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07幕間

「ねえディナト」

「どうした」


 寝台の上で寝そべりながらルルディーアが茶器を片付けるディナトを見上げる。


「ディナトって何才だっけ」

「今年で四十五だ」

「そうだった、ディナトはお父様と同い年だったっけ。声も見た目も身のこなしも若いから忘れちゃう」

「いきなりどうした」

「うん。……あのね」


 指をもじもじといじりながらルルディーアが伏し目がちにディナトを見上げる。まるで子猫のごときかわいさだった。


「シンって何才くらいかなあ」

「さて。(おれ)より年下ではあるだろうが。二十代後半か三十代前半だろう」

「そうだよねえ……」


 ルルディーアは彼女には似合わぬため息をついて、首を垂れる。


「あのね、ディナトから見て私ってどう?」

「どう、とは」

「ええと、女らしく見える?」

「見える」

「子どもっぽいなあ、とかって思う?」

「ルルディーアは十六なのだから事実子どもだろう」

「やっぱりぃ?」


 クッションを抱き込みルルディーアは寝台をころころ転げまわる。幼いころからの変わらぬ彼女の癖だった。


「どうしたんだ、本当に」

「あのね、私ね、シンが好きなの」

「そうか」


 ディナトの返事がそっけないのはいつものことなので、ルルディーアは構わず続ける。


「でもシンは大人の男の人で、恋人とか、もしかしたら結婚とかしてるかもしれないでしょ?」

「恋人がいるか知らんが結婚はしていないだろう。していたらああも頻繁にフラフラと出歩いると奥方が引きずり戻しに来る」

「そっかあ! そうね!」


 市場でよく見かける光景を思い出し、ルルディーアは快哉を叫んだ。姫にあるまじき挙動だが、ディナト大目に見た。なにしろかわいかったので。


「それでね、ディナト」


 両手を組んで、潤んだ瞳を向けてくるルルディーアにディナトは浅く息をついた。


「わかった。恋人の有無を聞いておく」

「ありがとう、ディナトお兄ちゃん!」


 いつまでもお兄ちゃん呼びは恥ずかしいから、と言い出してやめたくせ、都合の良いときばかり昔の呼び方をする、こずるいルルディーアを抱き留めながら、ディナトは嘆息した。


***


「恋人愛人結婚相手婚約者、その他それらに属する(たぐい)の者はいるか」

「唐突かつ率直だな」


 子どもたちとルルディーアが遊ぶ輪から少しばかり離れた日陰でシンとワインを飲みながらディナトは尋ねた。

 どうなんだ、とワインを傾ける。


「お前に懸想しているご婦人に聞くよう頼まれた。いるのかいないのかさっさと吐け」

「取り調べか」


 もそもそと揚げた小魚をつまみながらシンは歓声をあげる子どもたちのほうへ目を向ける。最後のひとりが鬼に捕まり、鬼が交代するようだった。


「結婚はしていないし、恋人その他もいない」


 かな、と小さく付け足された呟きを聞き届け、ディナトは満足げに肯いた。


「そうか」


 眩しいものを見ているような、確かな熱のこもったシンの視線の先にルルディーアがいるのは指摘しないでおいてやろう、とワインの追加を頼んだ。

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