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そんな日々を過ごしているうちに、騎士団の方達に加護を与える日がやってきた。
その日は朝からどぎまぎして落ち着かなかった。
きっとロラン様も来るだろう。アンナ時代、真っ先に私の加護の魔法を受けにきてくれたロラン様。顔を見られるのは、アンナの姿で最後に参加した加護の日以来だ。
私は早足で広間まで向かった。
広間にはすでに大勢の騎士たちが詰めかけていた。プリュムたちは壁際に椅子を並べて座り、騎士たちに順番に加護を与えている。
私もプリュムの一人に呼ばれるまま椅子に座り、順番に加護を与えていった。
私の椅子の前には、あっという間に騎士たちが列をなした。私が手を握って魔力を込めると、彼らは恍惚とした顔で何度もお礼を言う。
私はこんな場面でもアンナとロズリーヌの違いをまざまざと見せつけられた。
加護魔法を使いながら、目だけきょろきょろ動かして辺りを見回す。
ロラン様はどこだろう。もうほかのプリュムに加護を受けてしまっただろうか。
ロラン様はいつも真っ先にアンナを見つけてやって来てくれたので、こんな風に探しても見つからないというのは初めてだった。
「……あっ」
思わず小さく声が漏れる。視界の端に、プリュムの一人から加護を受けているロラン様の姿が見えた。
「聖女様、どうかしましたか?」
「いいえ、何でもないの」
私はごまかすように笑い、再び目の前の騎士に魔力を流し込んだ。しかし、意識はすでにロラン様のほうへ向いていた。
アンナはロラン様が好きだった。
聖女とはいえ孤児で虐げられている自分がロラン様と釣り合うわけないと、はじめから諦めていたけれど。
だけど、ロズリーヌならどうだろう。
ロズリーヌはこんなに美人で、ローズの魔法とはいえ侯爵令嬢の肩書きを持っていて、みんなから崇められているのだ。
ロラン様も今の私を見たら、好きになってくれるのではないかしら。
だって、ほら。アンナには冷たかった騎士たちが、ロズリーヌに手を握られるとでれでれしているもの。
私は新しくなった自分をロラン様に見て欲しくて、気が急いた。
「……?」
「聖女様?」
ロラン様のことばかり考えて上の空になっていたからだろうか。急に魔力が滞るような感覚がした。念じても、なかなか加護魔法を発動できない。
しかし少し時間が経つと、再び魔力が思い通りに体を巡り始めた。
「大丈夫。少し調子が悪かったようだけれど、もう何ともないわ」
「そうですか? 休憩しなくても大丈夫でしょうか?」
目の前に座る騎士は慌て顔をしていたけれど、私は首を横に振って加護の魔法を再開した。
ようやく長かった騎士たちの列もほとんどなくなり、最後の一人に魔法をかけ終わると、私は急いで立ち上がった。ロラン様はまだいるだろうか。間に合うといいのだけれど……。
騎士やプリュムの間をかき分けて進み、何とかロラン様を見つけることができた。
ロラン様は壁にもたれかかり、憂鬱そうに目を伏せている。いつも明るい笑顔を浮かべている彼らしくない姿だった。
「ねぇ、騎士様」
そう呼びかけると、ロラン様はそっと顔を上げた。私の姿を確認すると、眉をひそめて怪訝な顔をする。
こんな美人に話しかけられたのだから、きっと喜ぶだろうと思っていたのに、意外な反応に首を傾げる。しかし、あまり気にしないことにして笑みを向けた。
「ロズリーヌ様。私に何か御用でしょうか」
「私の名前知っていてくださったんですね! 嬉しいですわ」
今度は心からの笑顔で言った。ロラン様は私の名前を知っていた。やはり、美しいロズリーヌのことを彼も気にしていたのだ。私はするりと彼の右手を取り、両手で握りしめる。
「……なんですか」
「よろしければ、私が加護の魔法をかけて差し上げます。私は精霊に愛されていますから、高い効力を発揮しますわ」
「いりません。先ほどプリュムにかけてもらったので」
ロラン様はいまいましげに私を見ると、手をさっと振り払った。さすがに嫌がられていることは気のせいだと思えず、私はうろたえる。




