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ゴーレム使いの花嫁修業  作者: 九重 まぶた
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三章 王都へ花嫁②

 その後、必死で魔女の説得を続けたがてこでも動きそうになかったのでしぶしぶベアトリーチェを連れて行くことで了承した。


 それでもシウスはどこか楽観的ではあった。前回のクエストで猟師たちからクラーケンの幼生をあっという間に取り除き回復させたあの力。あんな芸当は高レベルの神官しかできない。


「まあ、王の病気もパパッと治してくれよ」

 

 街並みに見入っていたベアトリーチェがきょとんシウスを見つめ「ん?」と頬に紅葉のような小さな指を当て視線を上向ける。やがてぽんっと手を打った。


「もちろんです。私のゴーレムさんの力にかかればちょちょいのちょいです」

 

 ベアトリーチェはむふんっと鼻息荒く誇らしげに胸をはる。


「さっきの間はなんだ? あんた、何しにいくのか分かってんだよな?」

 

 あの師匠にしてこの弟子。この弟子にしてあの師匠。唯一の不安と言えばそこだ。


「そういや、ゴーレムはどこにいるんだ?」


 ふと気づく。馬車の中には肝心のゴーレムが見当たらない。

 この女はこの間のクエストのとき離れた場所からゴーレムを呼び寄せた。


「まさか、森からこんな遠く離れたこの王都まで呼べるってわけじゃないよな?」


「できますよ」

 

 冗談半分で言ったことがあっさり肯定される。

 するとベアトリーチェは肩からかけている皮製のポシェットを外し。


「じゃーん! 今回は前回の反省もかねて、このポシェットとお師匠さまの家にゲートを開通しました」


「ゲートの開通? ……ゲートってなんだ?」


「ゲートはゲートですよ? えっ、知りません? ある地点から遠く離れた地点まで一瞬で行き来できる道のこと。移動に便利ですよ? 過去によく使われていたと聞いてますけど」


 ある地点とある地点の距離を消失させ、一瞬で別の場所に移動することができるいわゆる転移魔法。そんなことができるのは大昔の大魔法使いの『物語』でしか聞いたことがない。


「前回は普通に呼んでしまったので、船の上だとゴーレムさんの重さと着地の衝撃で床がぬけちゃいますから。あっ、ゴーレムさんは乙女だから体重の話はここだけの秘密ですよ? 結構気にしているの。そうそうこの間なんかこんなことがあってね――」

 

 ゴーレムが自分の体重を気にしてるって……。そんなゴーレム聞いたことないわ。

 この女と話しているといつのまにか会話の主導権を握られ主婦の井戸端会議にでも迷いこんだような気になる。

 シウスは自分の常識が崩れていきそうなのでぺちゃくちゃおしゃべりに夢中のベアトリーチェから視線を外し現実逃避するように馬車の外に目をむけた。

 視界にはいつのまにか見上げるほどの城門が見えてきている。


「わあ、お城! シウスさんお城!」


「ん? ああ、城だな。あれは城だよ。あそこが目的地だからな。うん、あれは現実だ」


「まあ~素敵。きっとあそこでは夜な夜な仮面舞踏会が行なわれ、そこで出会う男と女のラブロマンス、見つめ合う瞳、重なる手と手、絡む指、そして二人は夜会を抜け出し夜の庭へと、月の光を浴びながら、本能をむき出しにお互いを求め合うのね」


 などと、恍惚な表情で瞳をキラキラさせ夢見る少女? の顔を覗かせている。


「いや、王さま病気で、今からそれを治しにいくんだよ。別に仮面舞踏会なんか開かれねーよ?」


「開かれないんですか!?」「何しにいくんだよ!」


  ●●●


 光の女神が浮遊する姿が彫刻された荘厳な門の前でベアトリーチェは感嘆の息を漏らした。


「素敵だわー。さすが王都の中心、王宮の入り口ね――ってあれ?」

 

 しかし馬車は正門を素通りしていく。


「あ、あのシウスさん。門を通りすぎていきますけども?」


「ん? ああ、いいんだよ」


「そんなっ。私、正門から続く王宮までの石畳を歩いていくのが夢だったのよっ。目に見えるのは手入れが行き届いた庭木の数々、噴水なんかがある素敵なお庭に心をときめかすのです」

 

 ベアトリーチェは夢見る少女のように指を合わせてあさってのほうに想いをはせる。

 シウスは特に取り合わずに窓の外に目を向けようとする。


「なのにっ」


「うっわ、しょうがねーだろっ。正門からは入れねーんだよ――」


「つまり民衆や他国に王が病で伏せっていることを隠すために来客を断っているのでしょう? 王の健康状態は国の最重要機密ですからね。王は今多忙をきわめ謁見する暇はないとか適当な理由をつけて。そんななか私たちが堂々と正門を通れば疑念を抱かれる――そういうことでしょうぅぅぅぅぅぅぅぅっ!」


「いや、よくわかっているじゃねーか。正解だよ」

 

 悔し涙を流しながら迫ってくるベアトリーチェに落ち着けとなだめる。馬車が止まる。

 簡素だがさすがは王都の中心、重厚な鉄の門扉が迎える。

 門兵に許可をとり、通り抜け裏門から城内へと足を踏みいれる。


「あら素敵ー。素敵なお庭だこと」

 

 ベアトリーチェの顔はまるで能面のようだ。騒がれるよりマシかとシウスは放っておいた。


「シウス殿。待っておったぞ」

 

 一人の騎士がやってきた。


「ああ、ジャンか」

 

 二言三言会話をすると、騎士は驚いたようにベアトリーチェを見る。


「本当にこの婦人が? 古の森の魔女フィリア・イエル様なのか?いや失礼。見た目で判断するなど騎士にあるまじき行為……。いや、しかし……こんなにお若いとは」

 

 若干うしろめたいが、依頼失敗になると色々めんどくさいので、適当に嘘をついた。

 森の魔女、フィリア・イエルの顔を知っている者が城にいないことを祈る。


「魔女様。こっちこい、このいけすかねー騎士様があんたの依頼主だ」


「いや、いけすかないってお主そんな目で私のことを?」

 

 ベアトリーチェは気力のない声で返事をしとぼとぼとと歩いてくる。


「今回はこのようなお城にお招きいただき大変恐縮の至り、でありまして、えー、大変貴重な体験をさせて頂きましたことを深く心より、感謝をしまして、えー」


「おい。いい加減しゃんとしてくれ。観光しにきたわけじゃねーんだから」


「はぁい」と返事だけ返してくる。

 

 ここまで連れてきてなんだが、やっぱり不安だ。


「いや、シウス殿、私たちは、苦楽を共に、生涯の友と、同じ鍋をつつきあった、仲良く……」

 

 などとジャンはジャンで瞳を虚ろに宙にさ迷わせている。


「いや、メンタル弱くない? ……、まじで」


「改めて私、近衛騎士団所属団長代理ジャン・ドゥ・ピエールと申します。森の魔女フィリア・イエル様にはご足労いただき感謝いたします」

 

 その後、シウスはジャンの機嫌をとり、ようやく気を取り直したベアトリーチェにはちゃんと森の魔女らしく振舞ってくれと言い聞かせ、城内を歩いていた。


「これはご丁寧に私、古の森の魔女の弟子、ベアトリーチェ・ルク・ロシニョルと申します」


「――え。弟子?」

 

 ジャンの視線から顔を逸らし、頭を抱える。嘘は一瞬でバレた。


「森の魔女、フィリア・イエル様では……」

 

 ベアトリーチェはきょとんと小首をかしげる。


「違いますよ」

 

 ジャンの視線がするどく突き刺さってくる。


「いや、これはだな……すまん」

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