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司教様から教会の者たちにそのことが告げられた時、プリュムたちは一斉に私を睨みつけ、ノエミ様を心配顔で囲んだ。
はじめは平気だと笑っていたノエミ様だったが、みんなから慰められているうちに、しだいに目に涙を溜めて泣き始めてしまった。
「ノエミ様! 泣かないでください」
「ごめんなさい……っ。仕方のないことなのに、どうしてもつらくて……」
プリュムたちは氷のような目で私を睨む。この場から今すぐにでも消えてしまいたかった。自分がとんでもない罪を犯したような気持ちになる。
「アンナさん、どういうつもりですの。ヴィルジール殿下はノエミ様に好意があること、見ていてわかりませんでした?」
プリュムたちがこちらに詰め寄って来る。
「あの、私はお断りしたのですが、司教様が……」
「言い訳はいりませんわ! ノエミ様の気持ちを考えましたの? 真剣に断れば司教様だって無理に婚約を結ばせるようなことはしないはずですわ」
「ノエミ様を差し置いて婚約者になったって、アンナさんが殿下に愛されるはずがありません。わかっているんですか?」
「ごめんなさい……」
私は必死で謝って、もう一度司教様に謝りに行くと約束した。しかし、何度頼んでも結果は同じで、最後には王家からの命令に背くつもりなのかと怒られてしまった。
結局決定を覆せなかった私を、みんな冷たい目で見つめた。
教会での暮らしは、いつもそのようなものだった。
そんな私にも、月に一度楽しみにしていることがあった。それは、騎士様達に加護を与える日だ。
教会では、日々体を張って国を守る騎士団の方達が戦いで少しでも傷つくことがないよう、月に一度彼らを教会の広間に呼んで、加護を与えている。
私はいつもその日が待ち遠しかった。騎士団には、ロラン様がいるからだ。
「久しぶり、アンナ。今日もよろしく頼む」
一ヶ月ぶりに聞いた声に胸が高鳴った。ロラン様はたくさんのプリュムたちがいる中で、今回も真っ先にこちらに近づいて来てくれる。私はうなずいて両手で彼の手をつかんだ。
ロラン様が戦場でけがをすることがないよう、万が一けがをしてもすぐに回復するよう、真剣に祈りを込める。
するとゆらゆらと光が舞って、ロラン様の中に吸収されていった。
「終わりましたよ」
「ありがとう、アンナ。君に加護の魔法をかけてもらうと元気が出るよ」
ロラン様はそう言って笑った。
ロラン様は、まだ二十二歳でありながら騎士団の小隊で副小隊長を務める方だ。黒髪に青い目をした美青年で、上の立場にいる人なのにいつも物腰柔らかな態度なので、プリュムたちからも大変人気がある。
ロラン様はとある男爵家の出身らしいのだけれど、実家はお兄さんが継ぐので、手に職をつけるため騎士団に入団したのだとか。
それなのに最近お兄さんが駆け落ち同然に家を出てしまったせいで自分が家に呼び戻されそうになっていると、以前愚痴を言っていた。
人気者のロラン様に加護の魔法をかけたい人なんていくらでもいるのに、彼はいつも真っ先に私のほうへ歩いて来てくれる。それがとても嬉しかった。
「明後日から遠征で王都を離れるんだ。だから来月、もしかすると再来月も来られないかもしれない」
「まぁ、そうなんですか」
「アンナに会えないのは寂しいよ」
ロラン様は悲しげに言った。心がずんと重くなるのを感じる。しばらくはロラン様を見ることができないのだ。それに遠征ということは、やはり危険もあるのではないだろうか。不安になり、もう一度ロラン様の手を取る。
「アンナ?」
「もう一度加護の魔法をかけておきますね。危険から守られるように」
目を瞑って手に意識を集中する。再び光が舞って、ロラン様の中に吸収された。
「ありがとう、アンナ。心強いよ」
ロラン様にそう言われ、私は何とか笑みを返した。