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「私の魔法はプリュムなんかとは効果が違いますわ。いいんですの?」
「ええ、構いません。あなたに魔法をかけてもらいたいとは思いませんので」
ロラン様は今まで見たこともないような冷たい目をこちらに向けて言う。
「用はそれだけですか? それだけでしたら、私は失礼いたします」
私が呆然としているうちに、ロラン様はくるりと背を向けて行ってしまった。
『ロズリーヌ、あいつ何なの! 失礼な奴ね!』
『せっかくロズリーヌ様が魔法をかけてあげると言っているのに!』
ローズとリュカは、私の周りをパタパタ飛びながら憤慨している。私はしばらく呆然とロラン様が行ってしまったほうを見つめていたが、我に返ると彼を追いかけて走り出した。
「ロラン様! 待ってください!」
人気のない廊下で叫ぶと、ロラン様が驚いた顔で振り返った。
「どうして私の名前を知っているのですか」
「あなただって私の名前を知っていたでしょう」
「有名な聖女様なので当然です」
「私もです。小隊の副隊長様の名前くらい知っていますわ」
ロラン様は納得がいかなそうな顔をしながらもうなずいた。
「まだ何か御用でしょうか」
「教えてもらいたいのです。あなた、私の何が気に入らないんですか? ほかの騎士たちは競って私の加護を受けようとしていたのに、信じられません」
「大した自信ですね。それだけ多くの人から好かれているなら、僕のことなど放っておいても構わないでしょう。全ての人に好かれないと気が済まないのですか?」
鼻で笑うように言われ、頬がかっと熱くなる。これは本当にあのお優しいロラン様なのだろうか。
私は何も全ての人に好かれたいわけじゃない。ほかでもないロラン様だから、こんなに気になっているのだ。
「僕があなたを嫌いな理由を教えてあげましょうか」
「……え?」
嫌いだとはっきり口に出され、思考が止まる。彼は冷たい声で続けた。
「僕は与えられた力を私利私欲のために使う人間が嫌いなんですよ。あなたの噂はよく耳にします。権力者には媚びて頼まれなくても魔法をかけにいくのに、貧しい人々が病気を治して欲しいと必死で助けを求めても、無視して行ってしまうそうですね。それでも聖女なんですか?」
ロラン様の冷たい声が頭に響く。
ロラン様の顔に浮かぶのは、ロズリーヌになってからは一度も向けられたことがなかった蔑んだ表情だった。彼は心底私が嫌いなのだと思い知らされる。
「わかっていただけましたか? それでは、今度こそ失礼します」
ロラン様の背中が遠ざかっていく。
胸がズキズキ痛んだ。ローズとリュカがうつむく私の周りを飛び回って必死に励ましてくれるが、その声に答える余裕もない。
そうか。ロラン様は私利私欲のために生きる人間が嫌いなのか。
私は彼にとって軽蔑する対象なのか。
……何それ。ふざけないでよ。
「待ちなさいよ!!」
私は髪から銀製の髪飾りを引き抜き、ロラン様に向かって思い切り投げつけた。悔しいことにあっさりかわされてしまったが、ロラン様は驚いた顔でこちらを振り返る。




