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プリュム以外であれば、教会にも平民出身の人はいた。
彼女たちは主に教会の雑用を担当しており、プリュムたちはどこか彼女たちを見下していた。
この教会でプリュムたちが働く理由は、神に仕えるというよりも、一定期間教会で過ごすことで貴族社会での自分の価値を高めるという意味合いのほうが強い。
そんな理由でここにいるものだから、シスターらしい分け隔てのない優しさなど当然持ってはいなかった。
はじめ、私には貴族の出のプリュムたちよりも、下働きの彼女たちのほうが近しく感じられた。
しかし彼女たちのほうは同じ平民でありながら聖女の立場にいる私がいまいましかったようで、話しかける度に嫌な顔をされた。
私はプリュムたちにも下働きたちにも、どちらにも馴染めなかった。
少しでも認めてもらおうと治癒の仕事を受けられるだけ受けて、皿洗いや掃除など雑用も進んで行ったが、みんなつまらなそうに私を見るだけだった。
教会には私と正反対の、みんなに愛される聖女がいる。
彼女の名前はノエミ様。伯爵家出身で、私より一つ年下の十六歳だ。少々体が弱いらしく、長く外で働くことはできないが、彼女が笑うだけでみんなの顔が綻んだ。
茶色の髪に焦げ茶の目をした地味な容姿の私と違い、ノエミ様は金髪に青い瞳の大変な美人だった。
教会にいる聖女は私とノエミ様の二人だけだが、当然ながらみんなの私達を見る目はまるで違う。
ノエミ様はみんなから愛され、崇められ、大切にされるのに対し、私は誰からもうとまれる。
しかしノエミ様本人だけは、こんな私にも分け隔てなく接してくれた。
私が掃除をしていると「大変ね」と声をかけてくれ、治癒の仕事で夜遅くに戻ると「いつもお疲れ様」と微笑んでくれるのだ。
ノエミ様の周りにいる人たちは、なんてお優しいとますます彼女を褒めた。
教会に来た当初から私には全く居場所などなかった。しかし、さらに追い打ちをかけるような出来事が起こる。
我が国の第一王子であるヴィルジール殿下の婚約者に、私が選ばれてしまったのだ。
ヴィルジール殿下は見目麗しく、教会のプリュムたちから大変な人気を誇っていた。
この教会は王家とつながりが深いため、王子本人がやって来ることもよくあるのだけれど、彼は誰に対しても偉ぶることなくにこやかに接した。
そんな中でもノエミ様には特に楽しそうに接していた。
ある時、ノエミ様はヴィルジール殿下とご結婚なさるんじゃないかしら、と誰かが言った。お似合いだと隣にいた者も同意する。私も同じことを思った。
しかし、ある日司教様に呼び出された私は、ヴィルジール殿下の婚約者が私に決まったことを知らされた。
慌てて断ろうとしたが、私に拒否権などあるはずもなく、司教様は決定事項だと告げるだけだった。
この国では代々、王族と聖女が結婚する決まりになっている。
教会には現在二人の聖女がいるので、どちらが選ばれてもいいはずだったが、都合の悪いことに私が持っているのは精霊の光を見る力で、ノエミ様が持っているのは精霊の囁き声を聞きとる力だった。
どういう基準なのかわからないが、この国の精霊学では聞けることよりも見えることのほうに重きを置かれている。
そのため、私のほうがより王子の婚約者にふさわしいと判断されたのだ。