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アンディルットゥルテ



島のみんなが寝静まり、日付けも変わり夜が深まるそんな時。夜行性のフクロウ、コノハがいつも通りに島を見渡していると、いつもは聞こえてこない声が聞こえてきました。


「ここはどこだい。私は誰だい。いいや、ここがどこだか知っている。この甘い香りに、お菓子たち。私は、誰だか知っている。ここは私が、いいやおれさまが作った、アンディルットゥルテ。そう、おれさまは…」


コノハが声の聞こえる方を見ると、深々と帽子を被りよれたシャツに大きな靴を履いて、夜道をランタンで照らしている人が居ました。


「それにしても暗いなあ。いやあ、暗い暗い。明かりは、灯さないとだね」


ぶつぶつと独り言を話す彼と、ランタンの明かり越しに目が合ってしまったと驚いたコノハは、慌てて遠くに向かって飛び立ちました。そして飛びながら思い返します。そういえば、彼には目玉が無かったことを。


朝が来て島も明るくなった頃、住人達は騒然としました。どこもかしこも、いつも溢れかれるように当たり前にあったお菓子が食べられていたのです。かじった後や、食べカスが転がっていたりと。ビスケットの道はボコボコに、わたあめは小さく、金平糖の飛び石は渡るには難しくなっていました。山になっていたケーキの数々も、食べたあとのスポンジやクリームが残っているだけでした。住人達はそれぞれに慌てて、島の中心にある職人広場まで駆けつけました。わたあめのエスカレーターも、途切れそうになっています。


「夜のうちに何があったんだい?」


「私達にも分からないのよ、ルデン。リンガーと私も今朝起きて驚いたの」


「僕はルデンがアメ玉を食べられなかった腹いせに食べたのかと思っていたよ」


「なんてことを言うんだフィン!僕はそんなに食いしん坊じゃないぞ」


「誰か、原因を知らないのかしら?」


タキがそう言うと、普段は姿を見せないコノハがみんなの前にやって来ました。


「私は見たよ。あれは、お化けだ!恐ろしい!夜な夜なランタンを片手に、島中のお菓子を食べ漁る姿をね。私は見ていた。あの目玉のない者を」


コノハの話を聞いて、みんなはまた騒ぎ出しました。ルデンは寄り添って怖がるラドールとリンガーを励まして、フィンはルデンの影に隠れました。考えを巡らすタキの側で、辺りを見渡そうとしたコノハの後ろから誰かが来ました。


「何だか至る所に食べられたような跡があるんだけれど、何かあったのかい?」


現れたのはお菓子職人のレオでした。広場にあったお菓子まで少なくなっているのを見て、レオが驚いて見回っていると、また誰かの声がしました。


「うるさいなあ。食べたのはおれさまだよお。いつの間にか、眠っちまってたなー」


「目玉が…」


「…無い!!」


「がいこつ!!」


「お化けーーー!!!」


「失礼だな君達は!お菓子に目が無いのは認めるよ。認めるけれども目玉が無いだなんてそんな事…。無ーーーい!!!目玉どこー!」


お互いに驚きあってしばらく、帽子を被り直しているほとんど骸骨なお化けに向かってルデンが言いました。


「お化けがこのアンディルットゥルテに何しに来たんだ!」


「何を言っている。アンディルットゥルテはおれさまの名前だ!アンディと呼んで構わんぞ」


「え、まさか。生きていたのか!?あのアンディルットゥルテが!?」


「いや死んだし、お化けだよ。だってほら、目玉も無いし。目玉どこ?」


「う、ウソだね!お化けだとか、アンディルットゥルテだとか。だって証拠も無いじゃないか!」


「証拠ならあるじゃないか。目玉無いよ?むちゃくちゃお化け、間違い無い。死んだことも、覚えてるしね。目玉どこ?おれさまがアンディルットゥルテだという証拠は、確かに無いね。昔話をして信用してもらおうとも出来るけれど、面倒だしどうでもいい。それよりも、お菓子を作ってくれないか?職人達よ。ブルーベリーを使った物がいい。ブルーベリーにも目が無いもんで」


「今居る職人は、僕だけだよアンディ。僕はあなたがアンディルットゥルテだと信じるよ。何となくだけれどね。これ、僕が作ったんだ。食べてみてほしい」


レオがアンディに差し出したのは、昨日リンガーが食べたシュークリームと、派手な色をしたケーキでした。


「んんー、んんんー。うん!美味しくないね!こっちは見た目が派手なだけで中味スッカラカンって感じだし、こっちは食べたいと思わなかったかな!でもありがとうね、ごちそうさま!」


「流石はっきり言いますね。今までは派手なだけで、大抵ウケは良かったんだけれど。やっぱり通用しないか」


「する訳ないじゃないか。生きてた頃なら、この島から追放していたね!」


「あなたが居なくなってから、職人達は次々と島を出ていったと聞きました。今は彼等みたいに、食べることしかしない住人ばかり」


「いい事じゃないか。食べてくれる人が居るなら、作りがいがあるってものだ!今はおれさまも食べたいばかり。でもおれさまが居なくなったことで、職人が居なくなっちゃったのは、悪いことしちゃったな。なんてったって、おれさまが中心だったからね。まあそんな事は置いといて、みんなでお菓子を食べようじゃないか。ね!」


それからしばらく、職人広場はいつの間にかお菓子パーティーの会場の様になっていました。住人達はアンディとレオにお菓子の種類や作り方を聞いて、レオはアンディと住人に材料のある場所などを聞いて盛り上がっていました。そしてあっという間に、夕暮れ時になっていました。みんなで沈む夕陽を見ていると、レオが異変に気付きました。


「アンディ!身体が透けてるよ!」


「当たり前だよ。お化けだもん。おれさま、一回死んでるんだよ?」


「でも、どうして急に生き返ったの?他の死んだ人も、みんな生き返るの?」


「そんな事、おれさまにも分からないよ。しかも生き返ってないしね。お化けだもん、目玉も無いし。みんな生き返るわけ無いじゃないか。訳わかんなくなっちゃうよ。普通はみんな、消えて無くなっちゃうんじゃないかな。おれさまは、ずっとお菓子の事を考えていた。死んでも尚、おれさまはおれさまだった。んで、気がついたら真っ暗な中を、ランタンの明かりを頼りに歩いていたんだよ。ここへ辿り着いたのは、お菓子の香りのおかげかな。そうだ、みんなにお願いがあるんだ!」


「どんなお願い?」


「目玉はあげないよ?」


「目玉なんて要らないよ!見えにくいだけで、ちゃんと見えてるからね。でも、見えにくいからお願いがあるんだ。おれさまがまた戻って来れるように、島に明かりを灯して欲しいんだ。お誕生日ケーキみたいにね!道なりにも、この広場にも。死んだら、道が無くなるからね。お菓子もたくさん食べちゃったから、次におれさまが来るまでに、お菓子を作っておいて欲しい。それはもう、山ほどに!」


身体が透けていくアンディのお願いを、みんなは聞いてロウソクを立て始めました。アンディのランタンを先頭に、みんなでお菓子を食べながら暗がりにロウソクを立てて回りました。そして日付けが変わる頃にアンディは、すうっと居なくなりました。


その日からしばらく、みんなはお菓子作りに励み、夜になるとロウソクに明かりを灯してアンディを待ちましたが、アンディが現れることはありませんでした。お菓子を作っては、食べて。作っては食べて過ごして。レオがアンディが帰って来たことを広めた事で、お菓子職人が訪れる事も増えたけれど、アンディは帰って来ませんでした。しかしちょうど一年経った日の朝、また島のお菓子が荒らされて居ました。それに気がついた住人達が広場へ行くと、アンディが帰って来ていました。


「明かりを灯してくれって言ったじゃないか!目玉無いんだよ!?」


怒ったアンディは、手当たり次第にお菓子を食べ漁りました。その光景を見て、住人達は明かりを絶やさないようにしようと決意しました。しかしまた、アンディは帰って来ませんでした。


「もしかして、アンディが帰って来るのは一年に一度、10月31日なんじゃないかしら」


タキの考えに皆は納得して、次の年に明かりを灯して待っていると、アンディは帰って来ました。出迎えてもらえたアンディは喜び、イタズラにお菓子を食べ荒らすことはしませんでした。みんなはその日を、アンディルットゥルテの日としてお祭りの日としました。そして次第に噂は広まり、お菓子の発表会も開催されるようになりました。



みんなは言います。


「おかえりアンディ」と。


そして集まったみんなに、アンディは言います。


「ようこそ、アンディルットゥルテへ」と。







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