第78話 また会えるかな(Chapter Ⅳエンド?)
朝。漆原との話し合いの翌日。
少しばかり重い頭にひきずられないようにして、なんとか顔を洗い、口を動かし栄養を取り、日常に戻れるように努力をする。
『わたし……、黒木くんのストーカーしてるんだ』
漆原はそれがまるで、誇りある仕事であるかのように、言い方を悪くすれば、完全に自己陶酔しているような表情で言った。言い切った。
ホラーを見ていたらコメディになったかのような。
ラブストーリーを見ていたら、ガンアクションになったかのような。
そんな違和感を覚えつつも、しかし、けれど、確実に――そんなセリフが出てくるようなストーリーでもあったと俺の頭は、理解しようとしていた。
たしかに流れ的にはおかしくない。
途中、シリアスっぽくなってはいたが、俺だってそういった危機感は感じていた。
……いや、何も流れだけがおかしいといっているわけではないのだ。
他にもおかしいところはたくさんあるだろ?
俺にストーカー?
なんども考えるが、おかしい。
俺ごとき存在にストーカーができるわけがない。
リタルタイムアタックをしているギャルゲーではないのだ。いきなりショートカットしてエンディングをみるような、そんなおかしさを俺は俺自身の人生に感じている。
漆原、お前は、……なんていうか、すこし、見る目がないぞ……。
最後にそう伝えると、漆原は恥ずかしそうに――まるで褒めちぎられたように、嬉しそうにこう言ったのだ。
『……そう言われると、嬉しいな。特別、みたいで。それにライバルいないってことだから……ううん、でも居たけど、ラスボスみたいな人が……でもいいの、わたしは』
ぶつぶつと陶酔しながら何かを言い始めた。ふっかつの呪文でないことは確かだ。
――刺激してはならない。
――俺は何か、壮大なフラグを立ててしまったようだ。
――いや、それは今さらの話。フラグなんて、中学時代にすでに立てていた。これは完全に不可避な強制イベントだ。
それが死に確定の戦闘イベントでないことを祈るばかりである。
『それでね、黒木くん、土曜日に学校にいくときに、おかしを大量に買い込むのはだめだよ?』
なんか言っているが、俺には何もわからない。あーあーあー。心の耳をふさぐ。
さて。
予定通りにはいかなかったが、予定通りに話は終わりそうだった。
同時に、さまざまなゲームイベントが蓄積された俺の脳が、『このキャラのイベントを今起こしてはならない』と警鐘をならしている。
まだ早い。今起こすとバッドエンド直行だ――俺は曖昧に頷いて、退散することにした。
これ以上は、今は、ダメだ。
でも。
どうしてか。
俺が漆原の気持ちを理解できないのは確実でも。
別れのときに漆原が、ふっと寂しそうな顔を見せて、こんなことを言うものだから。
『……黒木くん、お礼が言えてよかった。じゃあ、ね』
俺の心が少しざわついてしまったのも事実なのだった。
だから。
『また、会えるかな』
なんて聞かれたときも、俺は何かを期待しいるわけでもなく、むしろ恐怖を感じてさえもいたはずなのに、俺は迷うことなく『ああ』と言い切った。してしまった。
漆原の話はまだ救われていない。
まだまだ先がある。
だから、俺が逃げるのはまだ先の話なのだ。
ストーカーなんていうめちゃくちゃ怖い話から物理的には逃げるにしても、だ。
それに、俺という人間は安心して良い状況になんて居なかった。
漆原がどうとか、ストーカーがどうとか、俺の境遇がどうとか――そんなこととは全く別の道で、全く関係ないとはいえないようなイベントが発生していたのだ。
あとはそれを受注するだけ。
そうすれば勝手に話は進み――いや、違う。
受注しなくても、もう受注しているようなものだった。
なにせそのクエストの主人公は、金髪で、碧眼で、美少女で、13歳から芸能界入りしながらも、まるで仕事にやる気を出さなかったヒエラルキートップの陽キャギャル。
藤堂真白、その人だったからだ。
◇
勉強だけをしていれば、ストーリーは進む?
俺と藤堂のゲームライフは、自由度の高い牧歌系MMORPGのように、大したアップデートもなく、のんべんだらりと進んでいく?
そんなことはなかった。
当たり前だ。
俺がパーティを組んでいるのは、牧歌系シミュレーションのヒロインではない。
超難易度設定のRPGの勇者である。
俺は今さらながら、そんなことを再確認することになった。
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ChapterⅣ
end……?
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というわけで、ChapterⅣおわりです。
……と言いたいところなんですが、ChapterⅣはⅤとセットとも言えるので、クエスチョンマークをつけておきました。
次は真白の話です。
勉強するばかりのシーンになると思っていた読者様がいましたら申し訳ありません。
相手は藤堂です。
勉強とゲームだけで陽キャは構成されておりません……。
黒木には勉強の他にも、やってもらわないといけないことがたくさんあります。
無事にストーカーというファンもできましたし、ハーレム系主人公ぽくなりましたね!(震声)




