ウサギ追いしかの者
ウッドゴーレムのドベリ君が粘土で何かを作りあげました。
ドベリ君は女魔技師ビルザに、自分の作品を見せました。
このお話は『神具トゥギャザー ~ゴーレム君のダメ日誌~』の登場人物がでますが、前作を知らなくてもお楽しみいただけます。
武 頼庵(藤谷 K介)主催の『正月はこれでしょ』企画の参加作品です。
「ドベリ君。これはウサギかい?」
僕の作成物を見たビルザ博士の眼鏡がキラリと光った。
「雪ウサギです。前世では雪を固めて身体を作るんですよ。こっちの世界にあるかは知らないですが、ナンテンという赤い木の実で目を作って、長い葉っぱを耳にするんですよ」
僕はウッドゴーレムのドベリ。
妖精族のビルザ博士に作られた木製ゴーレムだ。
実は僕は前世の記憶があって、異世界から転生してきたようだ。
はっきり覚えてないけど、僕はたぶんニホンという国に住んでいたと思う。
ビルザ博士は『記憶をコピーしただけで、転生じゃない』って言ってたけどね、
僕の身体は前世で見たデッサン用の木人形が服を着たような感じだ。
今いるこの部屋は、壁に暖炉があって火が燃えている。
その前でヒョウ型ゴーレムのロギム先輩が寝転がっている。
この屋敷は外部とは隔離された特殊空間であるが、前世に似たカレンダーが使われている。
もうすぐ新しい年を迎えるらしい。
僕は趣味と実益を兼ねて、休みの日は粘土細工で遊ぶことが多い。
先日、ビルザ博士から『新年にふさわしいものを作ってみないか?』と言われた。
僕は前世でのお正月のアイテムを思い出しながら、いろいろと考えてみた。
正月飾りとか門松、鏡餅などを想像してみたがどうもしっくりこない。
さんざん考えて、思いついたものを作ってみたんだ。
そして、僕はその作品をビルザ博士に見せているところだ。
「なるほど、このウサギは君の故郷の名物のようなものかな」
「前世のやつはすぐ溶けるから名物ってのは大げさですね。悪運を払うおまじないの意味もあって、新しい年に幸運を呼ぶ飾りになっていました」
南天は咳止めの薬になって、これで作った雪ウサギは『難を転ずる』の語呂合わせで縁起物になってたかな。
「ほう。それは面白いな」
ビルザ博士は左手で雪ウサギを持った。
そして右手をウサギの上にかざす。
ビルザ博士は指をパチンと鳴らすと、僕の作ったウサギの周りに光の輪ができた。
光の輪の中には複雑な記号のようなものがある。
魔法陣のようだ。
光の輪が消えると、ウサギはまるで生きているように葉っぱの耳をピコピコ揺らした。
博士お得意のゴーレム化の魔法だろう。
ビルザ博士がウサギを床に置くと、滑るように移動し始めた。
クネクネと向きを変えながらウサギが進んでいく。
部屋で寝ていたヒョウ型ゴーレムのロギム先輩が起き上がり、とことことウサギについて歩いていく。
なんかネズミを追いかけるネコみたいに見えてきた。
「ふふっ……。珍しくロギムが興味を持った様子だな。いいものを作ったな、ドベリ君」
「ああやって使うもんじゃないんですけどね。まぁ、ロギム先輩が楽しそうだからいいか……」
前作『神具トゥギャザー ~ゴーレム君のダメ日誌~』や他の『正月はこれでしょ』企画の参加作品はこの下でリンクしています。