ホテル
神々の顕現https://ncode.syosetu.com/n3979hu/の直接の続編です。
前作シオファニィを読まなくても、できるだけ愉しめるように書いています。
敵は、神の眷属、不死身のマシアスたち。彼らは凶悪事件を引き起こします。優貴と莉愛がそれにどう対処していくのか? そこが読みどころです。
神々の麗人は、20回ほどの投稿で完結させるつもりです。同じような中編を連作で書いていくつもりでいます。原稿用紙100枚前後の短いものですので、気楽に愉しんでいただければと思っています。
また、冒頭部分は「小説家になろう」のガイドラインに抵触する可能性があるので(お話の性質上ベッドシーンがどうしても必要でして)、そういう部分は割愛し、改変して投稿します。話の筋に最低限必要な部分のみですので、粗筋っぽくなっていますが、悪しからずご了承ください。
追記
田村優貴と前田莉愛の人間関係やマスアスがどういう目的で動いていた組織かなどを知りたい方は、ご面倒かと思いますが、シオファニィをお読みください。
1
上玉だった。ちょっと小柄だが、ぱんと張ったでかい胸といい、ミディのスカートの下から伸びるむっちりとした太腿といい、男好きする躰をしていた。
「こ、こんなこと、いつもするわけじゃないのよ」
こちらを向き後ずさりながら、部屋の奥に進む女が、甲高いアニメ声で言う。目鼻立ちのくっきりした派手な美人だ。
「だよな、わかってるって、お前がそんな女じゃないことは」
「なんだよ。会ってすぐホテルなんて、初めてなんだから」
後退していた女が恥じらいを隠すように男に身を寄せた。男の腕が女を抱き寄せる。肉感的な躰が男に熱さを伝える。
女の頤が上がり、情欲に青光りする目が男を捉えた。男は女を抱き上げると、そのぼってりした口唇に自分のそれを押し付ける。
「は、はやく」
興奮したのか、女は自ら倒れるようにして、ベッドに男を誘った。口唇が離れ、デコルテのふっくらした白い肌に男の目が吸い寄せられる。女が自らブラウスのボタンを外していたのだ。
「来て」
目の下に隈を浮かべた男の返事を待たず、女の掌が胸から男の首に滑り寄った。
「な、なんだ?」
そう言った瞬間、女の掌が男の首に憑りついていた。親指を咽喉仏に当て、容赦なく圧し潰す。がほっ、と肺から空気が飛び出す。ごりっ、ごりっ、と頸骨の砕ける嫌な音が続く。
「これで、動けないでしょ」
濡れそぼった女が舌なめずりする。先ほどまでの快楽をむさぼるのとは違う欲望に頬が紅潮している。
男はきょときょとと女を見上げることしかできない。頸骨を折られて躰が動かないのだ。
「さぁ、ちょうだい。あたしが欲しいのは白い液だけじゃなくて、赤い液もなのよ」
女の口唇が捲れた。
「……っ」
驚きに男の目が見開かれた。
男は先ほどまでなかったものを見たのだ。
白く鋭く尖った二つの牙を。
目と同じく男の口が開かれた。だが、声は出ない。
女が輝く肢体を男の上に投げ出した。
男の腹の上で、女はずり上がっていく。口唇のあいだから覗いた舌が、そろっと男の首筋を舐めた。恐怖に男の躰が震える。
「美味しそう。赤いアイマをちょうだい。そうすれば、あたしはもっときれいになる。もっと若返る、そしたら」
牙が男の頸動脈に吸い込まれた。ぶつっと音を立てて肌が抉られ、大量の血が噴き出す。女はそれを一滴もこぼすことなく、吸い取っていく。
長い間、ごくごくと女が血を嚥下する音が続いていた。そして、それは男が最後に聞いたこの世の音だった。