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俺とアイツは友達じゃない。  作者: 斎藤ニコ
Chapter Ⅳ

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第72話 運命?

『もう一度会って話さないか』


 既読はすぐについた。

 しかし、送信した当日の夜も、その次の日の朝も、そして明けの朝も――不思議なことにメッセージアプリに返信が入ることはなかった。


「なぜだ……?」


 俺はそれを確認するたびに首を傾げた。

 今まではむしろこちらが逃げる側だったはずなのに、いきなり追いかけさせられているような気分だった。


 まさか嫌われたのか?、と考えて、いやいやいやと色々な意味で首をふる。

 なら文章がおかしかったか?、と読み返して、たしかに傲慢にも見えるが、返信を拒否されるほどには思えなかった。

 まさか漆原の身に何かが……?、と考えたところで、考えすぎだろと思い改める。


 そしてまた元どおりの悩みへと戻る。

 なんで返事がこないんだろうか。


 あいつが俺の元から一方的に立ち去るというイメージはなかなか想像できない。

 なんて表現すればいいのかはわからないが……、まあ率直に言うと、漆原は俺を観察する機会があったのではないかと思う。

 でなきゃ、藤堂の存在を知ることはできないはずだから。


 ではなぜ、知ることができたのか?――まさか、漆原は……ストーカー。


「いやいやいや。馬鹿か、俺は」


 俺にストーカー?

 恥を知れ、黒木陽。

 俺”が”ストーカーならわかるが、それはない。


「それにしても、なんで連絡がこねーんだよ……話の途中じゃねーのかよ」


 まるで漆原の手の平のうえで踊らされている気分だった。

 あいつもしばらく会わない間に、随分、図太くなったな――と考えて、なにをわかった気になっているんだよ、と自分自身に突っ込んだ。


「そういや、あいつって引越してくる前、どんな感じだったんだろうな……?」


 ここに来て自覚するのは、俺は漆原を逐一観察し、全てわかったような気になっていたが、実際、わからないことだらけだということだ。


 家がどこかも知らないし。

 どこから引っ越してきたのかも知らないし。

 今何をしているのかも――知らない。いや、なんとなくそこは想像がつくが、それを考えるのは俺の脳が拒否していた。もしそれが事実なら、それは俺のせいである可能性も否めない。


「はぁ……」


 漆原の記憶を探りすぎて、ふっと、気持ちが中学時代に飛んだ気がした。

 関係のない、自分のための他人の戦い。


 俺は無言で、スマホを見る。

 メッセージアプリに着信はない。


 画面を見ながら決めた。

 あと10分だけ待つ。

 10分以内に漆原から連絡があれば、俺は漆原の掌の上で踊らされることを受け入れよう。


 だが、あと10分で連絡がなかったら――俺は漆原の手から飛び降りる。

 そして、再び俺は自分の意思で奴と関わろうと決めた。

 それは中学時代に発生した、何気ない正義感に似て非なるものだった。


「決めたからな……俺は決着をつけるぞ……」


 それが”いつ”に対しての決着かは俺自身にも分からぬまま、時計をにらみ始めた。


 ――1分。


 ――5分。


 ――そして、10分。


 時間は何も知らないふりをして、淡々と進んだ。

 結果は明白。

 俺はスマホの画面を見た。


 変化は、ない。

 既読など数日前についたまま。


 三つの質問も二つ目で止まっている。


「漆原……、お前は何を考えているんだ?」


 中学時代、自分の思うがままに助けてきたと錯覚していたはずの少女は、日に日に俺の中で不気味に育っていった。


   ◇


 その日から、俺は少ないツテを頼り、どちらかというと妹のツテなんかを多めに頼り――まるでストーカーのように漆原の影を追った。市内の情報を集めた。

 時計の針が進む中で、時計の針を逆へと回し続けた。

 その行為は家族に協力を求めるにはいささか陰鬱で、しかしなぜか俺にはそれが正しいように思えてしかたがなかった。

 今はそれが正解であるような気がした。そして茜も何かを感じたからこそ、俺の情報収集に付き合ってくれたんじゃないかと思う。


 そうして。

 ようやく。

 たどり着いた一つの事実が――俺の心に深く突き刺さった。

 あの日の夜の偶然の出会いが、何か途轍もない運命の渦中にあったのではないかと錯覚する羽目になった。


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