【Chapter4 後半】俺とあいつは友達じゃない。【ここまでのお話】
・葵から「会えますか?」と連絡がくる。深夜の公園で待ち合わせをする。
・(中学時代回想)
卒業式。漆原葵は黒木に声をかける。
「あの……わたし、忘れものとかすごく多いから、それを直してくれようとしたんだよね?」
「べつに……そんなんじゃねーし」
素直になれない黒木。葵は別れ際に言った。
「助けてくれてありがとう!」
「……助けてねーし」
反抗期の小学生なみの返答だったが、葵の「黒木に対する感謝の気持ち」は揺るがなかった。
・深夜。漆原との公園待ち合わせ。
漆原葵は言った。「三つ、質問があるの」
そして一つ目の質問。
「黒木君、卒業式のとき、わたしを騙したでしょ? 本当は、直そうとしたんじゃなくて、助けてくれてたんだよね?」
・黒木は否定しない。嘘は嫌いだし、なにより『助けよう』とした決意は本心だ。
葵は二つ目の質問をした。
「だから好きになった――でも、彼女いるよね? 金髪のかわいいこ。遊んだり、帰ったり、色々してるよね」
「あれは彼女ではない。命をかけても違う――いやまて、なんでお前、俺と藤堂のことそんなに詳しく知ってんだ」
まさか……漆原さん、ストーカーデスカ?
質問に答えることなく、漆原は逃げた。
「三つ目はまたこんど」
残された黒木は頭を抱え思うのであった――人生で初めて告白されたのではないか? と。
・黒木は毎日頑張っているが、教室で勉強をしていると、ひそひそとギャルグループから噂されている。
藤堂真白はどこか親しみをこめて「黒木」と呼ぶが、周囲からすればそれ自体も違和感である。
・夜の公園で二つ目の質問を終えてから、三つ目の質問が始まることもなく、漆原葵と連絡がとれなくなる。
黒木は一人、漆原葵の情報を調べることとした。
・藤堂に話しかけると「勉強教えようか!?」と食いついてくる。
「いや、いい」と返すと「そうですか……じゃあなんですか……」とテンションがさがる。
黒木には理由がよくわからない。
・黒木は藤堂へと伝えたいことがある。それはテストが終わってからの話である。
・漆原と連絡が付く。三つ目の質問を黒木は、なんとなく理解していた。
出会い頭に漆原へ問う。
「三つ目の質問は――どうして生きないといけないのか? とか、なんで死ぬの? とかそういうことか?」
漆原は薄く笑う。
「75点かな」
・黒木はようやく気が付いた。違和感の正体だ。
漆原は「おっちょこちょいなヤツ」ではないのだ。
むしろ「いろんなことに気が付きすぎて、動けなくなるタイプ」なのだ。
ようするに「黒木は早とちりして、漆原を助け始めた」が、
漆原からすると「黒木のおせっかいに、ずっと合わせていたのだ」
・漆原の母は闘病中だった。葵はつねに母親の看病をしていた。
よって、クラスメイトの遊びの誘いは常に断ることとなり、結果的に浮いてしまった。
また、失敗や忘れ物の多さも、家庭内のストレスからくるものであった。
ようするに、葵自体は、そこらへんの高校生よりもキャパシティーの大きい、立派な人間だった。
が、それはオーバーし、じきに私生活に浸食してきた。
「なにも、かんがえたくない」
葵はとうとう思考を放棄した。
クラスメイトとも、なにとも、はなしをしたくない――失敗をフォローすることすら面倒くさい
そんなとき、おせっかいで早とちりな黒木が現れたのである。
「おい、漆原、あっちの仕事を頼む――」
黒木に従っていれば、学校生活のエラーは最小限ですんだ。
それだけのことだったが、葵にとっては、考えなしに進む現実は、何事にも代えがたい癒しであった。
・黒木は知ったのだ。数日前の調査で、あっけなくわかったのだ。
漆原の母親は少し前に他界していた。
葵の人生が一変した。
偶然の出会い? ――そんなものは、最初からなかった。
漆原葵は、「現実で、どう生きればいいのか、またわからなくなってしまった」
母親の死で「ストレスがあふれだし、日常を考えたくなくなった」
だから、ひきこもり――その果てに、中学時代の黒木を思い、会いにきたのだ。
・で、結論。
漆原は新たな生きがいを得ていた。
それは――「黒木のストーカー」……じゃなくて、「推し活動」である。
こうして中学時代のフラグは、いまようやく、良くも悪くも立ったのであった。




