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序章 七月、トルバラド王国、講堂前広場にて。

 今、旗を掲げよう。高く、高く、揺るぎ無い鋼の誇りと、砕け得ぬ鐵の決意と共に、帰るべき場所を示す僕達の旗を。


序章 七月、トルバラド王国、講堂前広場にて。


 五メートルを超える鋼鉄の巨人同士の戦いは、整備されていた講堂前広場とその周辺を廃墟同然の姿に変化させながら続く。

 僕が時間を稼ぎさえすれば、サラは必ずやり遂げる。今よりもマシな世界は絶対にやってくる。あるべき正しい世界は必ず訪れる。だから今は、一秒でも長く時間を稼ぐ。

 ヘッドセットディスプレイに映し出される敵ウォーカーの姿を視線で追う。

 僕の操縦する〈スヴァログ〉の構えるサブマシンガンに対し、敵のウォーカーは乱数軌道で射線を避けながら後退した。このまま逃がすわけにはいかない。相手の動きを制限するためにサブマシンガンを撃ちながら、〈スヴァログ〉の脚部に搭載されたリニアキャタピラを起動させる。

 電磁加速され高速で回転するキャタピラは時速一三〇キロの超高速であらゆる地形を高速で移動する。それにより一瞬で敵ウォーカーに対して間合いを詰め、本命である超硬質ブレードによる刺突を行う筈だった。

 ――異常事態は、一切の予兆なく発生した。

 ヘッドセットディスプレイに表示されていた速度計が異常な失速を示し、機体の進行方向がブレ始める。いくつものアラートが検出され、シート越しに異常な振動が伝わってきた。片足の履帯が破断した事に気が付いたのはその直後だった。

 急いでバランスを立て直す。それとほぼ同時に、敵のウォーカーが装備する超硬質ブレードを振りかぶった。反撃は間に合わない。咄嗟の判断で装備するサブマシンガンの銃身でその刃を受け止める。

 金属同士の衝突音がコックピットの中まで響く。

 握りしめていた操縦桿に振動が伝播する。 

 ……このままだと殺しきれない、もしかしたら僕の方が先に死ぬかもしれない。サラ達からの連絡もまだ無い。……少しでも長く、時間を稼がないと。

 一度体勢を立て直すために、ギアをバックに入れてフットペダルを踏み込む。

 直後、敵である空色のウォーカーが装備していた超硬質ブレードを振りかぶった。攻撃のための構え? ……違う、この距離じゃ斬撃は届かない、……操作ミス? ……いや、あり得ない、……――投擲!?

「――ッ」

 次の瞬間、コックピット内へ衝撃と破壊音が伝わる。ヘッドセットディスプレイが暗転し、一瞬にして視界が奪われる。

 検知された無数のエラーと敵ウォーカーの接近に伴い、いくつもの警告音が同時に鳴り響いた。千切れた配線が火花を放ち、歪んだ装甲が苦しげに軋む音が聞こえてくる。

 咄嗟に体勢を整えようと操縦桿を握る。姿勢制御用プログラム起動、メインカメラ再起動、エラー、不可、再実行と同時にサブモニターに切り替え、――エラー、不可、サブモニターとの疎通不可、センサー三から八に異常を検出、緊急用オートバランサー起動失敗、……――オートバランサー停止、姿勢制御を全てマニュアル操作に切り替え――。

「――ッ!?」

 突然背後から強烈な衝撃が襲ってきた。肺の中の空気が暴力的に奪われ視界が明滅すると同時に、酸素を奪われた脳が意識を朦朧とさせ思考力を奪っていく。

 この時になってやっと、機体が転倒したのだと理解出来た。

 暗転したヘッドセットディスプレイの先には、今まさに自分を殺そうとしている空色のウォーカーがいる。

 ……サラは必ず約束を果たす。この世界を、今よりも少しはマシなものに変えてくれる。僕は、その願いのために命を使うと決めた。僕自身の命が、無意味でなかったことの証のために。僕がどんなに頑張ってもたどり着けない大きな力にも、サラなら必ずたどり着ける。僕が託した願いを、サラは必ず叶えてくれる。

 ――僕は多分、ここで死ぬ。だけど僕の命は、一人の兵士としての役割を十分に果たせたはずだ。


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