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俺とアイツは友達じゃない。  作者: 斎藤ニコ
Chapter Ⅳ

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第66話 レベル差

 つつがなく――つつがなくってどういう意味だったか正確には思い出せないが、とにかく雰囲気だけで言わせてもらうと、試験はつつがなく終了した。


 結果が出るのは少し先のことだが、一連のイベントが終わったということでクラス内どころか、学校全体に弛緩した空気が流れている。

 これから忙しいのは教師のほうで、俺たち学生はしばしの自由時間になる。


 ――はずがなかった。


「ほら、黒木。答案用紙、全部揃ったし、自己採点しにいこ」

「そういうことをしたことがないんだが……」

「わたしだってないよ。だけど、したほうが良いと思うから、しようよ」

「しようよって言われてもな……」

「いいから、しよ?」

「……はい」


 ごねていたら、当然のように圧力が返ってきたので、跳ね返すこともできずに俺は頷く。

 当たり前のように、階段踊り場へ出向き、自己採点。


 基本的に全問正解に近いチートの教師役がいるため、自己採点というか、採点をしてもらっているという感じだ。


「次の選択問題は……い、あ、あ、い、あ、い――だね」

「おい、ふざけんな、『え』とか『お』はないのか!?」

「ふざけてる? まさか勘で答えてないよね」

「いや」

「『勘じゃないぞ、鉛筆による運だ』とか、ないからね?」


 ……鉛筆による運は4個目で、6個目は勘だ。


「大丈夫。5個、あっていた」

「お、なかなか良いね」

「……勘のほうがあたった」

「今なんて言った?」

「次にいきましょう、先生」

「うーん……まあいいけど。じゃあ次はね――」


 こんな感じで俺の採点は終わっていく。

 予想通りというべきか、俺の限界というべきか、今の最大限というべきか――100位以内はおそらく難しく、しかし150位以内ならいけるという、喜んでいいのか悪いのかわからない結果だった。


 しかし、万年赤点回避目的の俺からすれば、このマンモス校で150位以内というのは明らかに異常値を叩き出しているし、教師だって困惑しているとは思う。

 だが目の前の完璧超人金髪お化けはそんなことでは満足していなかった。


「いや、黒木、いまめっちゃ失礼なこと考えてない?」

「い、いや」


 すまん。

 言いすぎた。


「まあとにかく、このままじゃあ当たり前だけど、期末には間に合わないね」

「間違いないな」

「まあ、正直、それでもいいのかもしれないけどさ……無理して倒れたら話にならないし」

「満足してなさそうな顔だけどな」

「いや、複雑な顔をしているだけ」


 複雑、か。

 これまでの藤堂のセリフから、なんとなくその気持ちはわかる気がした。

 もちろん言わないけれど。


「いや、なんか結構、無理させてるよねとか思ったり?」


 で、こいつは当たり前のように言うけれども。


「無理は承知の話じゃねーのかよ」

「実際、目の当たりにすると、気が引けるというかさ……」

「……なにか、他に理由がありそうな言い方だな」

「ん」


 藤堂は俺から目を離すと、明かり取りの窓の形に切り取られた空を見た。

 まるで自分だけがその先にある景色を知っているような目をしていて、なんだか俺は不安になった。


「なんだよ」

「いや、別に?」

「嘘だろ」

「嘘ではないけど」

「じゃあ……、いや、なにか言いたそうだろ」

「そうだね――そもそも黒木はさ、なんていうか、この作戦、成功すると思う?」

「作戦? テストの話なら、まあ、五分五分ってとこじゃねーのか」

「……そっか」

「だから、なんなんだよ」

「気にしないで」


 得体の知れない恐怖を覚えて、俺は藤堂に質問をぶつけるが、当たり前のように避けられる。

 気にしないで――だと?

 気になるにきまってるだろうが。

 だが、俺からそんなことは言えないのだ。


 藤堂の瞳に映る空の色は、藤堂が隠している瞳の色と同期しているかのように、似ていた。

 俺の知らない世界がそこにはありそうで、だからこそ手が届かなそうで――なんだろうか。


 一緒の目標を持ったはずのパーティメンバーが、一人で先にレベルアップしてしまったような、そんな気分にさせられた。


 いや、もちろん、最初から恐ろしいくらいのレベル差ではあったんだけど。


「まあ、頑張るぞ、俺は」


 150位以内。

 それも特進クラスがいない中間テストの結果で。

 50位なんて本当にいけるのだろうか?――やるしかないだろ。


 精一杯の強がりのような物言いに、藤堂はなにを思ったのだろうか。

 何かに気がついたように窓から視線を戻すと、今まで見たことがないほどに清々しく、そして完成された笑みを浮かべた。


「もちろん。黒木の努力は、わたしが一番知ってるよ。それだけで、いいよね。だって二人でこんだけ頑張ってるんだから」


 なんて答えたらいいのかわからずに――今度は俺が外を見る番だった。

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