フィン
「さあ、今日もぶどうのアメ玉を探すぞ!」
バターを砂糖で固められた木の上で、大きく身体を伸ばして顔をグリグリと拭ったフィンはさっと木から降りると、いつものようにアメ玉探しに出かけました。いいえ、いつものようにアメ玉探しに出かけようとしました。
「そういえば、昨日隠したアメ玉はどこに隠したんだっけ」
フィンは見つけたアメ玉を、どこかへ隠してから眠り、目が覚めると隠した場所を忘れてしまっているようです。そしてそれは、今日だけでは無い模様。また顔をグリグリと拭って、フィンは隠したアメ玉を探しに、出掛けていきました。金平糖の石飛びを軽快に飛び越えて、ラムネの湖へ辿り着きました。
「くぅーっ、ラムネ最高ーっ」
湖へ小さな鼻事突っ込んで、ぐびぐびぐびぐびとラムネを飲んだフィンは、げっぷを出しながら一息つきました。空を見上げていると、微かにラムネとは違う甘い匂いが香りました。フィンは小さな鼻を頼りに辺りを見渡すと、湖の反対側に光る何かが見えました。飛び上がり駆け出して、光る物の場所へ向かうとそこにあったのは、みかんアメの小さな欠片でした。
「なんだよ、アメ玉の欠片じゃん。しかもぶどうじゃないのかよ!」
フィンは文句を言って、その欠片を蹴っ飛ばしました。蹴飛ばされた欠片は、小さな音を立ててラムネの湖へ落ちてしまいました。
「ちょっとあなた!なんてことするの!?」
その声に、フィンは驚いて振り向きました。そうするとグミの林から、猫のタキが詰め寄って来ました。
「どうしてあの欠片を蹴飛ばしたの!?やっと見つけたと思ったのに!」
「だ、だって、欠片だよ…?もうアメ玉じゃないし…」
「アメ玉じゃないから何なの?!食べ物でしょ!蹴飛ばすなんてありえないわよ。二度としないで!」
タキはフィンを怒鳴り散らして、怒りが収まらないままにその場を去って行きました。タキに怒られて怯えたまま取り残されたフィンは、しばらくその場でラムネの湖を眺めました。
「なんだよ、なんだよ!欠片じゃないか、アメ玉じゃないじゃないか。僕はアメ玉を、探しているんだ。関係ないじゃないか。そんなに怒らなくたって」
膝を抱えて文句を散々に言ったあと、フィンは顔をぐりぐりと拭って、気分の晴れないままにアメ玉探しを再開しました。グミの枝から枝へびよんびよんと飛び跳ねて林を抜けると、川岸に出ました。水をゴクゴクと飲んで顔を拭っていると、対岸に生えているミントの中に、キラリと光る物が見えました。フィンはザブザブと川を渡って光る物のそばまで辿り着くと、生い茂るミントの中には紛れも無いぶどうのアメ玉が二つありました。
「わああ、アメ玉だ!ぶどうのだ!本物だ」
フィンは小声で叫ぶと、他にも無いかと周りを探し始めました。そして反対側に通るビスケットの道側へ回り込むと、アメ玉があった場所には明らかに自分で付けた印が残してありました。
「僕はどうしてこんな所に隠したんだろう。まあ、いいや」
フィンは辺りを見回すと、ぶどうのアメ玉一つを口へ入れました。甘い甘いぶどうの味が口いっぱいに広がり、スッキリとする香りが気分を爽快にさせました。フィンがアメ玉を堪能しているのも束の間に、遠くからビスケットの道を歩いてくる犬のルデンが見えました。フィンはそれを見て、咄嗟にもう一つのアメ玉も口へ入れようとしましたが、慌てて入れようとして思い切りよく自慢の前歯に当たってしまいました。その衝撃に、アメ玉は少し欠けてしまいました。それでも欠けたアメ玉を口へ放り込み、アメ玉の欠片を手に取ると、後ろから声を掛けられました。
「やあ、フィン。今ぶどう味のアメ玉を探しているんだけれど、どこかで見ていないかい?」
欠片を懐へしまいながら、慌てて返事をしたフィンの口からは、ぶどうのアメ玉がぼろりと出てしまいました。
「ご、ごめんね!探しているとは知らなかったんだ。これで良かったら、食べる?」
「いらないよ!君のヨダレまみれじゃないか!僕も食べたいんだけれど、他に見ていないかい?」
「今日見つけたのは、この二つだけだよ。僕も探しているから、見つけたら君の分を残しておくね」
「そうなのか、残念だよ。ありがとう、じゃあ見つけたら教えてね」
ルデンを見送ったあと、フィンがバターを砂糖で固めた木まで戻って来る頃には、頬張っていたぶどうのアメ玉も、口の中でコロコロ転がせる欠片程になっていました。木に登って寝転がったフィンは、懐へしまった欠片を取り出して見つめました。そしてタキに怒られたことを思い出して、投げ捨てようと腕を振り被りました。でも、フィンは振り上げた腕を下ろしました。握りしめた手を解いてまた欠片を見つめると、溜め息をついて懐へしまいました。そしてごろんと寝転がったフィンは、まだ口の中に残るアメ玉の欠片と共に、その日を過ごしました。