服と抗弾ベストを身に着けたウェル、大坂、マッケンニーの三人は煙のようにタワマンに侵入した。地下の通用口から内部の非常階段を使って七階に上がる。小太りのウェルの息が荒いのに大坂はイライラする。どうしてこいつら白人連中は、筋肉ばっかつけて体力ないや。アホが。
「アルファ、準備はどうや?」
ヘッドセットをタップして大坂が植田に指示を仰いだ。ファストメットはかぶってない。その代わりARモノクル付きのヘッドセットをかけている。
「侵入と同時に七階の防犯カメラにダミーを流すわ。でも、ハイド出来る時間は十分よ。いいわね」
「了解。エレベーターは?」
「急な故障よ。全部止めてある」
「さすがやで。ほな、いこか」
大坂の合図でウェルがドアを開けた。ウェル、大坂、マッケンニーの順番で中腰で侵入していく。無論、武装済みだ。ポイントマンのウェルがコルトガバメントM45A1を手にし、サポートの大坂、スウィーパーのマッケンニーがFN P90だ。
西川智海の部屋の前まで来るとウェルが屈んだ。二メートルほど後方の大坂を見る。マッケンニーは非常口と西川の部屋のドアの両方が見える位置に陣取っている。
「シエラ、準備完了や。そっちのタイミングで状況開始やで」
「I have a control. びびって遅れんなよ」
「そっちこそはずしたら、罰金でっせ」
近くの雑居ビルの屋上に寝そべったザックが嬉々としてブレイザーR93の望遠照準器を覗いた。レティクルの中央にタンゴのいる部屋を持ってくる。
「レギュレーション作らないと面白くないぜ」
狙撃とも言えないイージーな距離にザックは下唇を突き出した。
「七秒だ」
ザックは一瞬で呼吸を合わせるとトリガーを引いた。
西川はデキャンタの赤ワインとステーキを食べ始めた。かなり旺盛な食欲だ。
「これは健啖だわ」
三百グラムはあるステーキをあっという間に腹に収めていく西川がモニターの隅に映っていた。西川のスマホのカメラからの映像だ。
「以前はこういうタイプではなかったんですが。どちらかと言えば食の細い文科系女子で」
口の周りをソースと肉油でてらてらと光らせて、切り分けた肉片を口に押し込む姿は食事というよりも、肉食動物の採餌だ。野菜は一切取らず、合間に赤ワインを流し込む。
「なかなかうまそうだな」
菊池が横で喉を鳴らした。優貴のように美味そうと思っているわけではない。がつがつと肉を咀嚼する西川の姿に思うところがあるのだろう。自分が食われるような。
西川は三十分ほどで店を出た。食後のドルチェもエスプレッソも要らないらしい。まさしく採餌だ。
「なぜ、来ない、薫め」
西川の呪詛がスピーカーから流れる。菊池がぞっと頬をそそけ立たせる。
光点がさらに駅方面に向かい巨大商業施設の渋谷ストリームに入るのを見て、優貴はマツダ2を路上パーキングに入れた。エンジンを切る。
「どうするんです?」
菊池が不安気に優貴を見る。
「どうするんです?」
菊池が不安気に優貴を見る。
「あの感じだと手当たり次第に暴れるってのもありそうなんでな。おれらはもうちょっとそばで監視するわ。あんたはここにいて待っていてくれ」
「え? ひ、ひとりでですか?」
菊池は振り向くと縋るように莉愛を見た。いてくれというのだろう。
「あたしはいつも優貴と一緒なのだ」
莉愛はにべもない。