ルデン
お菓子が好き。頬張って頬張って、頬張って。お菓子はいつも微笑んでくれる。ケンカをしたあの子とも、お菓子を分けて仲直り。お菓子はいつも笑顔をくれる。つらい合間に、お菓子とひととき。いつもお菓子は、お菓子なままで。
大きな大きなケーキのその影で、少し大きな犬が寝そべっています。彼の名前はルデン。甘い香りに包まれて、ぐっすりと眠っているルデンの頭に、ふわふわなケーキのスポンジが一つ、また一つと落ちてきます。それに目を覚ましたルデンの頭に、また一つと落ちてきました。どうやら上で、誰かがケーキを食べているようです。ルデンは大きなあくびをすると、落ちてきていたスポンジをパクリと食べて、むしゃむしゃのそりと、歩き出しました。
「今日はぶどうのアメが食べたいな。まんまるーいアメ玉の」
本日のルデンが目指す目標は、ぶどう味のアメ。小川に流れる綺麗な水を飲んだルデンは、ぐいっと身体を伸ばすと、辺りの香りを嗅ぎ分けながら歩き出しました。甘い香りに、また甘い香り。生クリームや砂糖にハチミツ、甘い甘い香りの中でアメを探して歩きます。
「この辺にはないのかなー」
大きくはないけれど、お菓子の溢れ返っているこのアンディルットゥルテで、小さなアメ玉を見つけるのは一苦労。香りを頼りに散策していると、ルデンはアメ玉の香りに気付きました。しかし見つけたのは、オレンジ色のアメ玉。みかん味です。まあ良いかと気休めに、みかん味のアメ玉を口に入れて、ルデンはまた歩き出しました。
「ねえルデン、みかん味のアメ玉をどこかで見なかった?」
歩き出してしばらく、犬友達のラドールが声を掛けてきました。咄嗟に口の中にあるアメ玉を上手く隠して、「見ていない」と答えました。それを聞いたラドールは、ため息をついて残念そうにどこかへ行きました。その後ろ姿を見ながら、ルデンは小さくなったアメ玉を、噛み砕いて飲み込みました。
気を取り直してぶどう味のアメ玉を探してはみたものの、一向に見つけることはできません。そこでルデンは思い付きました。ぶどう味のアメ玉を、好んで食べるリスのフィンに聞こうと。ビスケットで出来た道を歩いて、角砂糖の階段を登った先にフィンを見つけました。
「やあ、フィン。今ぶどう味のアメ玉を探しているんだけれど、どこかで見ていないかい?」
「や、やあルデン。ぶどう味のかい?ど、どうして?」
「食べたいのにどこにも見つからなくてさ。君ならどこにあるか、知っているんじゃないかってね」
ソワソワとしながら話すフィンの頬袋は、両側ともまんまるくなっていました。話し辛そうに口元を抑えていましたが、無理矢理話したフィンの頬袋が引っ込むと、大きなアメ玉がポロッと出てきました。それはヨダレまみれではあるものの、ルデンの探し求めるぶどうのアメ玉でした。
「ご、ごめんね!探しているとは知らなかったんだ。これで良かったら、食べる?」
「いらないよ!君のヨダレまみれじゃないか!僕も食べたいんだけれど、他に見ていないかい?」
「今日見つけたのは、この二つだけだよ。僕も探しているから、見つけたら君の分を残しておくね」
「そうなのか、残念だよ。ありがとう、じゃあ見つけたら教えてね」
手を振って見送ったルデンの姿が見えなくなると、フィンは両手で顔をグイグイと拭って辺りをキョロキョロと見たあと、ささっとどこかへ走り去って行きました。ルデンがわたあめの広場にたどり着いた頃には、お日様が沈もうとしていました。ビスケットをかじりながら、もふもふしているわたあめに、ルデンは寝転がりました。
「見つからなかったなー、アメ玉。まあいいか、フィンが見つけてくれるだろうし、ビスケットも美味しかったから」
ルデンは大きなあくびをしたあと、夜空を眺めながらわたあめをつまんで過ごしました。