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4 激おこぷんぷん丸なんですけど!



 重大な国家秘密を有してしまったネモフィラを王家が逃すことはない。


 ネモフィラのこれまでの令嬢として不足する素行、迂闊さが危ぶまれ、()()()()()()()()ことも提案されたが、これにはユーフラテスが断固反対した。


 隣国への牽制、防壁としての役割を担うキャンベル辺境伯の心象を損ねるより、失態を犯したネモフィラを王家が保護することにより、キャンベル辺境伯の王家への忠誠心を高めるべきだと熱弁を奮ったのである。

 またキャンベル辺境伯の有する武力は国内最大であり、万が一、これを機に反旗を翻され、辺境伯騎士団の全力でもって王都に向かってきた場合、どれほどの被害・損失となるか、国として許容を越えるだろうと訴えた。


 ユーフラテスの指摘について、宰相を始めとした高級官僚達は検討した。


 キャンベル辺境伯は穏やかな人柄で知られている。

 が、貴族らしからぬ子煩悩としても有名で、また武官であることから、緻密な政治的戦略を練るよりも、親子の情に流され武力に訴え出る可能性は低くない、と判断された。

 最終的に、王がユーフラテスとネモフィラの婚約続行を認めた。

 またキャンベル辺境伯に対しては、辺境伯領地の上納金を一部王家に貢納させることで手打ちとした。



 事と次第を知ったキャンベル辺境伯は、ユーフラテスへの態度を改めた。

 情に弱く忠義に厚い辺境伯は、これよりユーフラテスに厚恩を抱くのである。



 こうしてネモフィラの父親であるキャンベル辺境伯からの信頼を勝ち取ったユーフラテスだったが、肝心のネモフィラには素直に好きだと言えず、こんな落ちこぼれ令嬢の相手をしてやる俺様に感謝しろ! くらいの気持ちでいた。

 いやホント、クソ王子。


 散々アホだ間抜けだと罵倒されながら、ネモフィラはユーフラテスとのお茶会を重ねた。


 王宮の茶会での騒動の後、一週間ほど寝込んだネモフィラだったが、床上げ後も特にこれまでと変わった様子はなかった。

 いつも通りノンビリ欠陥令嬢のネモフィラにユーフラテスはこっそり安堵した。


 領地で儚くなるかもしれなかったネモフィラの命をユーフラテスが救ったことなど、ネモフィラは知る由もなく、ユーフラテスの自慢話や嫌味を聞き流しては、相槌を打つ。

 二人の茶会はこれまでと変わらず、ゆっくりと時が流れた。


 しかしそのうちネモフィラは、前世が乙女ゲームが攻略対象がヒロインが、というわけのわからない話をしだした。


 ネモフィラは悪役令嬢らしい。


「はっ。お前のようなドンくさい女に悪役が務まってたまるか」


 つまりは可愛いネモフィラたんは悪役なんかじゃないよ、お姫様として王子様の僕のお嫁さんにおいでチュッチュという意味だったのだが、傲慢俺様ツンデレショタのユーフラテスは憎まれ口を叩くしかできなかった。

 それなのにネモフィラはユーフラテスが他の女に懸想して、あまつさえは結ばれる可能性もあるなどと言い出す始末。


 ――こいつ、何もわかっていない……!


 ユーフラテスは怒りに震えた。


 しかしそれでもユーフラテスがネモフィラに好意を伝えることはなかった。できなかった。


 矜持高すぎ傲慢俺様ツンデレなので素直になれず、ぽっちゃり地味令嬢な上、乙女ゲームとか突拍子もないことを言う、客観的に見ても落ちこぼれ令嬢のネモフィラは、ユーフラテスにとって天と地がひっくり返っても下手に出る相手ではなかった。


 ネモフィラのためなら良心に(もと)る行いも難なくできるし、理不尽な王子命を出すことも厭わないけれど、ネモフィラがユーフラテスに乞い願うのであって、ユーフラテスがネモフィラの顔色を伺うのは自尊心が許さない。


 良心云々は、そもそもユーフラテスにあるのかないのか怪しいと周囲からは見なされていたが、実はユーフラテスは、ネモフィラが関わらなければ、そこそこ普通の感性の持ち主で割と情けもある。


 おっとりして見えるネモフィラの方がずっと薄情非情だということは、あまり知られていない。

 単純にネモフィラは馬鹿だったので、周囲から見下されていて、危険視されていなかったのである。


 ユーフラテスはそんな貴族失格格下令嬢ネモフィラに、憎まれ口を叩いて馬鹿にしてしまう。本当は大好きなのに。もうデレデレに。


 こんなに奇天烈で面白くて可愛いバカは世界中探してもいないと思っている。

 いやこの王子、やはり根から傲慢。


 もちろんユーフラテスはネモフィラのことをバカだと思っている。まあ実際馬鹿だし。


 それなのにネモフィラは逃げた。


 ヒロインが育つ孤児院を見たいから、断罪される前に自ら出奔してやりますわ! とかわけのわからない理由で。


 断罪などするかアホ!

 孤児院だと?

 自分だって子供のくせ、子供嫌いなくせに!


 母親に孤児院慰問へ連れて行かれそうになるときはいつも、謎の腹痛にかかって部屋に籠もったり、ユーフラテスとの茶会があったのを忘れてたとか適当な嘘をでっち上げて王宮に参内して逃げてくるくせに。

 まあそれはいいけど。いつだってウエルカム大歓迎だけど。


 しかも男の従者まで連れてきやがった。いや従者がついてったのか?

 浮気かこの野郎。その従者、男の機能なくしてやるからな!


 そしたら従者じゃなくて孤児院院長のジジイに惚れやがった。

 ふざけんな。いくつ違うと思ってんだバカ。


 おいコラ締めるぞこの野郎。と思ってたら、今度はキャンベル辺境伯が婚約解消してはどうかと提言してきた。

 は?

 臣下のくせにお前から婚約破棄言ってきちゃうわけ? 激おこぷんぷん丸なんですけど!




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