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最終話 ツンデレ属性、俺様傲慢王子は悪役令嬢をつかまえたい!




 ユーフラテスにとって、ヒロインがハロルドと結びつくことは大いに意味がある。


 ネモフィラのような溺愛スチルが見たいだとかヒロイン萌えだとか推しキャラだとか、そんなものは、もちろんどうでもいい。


 大魔女ナタリーの力を受け継いだヒロインがキャンベル辺境伯令息と婚姻によって結びつく。ということは。


 ユーフラテスの王子妃となるネモフィラの生家、キャンベル辺境伯家に強力な力を繋ぎ留める。

ヒロインの相手とするハロルドも、ユーフラテスの子飼いのようなものである。よく懐いている。


 結ばれた暁には、夫婦揃ってうまく使える。


 ヒロインは元を辿ればキャンベル辺境伯家の血を受け継いでいるが、現状どう見てもただの平民で、血の繋がりを主張することは難しい。


 キャンベル辺境伯に養子にとらせることも一考したが、辺境伯とあろうものが突然素性の知れぬ平民を養子に迎えるとなると、要らぬ憶測を呼ぶ。

 ならばキャンベル辺境伯の弟であり、嫡子のいないジョンソン氏の養子とさせ――養子とする理由はいくらでもある――、そこでハロルドに婿入りさせる。


 家格は落ちるが、そもそもハロルドは爵位を継げぬ次男坊。

 ジョンソン氏の治める領地を継ぐことができるとなれば、ハロルドにとっても悪い話ではない。


 そこまで考えると、ユーフラテスは無表情を貫くハロルドを見た。


 端正な顔を歪めることもなく至極澄ましているが、おそらく内心では相当反発しているに違いない。


 何といっても相手はみすぼらしい孤児。

 顔立ちは悪くないが、痩せこけて体は薄く女性らしい丸みは一切ない。

 髪も短く艶もない。


 女遊びを嗜み始めたハロルドにとって、束の間のお遊びの相手としても全く食指の動かぬ相手だろう。

 ハロルドとて平民を相手にしたこともあるだろうが、これは毛色が違う。


 ――だが化けてもらうぞ。


 これまで散々ヒロインの人生を引っ掻き回してきたユーフラテスだが、ハロルドを宛がうことはヒロインにとっても願ってもいない幸運であろうと結論づける。


「どうだ? 他にお前の望むものはあるか?」


 言ってみろ、と促すと、ネモフィラは喜びに輝く目、紅潮した頬のままユーフラテスを見上げた。

 上目遣いが絶妙にユーフラテスを貫いた。


 ハロルドとヒロインを結んでやることが、ネモフィラには相当嬉しいらしい。


 一方でネモフィラの上目遣いに悩殺されたユーフラテスは口元を手で覆う。


 どうやら上機嫌の様子のユーフラテス。

 ネモフィラはこれまで口に出来なかったことを思い切ってユーフラテスにぶつけてみることにした。


「わたくし、子を生むつもりはございませんの」

「いいだろう。どうせ兄上の即位後は、一代限りの公爵位を賜るに過ぎん」

「……白い結婚がしたいのです」

「まあ当分はそれでもよい」


 即答したユーフラテスにネモフィラは戸惑った。


 三年子なきは去れとばかりに離縁してもらおうだとか、妾を囲ってもらおうかと考えていたのだ。

 それだからユーフラテスに嫁ぐことを了承したのである。


「お前の考えていることくらいわかる。子がなくとも離縁はしないし、妾も囲わん。まあそれは婚儀を済ませてからの話だがな」


 快活に笑うユーフラテスにネモフィラは胡乱な目を向けていたが、構わない。

 婚姻を交わしてさえしまえば、あとは全て思うが儘だ。


 院長はキャンベル辺境伯で余生を過ごしてもらう。


 だがしかしその頃には既にネモフィラは王宮へと連れ去られ、みっちり王子妃教育に励んでもらう。

 王子妃教育の合間に孤児院への慰問を設け、キャンベル辺境伯家邸宅には立ち寄る時間を減らし、また辺境伯にはネモフィラと院長が顔を合わせることのないよう取り計らってもらう。


「婚儀は来年だ。忙しくなるぞ。覚悟しておけ」

「はい……」


 これまでネモフィラが逃げ回っていた煩わしいあれやこれやが、婚儀に向けて一気に襲い掛かってくるのだと思うと、ネモフィラはゲンナリした。

 萎れてしまったネモフィラに苦笑を浮かべ、ユーフラテスがネモフィラの頭を撫でる。


「婚儀の翌日からは祝宴が一週間ほど続くからな。晩餐会は難しいだろうが、日中のパレードで会わせてやろう」


 ――それくらいならば許してやる。


 ネモフィラは何のことだろうと、問いかけるように眉を寄せてユーフラテスを()め上げる。

 ユーフラテスは院長との再会を婚儀のパレードでのみ許すと決意し、それ以上は口にせず、成り行きを見守っていたハロルドを呼んだ。ひとまずハロルドにネモフィラを連れて帰らせなければ。







 乙女ゲームだの、年老いた孤児院院長だの。


 どちらにせよ、架空の色恋。

 己の手から離れた場所で、巧妙に作られた偽の慕情に耽ることと相違ない。


 ネモフィラは己を安全な場所に置き、傷つくことなく失うこともなく、恋の高揚感だけ、甘いところだけを味わおうとしている。

 子を産むことを異常に嫌悪し恐れ、子供そのものまで忌避する。

 殻に閉じこもり、現実と夢を混同してまで必死に己の心を守っている。


 気がつかぬとでも思っているのか。


 自らの心が恋に触れぬよう頑なに鍵をかけながら、それでも恋物語に焦がれている。

 架空の色恋に興じることで、恋に憧れる乙女の心を慰めている。

 俺が知らぬとでも思うのか。


 ネモフィラは白い結婚、お飾りの王子妃になるつもりでいるようだが、ばかめ。

 そんなわけあるか。

 ネモフィラ。お前はもう逃れられぬのだからな。ざまあみろ。


 この俺が呪いを解いてやる。覚悟しておけ。






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