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【電子書籍化】言いなり聖女は人柱にされたので、悪女に生まれ変わることにしました  作者: 水谷繭
5.聖女と悪女 ロラン視点

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19/25

5-2

***


 二ヶ月ほどの遠征から帰って来たある日のこと。アンナの姿が見たくて、用もないのに教会に向かった。


 そこでプリュムから信じられない話を聞いた。


 アンナが「神の儀」という儀式を受けて、人柱にされたと言うのだ。


「人柱……? どういうことだ」


「ですから、アンナさんは神の儀で棺桶に入れられたのですわ」


「生きた人間を? 正気か?」


「そういう儀式なんですもの」


 プリュムはあっさりそう言うと行ってしまった。今聞いた話が信じられず、呆然と立ち尽くす。


 そんなわけない。きっとたちの悪い冗談だ。


 自分にそう言い聞かせながら、司教に会わせてくれるよう近くにいた別のプリュムに頼んだ。


 しかし、司教の口から出たのも同じ言葉だった。


「ああ、アンナですか。あの子は神への生贄になりましたよ」


 なんてことのないような口ぶりだった。こいつはわかっているのだろうか。自分がアンナを殺したということを。


「なぜアンナだったんだ。そもそもそんな儀式本当にする必要があったのか」


「国のためですから」


「国のためならアンナが死んでいいとでも?」


 声を震わせて聞くと、司教は曖昧に笑った。罪悪感すら抱いていないように見えるその態度に、怒りがふつふつと込み上げてくる。


「物分かりがいい子でよかったですよ。暴れもせず、大人しく棺桶の中に入ってくれました。あの子はきっと天国へ行くでしょう」


 司教はこちらをなだめるように調子のいい言葉を口にする。その作り笑いを見ていると、全身の血が沸騰しそうになった。


「ふざけるな!! お前たちは人殺しだ!!!」


 そう怒鳴ると、司教はいまいましそうにこちらを見た。


「仕方がなかったのです。私たちだって、あの子には悪いことをしたと思っていますよ」



***


 ふらふらと教会の廊下を歩いた。もうアンナのあの笑顔を見られないと思うと、世界が真っ暗になるような気がする。


 せめて亡骸を見たいと司教に頼んだが、関係者以外の立ち入りは禁止だとあっけなく却下された。


 諦めきれず、プリュムに頼んで棺桶のある部屋に案内してもらう。本来なら立ち入りは禁止されているらしいが、その子にそっとお金を渡し、鍵を開けてもらった。


「あの、私がここを開けたことは誰にも……」


「もちろん言わないから安心してくれ。万が一バレても、自分で鍵を盗んだことにする」


 そう言うと、プリュムの少女はほっとした顔になって部屋から出て行った。鍵は部屋の前の花瓶の後ろに隠しておけばいいと、渡してくれた。


 ゆっくりと部屋の奥にある棺桶に近づく。


 神聖さを感じる真っ白な棺桶だった。つなぎ目には金色の鍵穴がある。こんなに厳重に鍵がかかっていたら、苦しくても逃げ出せなかっただろうと思うと、胸が重くなった。


「アンナ、アンナ」


 呼びかけながら棺桶の蓋を撫でる。


 どうして僕はこんな重要なときに王都を離れていたんだろう。王都にいれば、アンナが人柱にされるという話が入ってきたかもしれないのに。そうしたら一目散に飛んできて、アンナを助けたのに。


 自分が情けなくなり、頬を涙が流れ落ちた。


 アンナは何度も僕の傷を癒してくれたのに、何度も僕に加護の魔法をかけて守ってくれたのに、僕は彼女に何もできなかった。


 棺桶の上に突っ伏して泣き続けた。彼女にもう会えないことがつらくてたまらない。



 突然、棺桶からゴトリと音がした。蓋がずれるような音。


 怪訝に思いながら蓋を持ち上げてみると、鍵がかかっているとばかり思っていたのにあっさり開いた。


 驚きつつ、中が見えるまで蓋をずらす。するとアンナの子供のように無邪気な寝顔が現れた。……死に顔というのだろうけれど、僕には寝顔にしか見えなかった。


「アンナ」


 思わずその白い頬に触れる。まるで作り物のように冷たく、少し触れるだけで大きく動くほど軽かった。というより、軽すぎるような気がした。


 不思議に思いながら、そっとその体を持ち上げる。


 あまりにも軽すぎる。顔はアンナそのものなのに、花びらを集めたように軽い。


 それに、話によればアンナが棺桶に入れられたのは一ヶ月以上前のはずだ。それなのに、全く腐敗せず生前そのままの姿ということはあり得るのだろうか。

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