第74話 あと少しで終わる。
俺は探偵ではない。
俺はただの一般人である。
だからこそ言えることがある。
俺に分かることには限度がある。
俺に調べられることには限界がある。
だからもしも、知りたいことがあり、調べたことがあり、その上でそれ以上がわからないのであれば――あとは想像するしかないのだ。
これが黒木陽の限界。
そしてこれが、黒木陽の立場なのだ。
俺はそんな簡単なことに気がつけなかった。
少なくとも中学時代には、絶対に。
だが、今の俺は気がつくことができた。
藤堂は俺を「ゲームをしているときのように――」と表現したが、それは半分合っている。
なにせ俺は、中学自体、漆原との関係をたしかにある種のゲームのように捉えていたのだと思う。
一人の人間を助けるということに、馬鹿みたいに酔っていたのだろう。
だがもう半分は間違っている。
人生はゲームではない。
それは絶対だ。
中学時代の俺は気がついていなかったのだ。
気がつこうとする思いもなかったのだ。
――なぜ漆原が中途半端な時期に転校をしてきたのか。
引っ越してくる理由とはなんなのか。
――なぜ漆原がうまく周囲に溶け込めなかったのか。
うまくいかない理由とはなんなのか。
――なぜ漆原が今更、俺の中学時代の行動に言及するのか。
なぜそれは卒業式の日ではなかったのか。
俺は探偵ではない。
ただの一般人だ。
だから答えを知ることはできず、不足のピースは想像するしかない。
それでもピースが揃ってくれば、そこに描かれている絵を想像することは容易だ。
それが人として生きている限り、いつかは対峙しなければならないものだとすれば、尚更なのだ。
◇
藤堂と校門前で別れた後、俺は全てを終わらせるため、漆原に連絡を入れることにした。
メッセージアプリには、慎重に言葉を入れた。
そうしなければきっと、また既読スルーもしくは通知画面で確認されて、既読すらつかない状態になるのだろう。
だから俺は書いた。
答えかどうかなんてことは知らないし。
想像するだけが俺の限界だし。
藤堂との勉強をおろそかにする理由になるのかもわからないが。
俺は、こんな俺にしか頼ることのできなかったのだろう漆原を――そんな漆原にしてしまった俺の責任を果たすために、俺は文字を打ち込んだ。
『三つ目の質問の答えを、俺はまだ知らないんだ。すまない――でも話したいことがある』
まるで三つ目の質問を知っているかのようなメッセージ。
それはただの想像だ。合っているとは限らない。
だが。
返事は直に返ってきた。
『今日の夜、公園でどうかな』
数日ぶりの漆原。
もはやオドオドとしているようなイメージは、文面からでもう読み取ることができない
そう。
漆原はもう、俺の知っている漆原ではない。
深夜のコンビニで出会った彼女は、まるで30分ごとに数ヶ月の成長を見せている舞台女優のようだった。
藤堂が天性の才能を持つ女優であるならば。
漆原は自然な演技を武器とする女優である。
『わかった。じゃあ、また後で』
そうして中学時代から始まった話は――卒業式で終わったものと錯覚していた話は、ようやく本当の意味と意義を携えて、前進を始めた。
俺たちの話は、まだ始まっていなかったが、それも、あと少しで終わる。
暗号めいておりすみません。
タイトル通り、あと少しで終わります。




