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俺とアイツは友達じゃない。  作者: 斎藤ニコ
CHAPTER Ⅱ

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第27話 次の機会に、伝える

今回は恒例?の、何かが変わったあとの幕間回のため、普段より短めです。

次回から動きます。

 平日、夜。

 自宅にて、茜の部屋の扉を開けた瞬間のこと。


「え? なにそれ」と疑うような茜の声が聞こえた。

「ん?」


 茜を見るが、視線はディスプレイから外れており、俺のほうへと向けられている。

 それがまるで他人事のように感じられた俺は、思わず背後を見た。だが誰もおらず、その言葉が俺に向けられているということを悟った。

 だが、「なにそれ」もなにも、俺はスマホとマウス、そしてヘッドセットしか持っていない。あとはいつも通りの着の身着のままだ。


 自分の姿を確認していたその姿が、どう映ったのかは定かではないが、茜は着用していたヘッドセットをゆっくりと外すと、俺の顔をゆびさした。


「いや、なんで、そんなに嬉しそうなのってことなんだけど……」

「嬉しそう?」


 思わず自分の顔を手で触って確かめようとして、両手がスマホやらで埋まっていることに気が付く。鏡を探そうと視線を探らせたところで――俺は首を振った。


「別に、いつも通りだろ」

「いやあ? いつもは、こうだけど」


 茜は眉根を寄せたあと、さらに自分のひとさし指を使ってまで、いかつそうな眉毛を表現し、人相の悪さを示してきた。まるで世界を恨み、人を憎み、自分の境遇を嘆いているかのような、そんな表情である。

 ……って、それ俺の真似かよ。


「そこまで人相悪くねえだろ」

「そこまで人相悪くないけど、なんだかとっても嬉しそうだから、目立つんだよ」


 埒が明かない。

 俺は茜の横――動画を撮るときの定位置に座ると、アゴで茜を促した。


「やるのか、やらないのか、さっさと決めてくれ」

「わあ、怖い」


 まったく怖くなさそうに茜は言うと、机の上のヘッドセットを耳に付けなおしながら、言った。


「なんか、やっぱり、最近のにいにはおかしい。具体的には数週間前から、おかしい」

「ほら、ログインしたぞ」

「はーい」


 具体的すぎる茜の指摘にドキリとしながらも、俺はパソコンのディスプレイに意識を集中させる。

 撮影に必要なソフトを起動し、セッティング。

 

 ロード中。

 明るい画面が、一転、真っ黒な背景へと変わった。


 そこにうつるのは、ぼんやりとした自分のシルエット。

 表情までは見えないため、俺が笑顔かどうかなんてこと、まったくわからない。

 それなのに、なぜだろうか――茜の言う通りに感じてしまうのは、実際に俺の何かが変わったからなのだろうか。


 わからない。

 本当に、わからない。

 だが、その日の戦績は――抜群だった。


   ◇


 先日の、藤堂からの相談があってからというもの、俺と藤堂の関係は変わった――ということは、全く無かった。


 全く変わらぬ日々だった。


 いつものように夜更かしをして、いつものように起床して、もそもそと朝食をたべて、歯を磨いて顔をあらって、手探りでタオルを探し、そして通学路に降り立つ。


 なのになぜだろうか。

 俺と藤堂の関係なんて、まったく変わらないはずなのに、教室に一歩踏み入れることへの抵抗感が薄れている。

 

 何度もいうが、これは藤堂への恋心だとか、そういう青春のような話ではない。


 童貞の現実逃避と笑うやつもいるだろうが、俺だって無駄に夜更かしをしているわけではない。考える時間ならたっぷりとある。Aに『おい。今、手が止まってたろ』なんていう、姑みたいな小言を貰おうとも、俺には考える時間はたっぷりとあるのだ。


 だから考えた末に、俺が藤堂に何か、ふわふわとした感じを持っているのは、そういう話ではないと断言しよう。


 おそらくそれは、酸欠になっているようなものなのだと思う。高度の低い平地で暮らしていた俺が、神の住まうような雲の上にまで一気に引き上げられてしまったから、俺の脳は酸素が足りていないのだ。


 だから、これは酸欠状態なだけ。ふわふわとして、思考能力が落ちているだけ。俺が変わったのではなく、環境が変わっただけのことなのだ。


 そう。

 結局のところ、そういうことなのだ。


 ゲームみたいに、アニメみたいに、小説みたいに、映画みたいに――主人公が短期間で劇的に変わるなんてこと、少なくとも俺の人生には用意されていないのだ。

 俺はどうしたって、黒木陽のままなのだった。


 だから、と俺は気が付いていた。


 だから、そろそろこの『見学』みたいなものも、終わりにしなければならないのだ。はじめての景色に驚き、見慣れぬ習慣に驚愕している、右も左も分からない人間の、神々の住まう土地へのちょっとした日帰り旅行みたいなものは、これで終わりにすべきなのだ。


 どうしたって人間には酸素が必要だ。

 俺のように、高地トレーニングなんてする気もない人間は、酸素濃度の低い場所で生活なんてできないのだ。

 藤堂のように条件反射のぱらぱら漫画を描くことのできない俺は、そういった見学はそろそろ切り上げて、元々の住まい――ヒエラルキーの△の一番したに降りてこなければならないのだ。


 だから。


 ポコン♪、と着信音が鳴り、その発信先が『マシロ』であり、その内容が『今日の放課後、ゲームできる?』などという連絡が来ても、決して了承などせずに、そろそろこの旅が終わりであることを、相手に伝えなければならないのである。


『ヨウ:二時間だけなら、できる』

『マシロ:スタンプ(やったー!)』


 ……次だ。

 それは、次の機会に、伝える。

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