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2 婚約者がぶっ倒れた!



「ナタリー・キャンベルはレオンハルト二世から寵を得ていたのですが、キャンベル辺境伯家は当時より純血主義ではなく、他国――主に隣国ですわね。血が混じっており、王妃に相応しくなかったのです。そこでレオンハルト二世とナタリー・キャンベルの婚約関係は解消に至りましたの」

「いや、ネモフィラ。お前何を言っているんだ?」


 ユーフラテスは困惑した。何やら壮大な裏歴史のようなものがネモフィラの口から語られている。

 あのアホの子、ネモフィラからである。


 しかしネモフィラはユーフラテスの戸惑いなど物ともせず、どこか遠いお空のどこかへと水色の瞳を向けながら、無表情で語り続ける。


「けれどレオンハルト二世はナタリー・キャンベル以外の妃をとることをよしとしなかった」

「いやっ! 彼は隣国の第一王女を娶ったはずだ!」


 流石にこれにはユーフラテスも反論した。

 第十一代国王が他国の姫を我が国の王家に連ねたことから、王族の青い血は失われたのである。


「ええ。それは今はなきヴリリエール公爵家の奸計により、レオンハルト二世の元からナタリー・キャンベルが失われた後のことですわ」


 ヴリリエール公爵家。


 確かに歴史書にその名は存在するが、あるところでその家系図は途絶えている。

 また当時ヴリリエール公爵領とされていた領地は三分化され、現在はメロヴィング公爵領とモールパ公爵領、キャンベル辺境伯領となっている。


 つまりは取潰されたということか。


 ユーフラテスは思ってもみなかった話に、青くなった。

 ユーフラテスの後ろに控えていた護衛騎士の一人が減っている。

 ユーフラテスは震える手でカップを取り、冷えた紅茶を一気に煽った。


「……今はメロヴィング公爵領、モールパ公爵領、それからお前のキャンベル辺境伯領となっているな」


 ユーフラテスは俺様傲慢ツンデレ王子で、なかなかバカっぽかったが、サボることなくきちんと王子教育を学び、王族の一員として真摯に向かい合っている、意外と優秀な王子だったので、ネモフィラのトンデモ話に乱入してきた、約百五十年前の公爵領の在処と、また現在の領主がなんとかわかった。なんとかね。


「メロヴィング公爵家は、レオンハルト二世の同腹のお兄様で、レオンハルト二世が即位するまで王太子であられた第一王子ジークフリート様の娶った正妻の実家であり、モールパ公爵家は第一王子ジークフリート様が臣籍降下した際にレオンハルト二世が与えた爵位ですわ。キャンベル辺境伯家は言わずもがな、ナタリーの生家ですわね」


 そこにネモフィラが各家の由来を重ねてきた!

 なんとか出来る王子の面目を保とうとしたユーフラテスは膝から崩れ落ちそうだ!


 ユーフラテスはぶるぶると震えながらも、高度(?)な歴史を語るネモフィラについていこうと踏ん張った。


「つまり、お前が言いたいのは……」


 乱暴に前髪をかきあげると、ユーフラテスの白い額にパラパラとくすんだ金の髪が落ちた。


「第十一代国王の政策変更は、諸外国との問題に外交的解決を講じたわけではなく、単に惚れた女を害された逆恨みだってことか?」


 こちらを見ようともせず、相変わらずお空のどこかをボンヤリ眺めているネモフィラを、ユーフラテスは睨みあげた。


 ――話しているときくらい、こっちを見ろ!


「さあ。それはわたくしにはわかりかねますが……」


 ネモフィラのぼんやりとした薄い水色の瞳がユーフラテスのもとに戻ってくると、ネモフィラはくりっとつぶらな目をまんまるに大きく見開いた。


「わたくし、何を言っているの……!」


 絹を切り裂くような、甲高く細い悲鳴を上げると、ネモフィラはグルンと目を回して泡を吹き、椅子から崩れ落ちた。

 慌ててユーフラテスは飛び出し、崩れ落ち意識を失ったネモフィラを両手に抱え、侍医の手配を命じた。


 ユーフラテスの目の前には、血の気の引いた真っ青なネモフィラの顔があった。

 いつも血色よく、ふくふくと肉に富み、柔らかなその頬は、今は冷たく青褪めて、拭われた口元には泡の痕が残っている。


 茶会の催されていた中庭は突如騒然となり、慌ただしく人が行き交う。

 ネモフィラの語った約百五十年前の真相が、王宮勤めの者達の間で密やかに縷説蔓延(るせつまんえん)していった。




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