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いつも私に冷たい教会の人たちが、数日前からなぜか優しくなった。
私が掃除をしていると「いつも助かるわ」とお礼を言ってくれる。教会に来た病人に治癒魔法をかけていると、普段であれば見向きもしないのに、にこやかに手伝いに来てくれる。
その上、司教様までもが私をわざわざ司教室に呼び出して、お前は本当によくやっていると褒めてくれるのだ。
そんな風に接してもらえるのはもちろんありがたいが、あまりの変化に戸惑いの方が大きい。
そしてある日の午後、私はみんなが急に優しくなった理由を知らされた。
「アンナ。最近、この国では災害が続いていることを知っているな」
「はい。知っております」
ここ最近はずっと天候がおかしく、嵐やそれに伴う浸水や土砂崩れで国中の至る所が被害を受けていた。それに加え、二週間ほど前から地震まで頻繁に起こっている。
今日も災害によって家を壊された人たちがあつまる施設に慰問に行って来たばかりだ。
「このまま災害が続けば、国は大きなダメージを受けるだろう。そこで、王家から災いを鎮めるために「神の儀」を行ってくれないかと相談があったのだ」
「神の儀……ですか」
その名前が出た瞬間、体が強張るのを感じた。神の儀とは、教会で働く一定以上の魔力を持った者を、教会の奥の閉ざされた部屋で生きたまま棺桶に入れて祀るというものだ。
もちろん棺桶に入れられた者はいずれ死ぬ。つまり、人身御供ということだ。
なぜ私にそんな話をするのだろうと考え、嫌な予感に背筋が凍る。
「アンナ。お前に神の儀の主役を務めてもらいたいのだ」
司教様は私の目をじっと見て、きっぱりとそう告げた。
「あ、あの、けれど、私は死ぬことになりますよね……?」
「神の儀で祀られた者は、永遠に神の国で幸せに暮らせるとされている。恐れることはない。お前一人が決断してくれれば、この国は助かるのだ」
「わ、私は……」
恐怖で足が震えた。生きたまま棺桶に入れられるなんて冗談じゃない。
身動きの取れない体や、徐々に薄くなっていく空気を想像して、私は必死で首を振った。
「司教様、すみません、私には無理です」
「今すぐに答えを出さなくてよい。しばらく考える時間をやろう。けれど、精霊に愛されているお前がこの役を務めるのが一番効果が強いんだ。よく考えてくれ」
司教様は感じのいい笑みを浮かべてそう言うと、私を部屋から出した。
答えなんて時間をもらうまでもなく決まっている。私はそんなことやりたくない。
翌朝、広間で一日の始まりの集会が行われると、プリュムたちはちらちらこちらを見ていた。そして集会が終わるなり、一斉に近づいてくる。
「アンナさん、神の儀の主役に選ばれたんですって? すごいわ、さすが聖女様ね」
「すごく名誉なことなのよ。うらやましいわ」
彼女たちはまるで私が人柱になるのが決定したかのように話しかけてくる。
「あの、私まだはいと言ったわけじゃ……」
「でも、受けてくれるのでしょう? アンナさんは優しいものね。国が危機に瀕しているのを見捨てたりなんかしないはずよ」
「そうよ。アンナさんならやってくれるだろうってみんなで話していたのよ」
表面上だけはにこやかな声が、広間いっぱいに広がる。
この人たちは、神の儀を受けたら私が死ぬことをわかって言っているのだろうか。……わかって言っているのだろうな。だからこんなに楽しそうなのだ。