表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【電子書籍化】言いなり聖女は人柱にされたので、悪女に生まれ変わることにしました  作者: 水谷繭
5.聖女と悪女 ロラン視点

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

18/25

5-1

※ロラン視点です

 アンナと初めて会ったのは、戦場で怪我をしてボロボロになって帰って来た時だった。


 当時の僕は目には眼帯をして、腕には包帯を巻き、随分痛々しい姿をしていた。背中に受けた傷が痛むので身だしなみに構っている余裕もなく、ぼさぼさ髪によれよれの服の、ひどい姿をしていたと思う。


 教会に治癒魔法を受けに行くと、黒いワンピースを着た茶色の髪の少女……アンナが目を見開いてこちらを見た。その頃のアンナは、まだたった十三歳だった。


 小さな少女には、自分のこんな姿はきっと恐ろしいだろうと目を逸らす。しかし、アンナはすぐさまこちらへ駆け寄って来た。


「そちらに座って下さい。すぐに治癒魔法をかけます」


 アンナは僕を座らせ、ためらわずに血の滲んだ包帯に触れる。


「外して大丈夫ですか? 直接光を当てた方が治りが早いんです」


「構わないが、君のような小さな女の子に醜い傷を見せるのは心苦しいな」


 そう言うと、アンナは眉を吊り上げて怒った顔をした。


「人々のために戦ってついた傷が醜いわけがありません。外しますよ」


 アンナはそう言うと、躊躇わずに包帯を外す。それから懸命に治癒魔法をかけてくれた。


 当時のアンナは聖女になりたてで、治癒魔法の威力はそれほど高くなかった。


 けれど彼女が真剣に力を込めてくれると、傷自体は消えていないのに、痛みがどんどん消えていく気がした。



 それから僕は、教会の近くに行くと、いつもアンナがいないか目で追うようになった。


 アンナは「聖女」という教会で二番目に高い肩書きを持っているのに、ちっとも偉ぶらない。それどころか普通なら下働きがやるはずの水くみや洗濯、掃除などを率先して行っていた。


 街で伝染病が流行ったり、事故が起きて大量のけが人が出たりすると、アンナはいつも真っ先に駆けつける。


 全身に赤黒い痣のできた病人にも、血まみれの痛々しいけが人にも、アンナはいつだってためらわずに触れた。そうして女神のように優しい声で大丈夫ですよと告げるのだ。


 アンナを見ていると心が洗われた。僕もあんな風に私欲を捨てて生きられたらと、何度憧れたかわからない。



 騎士団では毎月、教会で加護魔法をかけてもらう決まりになっていた。


 聖女やプリュムに加護魔法をかけてもらえば、小さな攻撃からはバリアによって守られ、怪我をするような攻撃を受けてもダメージを軽減してくれるのだ。


 僕はその日が来るたびにアンナの姿を探し、魔法をかけてもらった。


 アンナの魔法はひいき目で見なくても効力が強いと思うのに、彼女の前に並ぶ騎士は少なかった。対照的にもう一人の聖女、ノエミの前にはたくさんの騎士が押しかけている。


 なんだかアンナが軽視されているようで不満だったが、そのおかげで加護魔法が終わってから長々と話していても、誰にも文句を言われないのはありがたかった。


「ロラン様がけがなく帰ってこられますように」


 アンナに柔らかい笑みを浮かべながらそう言われると、どんな場所に行っても頑張れる気がした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2023/4/6にエンジェライト文庫様から電子書籍が発売されました。 よろしくお願いします!3万字くらい加筆してあります! 7co22fni9dx5l1ol4ymocqva8ylc_6n5_u6_16n_18ne7.jpg
― 新着の感想 ―
[気になる点] アンナは別に私欲を捨てていたわけではないのにな。 イジメに遭っていたから条件の悪い仕事や下働きがやるべき雑用を押し付けられていただけ。 それが「なんだかアンナが軽視されているようで」…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ