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※ロラン視点です
アンナと初めて会ったのは、戦場で怪我をしてボロボロになって帰って来た時だった。
当時の僕は目には眼帯をして、腕には包帯を巻き、随分痛々しい姿をしていた。背中に受けた傷が痛むので身だしなみに構っている余裕もなく、ぼさぼさ髪によれよれの服の、ひどい姿をしていたと思う。
教会に治癒魔法を受けに行くと、黒いワンピースを着た茶色の髪の少女……アンナが目を見開いてこちらを見た。その頃のアンナは、まだたった十三歳だった。
小さな少女には、自分のこんな姿はきっと恐ろしいだろうと目を逸らす。しかし、アンナはすぐさまこちらへ駆け寄って来た。
「そちらに座って下さい。すぐに治癒魔法をかけます」
アンナは僕を座らせ、ためらわずに血の滲んだ包帯に触れる。
「外して大丈夫ですか? 直接光を当てた方が治りが早いんです」
「構わないが、君のような小さな女の子に醜い傷を見せるのは心苦しいな」
そう言うと、アンナは眉を吊り上げて怒った顔をした。
「人々のために戦ってついた傷が醜いわけがありません。外しますよ」
アンナはそう言うと、躊躇わずに包帯を外す。それから懸命に治癒魔法をかけてくれた。
当時のアンナは聖女になりたてで、治癒魔法の威力はそれほど高くなかった。
けれど彼女が真剣に力を込めてくれると、傷自体は消えていないのに、痛みがどんどん消えていく気がした。
それから僕は、教会の近くに行くと、いつもアンナがいないか目で追うようになった。
アンナは「聖女」という教会で二番目に高い肩書きを持っているのに、ちっとも偉ぶらない。それどころか普通なら下働きがやるはずの水くみや洗濯、掃除などを率先して行っていた。
街で伝染病が流行ったり、事故が起きて大量のけが人が出たりすると、アンナはいつも真っ先に駆けつける。
全身に赤黒い痣のできた病人にも、血まみれの痛々しいけが人にも、アンナはいつだってためらわずに触れた。そうして女神のように優しい声で大丈夫ですよと告げるのだ。
アンナを見ていると心が洗われた。僕もあんな風に私欲を捨てて生きられたらと、何度憧れたかわからない。
騎士団では毎月、教会で加護魔法をかけてもらう決まりになっていた。
聖女やプリュムに加護魔法をかけてもらえば、小さな攻撃からはバリアによって守られ、怪我をするような攻撃を受けてもダメージを軽減してくれるのだ。
僕はその日が来るたびにアンナの姿を探し、魔法をかけてもらった。
アンナの魔法はひいき目で見なくても効力が強いと思うのに、彼女の前に並ぶ騎士は少なかった。対照的にもう一人の聖女、ノエミの前にはたくさんの騎士が押しかけている。
なんだかアンナが軽視されているようで不満だったが、そのおかげで加護魔法が終わってから長々と話していても、誰にも文句を言われないのはありがたかった。
「ロラン様がけがなく帰ってこられますように」
アンナに柔らかい笑みを浮かべながらそう言われると、どんな場所に行っても頑張れる気がした。




