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【電子書籍化】言いなり聖女は人柱にされたので、悪女に生まれ変わることにしました  作者: 水谷繭
2.神の儀

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2-3

「……ねぇ、今なにか音が聞こえなかった?」


「そんなわけないじゃない。怖いこと言わないで」


「でも、棺桶のほうから……。ねぇ、まさかとは思うけれど、アンナさん、まだ生きてるってことはないよね?」


「そんなわけないでしょう。もう二週間も経っているのよ」


 その言葉に心臓がどくんと跳ねる。二週間? 私は二週間も棺桶の中で生きているというのだろうか。


 すっかり力の入らなくなった腕を持ち上げ、必死で蓋を押す。しかし、何度やっても結果は同じだ。


「ねぇ、やっぱり何か聞こえるわよ」


「まさか、アンナさんの幽霊?」


「やめてよ、変なこと言わないで! 早く掃除を済ませて戻りましょう」


 二人が大慌てで掃除をして出て行く音が聞こえる。再び静かになった棺桶の中で、私はただじっとしているしかなかった。


 心にあるのは虚しさだけだ。


 このまま私の人生は終わるのだろう。騙されて、利用されて、人柱になった後も蔑まれて。


 私の人生って一体何だったんだろう。



「……嫌」


 無意識に言葉が口から洩れる。


「嫌、嫌、嫌!! そんなの絶対嫌!!!」


 お腹の奥から声が出る。私はじたばたと手足を動かした。硬い棺桶はびくともせず、体が痛むだけだが、構わず暴れ続ける。


 なんであんな奴らの言うことを聞いてしまったのだろう。


 なんだったの? 私の人生。これで終わり?


 心臓の鼓動が早くなる。今まで感じたことのないほどの怒りが込み上げてきた。


 私は救いようのない馬鹿だ。


 あの人たちが何をしたって私を認めないことなんて、最初からわかっていたのに。


 それなのに言うことを聞いて、責められれば全て私が悪いと謝って。頼まれてもない雑務をこなして、何とか認められようと媚びを売って。


 嫌。こんなみじめに終わりたくない。


 だいたい、どうしてノエミがあんなに崇拝されているのよ。


 あの女の優しげな微笑みなんて、どう見たって演技じゃない。いつもいつもいい子ぶって、あなたは悪くないよなんて言いながら、周りには被害者ぶって。


 本当は気づいていた。けれど、ノエミを悪く思う自分のほうが心が汚れているように感じて、必死に押し隠していたのだ。


 血が滲みそうなほど強く唇を噛む。このままでは絶対終わらせない。終わるなら、あいつら全員が苦しむ顔を見てからだ。絶対に許さない。



 その時、また精霊らしき光が顔のそばに近づいてきた。


 なんだか精霊にも腹が立ってくる。


 どうして精霊の加護持ちの私がこんなに冷遇されているんだ。加護を持っていることで何かいいことがあっただろうか。思い出す限りひとつもない。


 むしろ加護持ちのせいであのくそ王子の婚約者にされるし、マイナスにしかなってないじゃないか。


 精霊に対してふつふつ怒りが込み上げてくる。


 本当に今私の目の前にある光が精霊なら、一回くらい役に立ってみせなさいよ。



「……ねぇ、あなた精霊なんでしょう。私の言葉が聞こえてるのよね」


 喉から、今まで出したこともないような低い声が出る。


「聞こえているなら私を助けなさい! 今すぐここから出すのよ!」


 何も見えない暗闇の中で、声の限り叫んだ。怒りでどうにかなってしまいそうだった。


 その時、突然棺桶の中が明るく光った。まさか本当に何か起こると思わず、情けないことに肩がびくりと跳ねる。



『任せて、アンナ! 私が助けてあげる!』


「……え?」


 棺桶の蓋と私の胸の間のわずかなスペースに、光がふわふわ揺れている。光は少しずつ人型に姿を変えていった。


 光が完全に人の姿に代わり、私の手のひらほどの大きさもない、小さな小さな女の子が現れた。


 ピンク色の髪に赤い薔薇をつけ、春の空のような明るい水色の目をしている。背中には半透明の羽根が生えていた。


 まさか、これ……。


「あなた、精霊?」


『ええ。アンナに呼ばれたから出てきたの!』


 私は口をあんぐり開けて、精霊を見つめた。彼女はにこにこと嬉しそうに笑って私を見ていた。


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2023/4/6にエンジェライト文庫様から電子書籍が発売されました。 よろしくお願いします!3万字くらい加筆してあります! 7co22fni9dx5l1ol4ymocqva8ylc_6n5_u6_16n_18ne7.jpg
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