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司教様が一向に精霊を出そうとしないので、ローズに頼んで先ほどの催眠を使ってもらうことにする。
「いい? 早くこの子を出すのよ。この子は私が預かるわ」
「しかし……、いや、いえ! わかりました! この精霊はロズリーヌ様のような方の元にこそあるべきです」
「そうよ。精霊はあなたのような者が閉じ込めていていいものではないのよ」
すっかり虚ろな目になった司教様は、仰る通りですと何度もうなずいている。
籠を持ち上げ、膝の上に乗せると、中の精霊は警戒したような目でこちらを見上げていた。
私が「よろしくね、今日から私があなたの主人よ」と声をかけると、ぷいっと目を逸らされてしまった。
その後は司教様にすでにわかりきっている教会での決まりを説明された。
テストで精霊の姿をはっきり見ることができた私は、聖女として扱われるらしい。
この教会にはもう一人、ノエミという聖女がいることも聞かされた。
「ノエミは伯爵家の娘で、教会中の者から愛されております」
「へぇ。会ってみたいわ」
「ここにお呼びしましょうか。おい、そこのプリュム」
司教様はそばに控えていたプリュムを呼び、ノエミを呼んでくるように命じる。数分後にノエミはやって来た。
「ノエミ。急に呼び出してすまないな」
「いいえ、司教様。どういったご用件でしょうか?」
「実は今日から新しく聖女が来ることになったんだ。こちらがロズリーヌ・フェリエ嬢。彼女はなんと、精霊の姿が見られるんだ」
司教様が機嫌よく告げると、ノエミは目を見開いた。その顔はたちまち不愉快そうに歪む。
おそらく、やっと邪魔なもう一人の聖女が消えて自分がただ一人の聖女になれたのに、新しく精霊の見える女が現れたのでいまいましく思ったのだろう。
しかしノエミが顔を歪めたのは一瞬のことで、すぐさま人懐こい笑顔を浮かべて近づいて来た。
「私、ノエミと申します。ロズリーヌ様、どうぞよろしくお願いしますね。わからないことがあったら何でも聞いてください」
ノエミが手を差し出してそう言った。その手は取らずに、微笑みだけ返して言う。
「まぁ、可愛らしい方ね。あなたも聖女なんでしょう? ということは、精霊の姿が見えるのね」
答えはわかっていながらあえて尋ねる。
「……私は精霊の姿が見えないんです。けれど、精霊が私のそばを飛んでいるのはわかりますわ。時折、羽音や囁くような声が聞こえますから」
ノエミは一旦言葉に詰まった後、笑顔で言った。
「まぁ、そうなの。それもすごいわね」
大げさに驚いて見せると、ノエミはほっとしたように息を吐く。
「よろしくね、ノエミさん。私、教会のことは何もわからないから教えて欲しいわ」
そう言うと、ノエミは「もちろんですわ」とうなずいた。