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ラドール


「あら、おはようリンガー。もうケーキを食べたの?口元にクリームがついているわ」


「おはよーラドール。食べたよー。美味しかったけれど、そろそろ違うのを食べたいかな。飽きてきちゃった」


水辺の畔でくつろぎ、割った板チョコをつまんでいるラドールの所へ、犬友達のリンガーが来ました。リンガーは水辺で顔を洗うと、ラドールのそばで寝転がりチョコをつまみました。


「チョコも美味しいけれど、なんだか違うのよねー」


「横から取っといて何言ってるのよ、じゃあもうあげない」


チョコの器を抱え込んだラドールに、リンガーは飛びかかりじゃれ合いました。器のチョコをバクりと口へ入れたラドールの顔を見て、リンガーは笑い転げました。笑い疲れた二人が落ち着くと、ラドールはリンガーに聞きました。


「じゃあ何が食べたいの?」


「そうねー。じゃあ、アメ!アメ玉が食べたい。みかん味のアメ玉!」


「アメ玉かー。良いわね。それじゃあどっちが先に見つけるか、競走しましょう!夕暮れまでに見つけて、ここに戻って来た方の勝ちね」


「いいわよ。絶対先に見つけるわ!」


意気揚々と、二人はアメ玉を探しに行きました。しかしラドールは、アメ玉を探しに行くと思いきや、チョコレートの森へ向かいました。ここにはチョコレートで出来た木や、ビスケットやクッキーで生ってる茸や筍が沢山あります。ラドールはここでアメ玉を見たことはありませんでしたが、チョコレートが食べ足りなかったので集めに来たようです。


茸や筍を拾い集めて、木の小枝をポキポキと集め終わると、木の皮を剥がしました。剥がすと、中からはチョコレートの蜜が出てきました。それを木の皮にたっぷり掬うと、ラドールは鞄にいっぱいの小枝や茸に筍を見て、木の皮を片手に歩き出しました。ビスケットやクッキーで出来ている茸や筍を、チョコレートの蜜につけて食べていると、森を出る頃には木の皮の最後のひとくちを惜しんでいました。


「そろそろアメ玉を探さないと」


鞄にある茸や筍が半分ほどになってしまっているのを見て、食べ過ぎてしまったと反省しながらラドールが歩いていると、たくさんのお菓子の香りに混じってみかんの香りがあることに気が付きました。香りを辿るように進んで行くと、犬友達のルデンが歩いてきました。


「ねえルデン、みかん味のアメ玉をどこかで見なかった?」


ラドールの問いかけに、ルデンは口をもごもごとさせながら「見ていない」と、答えました。ルデンの様子と答えを聞いて、ラドールは溜息寄りに一息ついてルデンとすれ違って歩いて行きました。


「どうして隠さなくていい事を隠すのかしら。つかなくていい嘘までついて。どうせついた嘘も、嘘のうちじゃないのよね」


ため息をついたあと、鞄の小枝を取り出してひとくち食べて「はあ、美味しい」と、またため息をつきながらラドールは歩き続けました。夕暮れまでの時間はあとわずか。ラドールが諦めかけていると、また薄らとみかんの香りを嗅ぎつけました。ごくごくわずかなみかんの香りは、どうやらスコーンの岩場からのようでした。スコーンをつまみ、小さな欠片を鞄へ詰めながら掻い潜り進んでいくと、アメ玉の欠片が大きなスコーンの上に突き刺さっていました。


「ねえ待って!ちょっと待って」


ラドールがアメ玉の欠片を手に取ろうとすると、どこからか呼び止める声が聞こえてきました。辺りを見渡し上を見ると、靱やかな足音を響かせて猫のタキが駆け寄って来ました。


「お願い。その欠片、私に譲ってくれない?」


「え、これは私のじゃないけれど…。でも…」


「お願い!まん丸いアメ玉を見つけたら、あなたにあげるから。その欠片は、私に譲ってくれない?」


淑やかに澄ましている雰囲気のタキが、息を切らして駆け寄りお願いをする姿を見て、ラドールは「まあ、良いか。あげる」と言いました。それにタキは飛び跳ねて喜んで、ラドールへ抱きつきました。


「ありがとう!本当にありがとう。ずっと探していたの、この色の欠片を」


「食べないの?そのアメ」


「食べないわよ。譲ってくれた御礼に見せてあげる。私の宝物」


そう言ってタキは、懐から小さな小瓶を取り出しました。その小瓶の中には赤や緑に青と橙と、様々な色の小さな小さなアメ玉の欠片で出来たアメ玉が入っていました。


「綺麗…」


「でしょ?私の宝物なの。少し橙色が足りなかったから、この欠片が欲しかったの。次は、そうね。深い青色かな」


タキに手を振ったあと、ラドールは水辺の畔へ帰ろうと向かいました。リンガーに申し訳ないと思って苺ショートケーキと、また森に寄って小枝を集めて戻りました。夕暮れ時の少し前、ラドールが水辺へ戻って来ると、先にリンガーが戻って居ました。


「あら、おかえりラドール」


「ただいま。早かったのね。私の負けかー」


「負け?なにが」


「アメ玉を見つけたんじゃないの?」


「アメ玉?あー、途中で気が変わっちゃった。これ!これあげる!」


リンガーが差し出したのは、沢山のシュークリームでした。それを見て「まあ良いか」と、またため息をついてラドールは腰を下ろすと、集めてきた小枝に茸や筍と、スコーンに木の蜜を広げました。


「私は欠片を見つけたんだけどね、タキにあげちゃった。ごめんね、リンガー」


「いいわよそんなの。このカスタードの食べてみて!すっごく美味しいから。でもタキがアメ玉を欲しがるなんて、あの雰囲気からは想像出来ないわ」


「私もあんなタキを見たのは初めて。ちょっと可愛いかった。普段は物静かだからね。あー、あとルデンにも合ったわ。アメ玉見てない?って聞いたんだけと、見てないって。彼アメ玉を食べてたんだけれど、嘘つかれちゃった。どうして隠したのかしら」


「嫌われたくなかったんじゃない?」


「好かれてもいないのに?よくわかんない」


その後も二人は、暗くなっても明かりを灯してお菓子をつまみにお喋りし、明かりを消して星を眺めてお喋りして過ごしました。






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