①
ロラン様と初めて会ったのは、私が十三歳の時だった。
初めて会った日、ロラン様は片目に眼帯をして、全身傷だらけで、とても痛々しい姿をしていた。
戦場で傷ついたのだろうか。じっとしていられなくなり、気がつくと私は彼に駆け寄っていた。幼い私に傷を見せることを躊躇うロラン様に、少々強引に治癒魔法をかける。
当時の私はまだ魔法を使うことに慣れていなくて、随分と時間がかかってしまった上、傷を治しきることはできなかった。
強引に魔法をかけておいて不甲斐ない結果に情けなくなる。しかし、治癒魔法をかけ終えた腕を見たロラン様は、感動した様子で言った。
「君はすごいな。痛みが随分和らいだ」
私の魔法では、そこまで強い効果は出ていないはずだった。しかし、ロラン様は社交辞令とも思えない口調で何度も私を褒めてくれる。
「あの、でも、まだ完全に治っていませんよね? ごめんなさい。強引に引っ張ってきておいて、ちゃんと治しきれなくて」
「とんでもない。さっきよりもずっと楽になったよ」
ロラン様は驚いたようにそう言う。
「ありがとう。魔法の効果もあるけれど、多分、君が一生懸命魔法をかけてくれるのを見ていたら気持ちが楽になったんだと思う」
ロラン様はそう言って目を細めた。これまであまり人から感謝される経験のなかった私には、その言葉がとても深く響いた。
教会に戻ってからも、昼間会ったその人の顔が頭から離れなかった。
また会えたらいいな、なんて考える。けれど、名前すら聞きそびれてしまった。たくさんいる騎士の中から、あの人を探すのは難しいだろう。私は少し寂しい気持ちになりながら教会に用意された狭い自室に戻った。
しかし、その人に会える機会は、思っていたよりも早く訪れた。
「あっ、君! この前の!」
教会の庭にある倉庫を埃まみれになって整理していると、後ろから明るい声が聞こえてきた。振り向くと、黒髪に青い目の男性が笑顔でこちらを見ている。
「えっと……」
「覚えてないかな。この前、君にけがを治療してもらったんだけど」
そう言われ、その人の顔をじっと見る。こんなに綺麗な顔をした人、治癒したことがあっただろうか。記憶を辿っていると、先日私を褒めてくれた黒髪の男性の顔がその人に重なる。
「あの眼帯をして腕に包帯を巻いていた……?」
「ああ! よかった、もう覚えていないかと思った」
男性は心底嬉しそうにそう言った。
私はちょっと驚いていた。この前見かけたときは、髪は乱れて服装も整っておらず、何より疲れの滲んだ顔をしていたのに。
今日の彼は同一人物とは思えないほど明るい顔をして、服も髪もきっちり整えられている。
私はなんだか自分の着古した黒いワンピースや、飾り気のない髪が恥ずかしくなった。
「君が治癒魔法をかけてくれたおかげで、すごい勢いで傷が治っていったんだ。ほら、今では痕一つ残ってない」
彼は腕まくりをして、傷のあった場所を見せる。そこには確かに深い切り傷があったのに、今は跡形もなく消えていた。




