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教会に潜入してから、私は好き放題振る舞うようになった。
まず、用意された部屋が小さかったので、侯爵令嬢をここに住まわせるのかと文句を言って大きな部屋に変えさせた。ごねた結果、私は司教様よりも広い部屋に住むことになってしまった。
しかしその部屋は広さはあるものの、古びていて快適ではなかったので、プリュムに命じて掃除と模様替えをさせた。
家具を買うお金はローズがいればいくらでも用意できたので、好きなように部屋を飾り立てることができた。今まで私を虐げてきたプリュムたちが素直に私の言葉に従う様は、見ていて不思議だった。
次にドレスをたくさん用意した。
教会で働く間は制服を着る決まりだが、その窮屈な黒いワンピースを見ているとアンナ時代を思い出して気が滅入ったので、司教様に特例で自由に服を着られるようにしてもらった。
クローゼットがいっぱいになるまでドレスを買うのはとても楽しかった。
仕事自体も全然真面目にしなかった。面倒になると勝手に休んで、好きな場所に出かけた。十七年間のほとんどを孤児院と教会で過ごした私には、どこへ行くのも新鮮だった。
それだけ好き放題にしているというのに、プリュムたちはもちろん、司教様からも文句ひとつ言われない。
むしろ、サボらなかった日には侯爵家のご令嬢にこんな風に働いていただけてありがたいと感謝されるくらいなのだ。
アンナはロズリーヌの十倍は一生懸命働いていたというのに、理不尽なものだと思う。
契約の時にローズが言っていたように、私の魔力は劇的に増した。
たとえば傷の治癒。これまでだったらたっぷり十分間祈りを込め続けてようやく癒せたようなひどい傷を、一瞬元通りになれと念じるだけで、傷痕さえ残らないように治癒できるようになったのだ。
この前なんて、病気でずっと寝たきりだったご令嬢を走れるようになるほど回復させてしまって、ご両親から跪かんばかりに感謝された。
この力があれば、王都中の人間を健康にすることもできるかもしれない。
でも、私はこれまでのように、愚直に働くのはやめようと決めている。
これまでだったら教会に来るどんな人にも平等に治癒魔法を施し、加護を与えていたが、そういうことはやめにした。
ここへ来る前によく調べておいた権力者のリストを見て、その人たち限定で魔法をかけるようにしている。力のない者への対応は、全てプリュムたちに丸投げした。
私は庶民たちへの対応は避ける一方、貴族や裕福な商家には呼ばれなくても積極的に訪問する打算的な人間になった。
おかげで数週間もすると権力者たちからすっかり気に入られるようになり、週末には屋敷に呼ばれ、パーティーに参加するようになった。
『楽しそうね、ロズリーヌ!』
部屋で週末のパーティーに着て行くドレスを選んでいると、鏡台の上に座っているローズから嬉しげに声をかけられる。
「ええ。今度アンベール侯爵家の当主様から夜会に招かれたのよ。この前、買い物中に見かけたとき顔色が悪かったから治癒魔法をかけてあげたら、すっかり気に入られちゃって。ぜひ息子に会わせたいなんていうの」
『嘘っぱちのフェリエ侯爵家と違って本物の侯爵家なのね! すごいわ』
「でしょう? いっぱい愛想を振りまいてくる予定よ。ローズも来てくれるわよね?」
『もちろんよ』
私とローズが笑いながら話していると、青い髪の妖精が割って入るように飛んできた。
『ロズリーヌ様! 僕も行ってもいいですか?』
「もちろんよ。リュカも一緒に行きましょう」
リュカはこの間司教様から奪い取った精霊の名前だ。
五十年も閉じ込められていたからか、最初は私が何を言ってもそっぽを向くだけだったけれど、毎日可愛い可愛いと指で頭を撫で、精霊が好きだと言う砂糖菓子で餌付けしていたら、今ではすっかり懐いてしまった。
同行を許可されたリュカは目をキラキラさせて喜んでいる。
『リュカは無理して来ることないのよ。ロズリーヌは私だけで守れるから』
『ふん。お前の意見なんて聞いてない』
『生意気だわ! 新入りのくせに! ロズリーヌ、こいつちょっと花の茎で首をしめていい?』
「だめに決まってるでしょう。二人とも喧嘩するんじゃありません」
私が窘めると二人ともぶぅぶぅ文句を言っていた。精霊二人はあまり仲がよくないようだ。




