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国王陛下。




時系列は、本編中。


23話『おしておれる』から24話『ハルかえる』の間ら辺。


その頃一方、王城では! です。





では、どうぞ。

楽しんでいただけますように。














「えっと……はじめまして」


そう言って少し恥ずかしそうに笑っている少女は、簡素な白い衣装を着ていた。


夜伽でないのはすぐに分かる。

何というか、ちっともそういう雰囲気を纏っていないから。

ていうか、幼すぎる。

どう見ても八つかそこらにしか見えない。


午前の朝露光る庭先で出会ったような清楚さだ。


純粋な眼差しで、さあこれから寝るぞと寝台に横になった俺に微笑んでいる。


流石にこれほど若い娘に手を出す気は起きないし、そこまで困ってもない。

もし誰かが送り込んだのなら、そいつは頭が悪過ぎなので、直ちに国外に出してやる。




「あの……御柱(みはしら)……?」


俺を御柱と呼ぶ人はかなり限定される。

なんの予告も使いも無しに、寝所に入ったことも、親兵が物陰から飛び出てこないのも、すぐに得心がいった。


「……次代様……だろうか?」

「あ! はい、そうです。……よろしくお願いします」


ふわりと頷いて、にこりと笑う。

はにかんだような表情は、とても可愛らしい。


小さなお姫様、というのに相応しい。

今代も昔はこうだったのか、いつの間にあんな百戦錬磨の女主人のようになったのか。

この娘もいつかはああなってしまうのか。


そこまで考えて、はと気を改める。


「……失礼した。こちらこそよろしくお願いする……あー……申し訳ない、このような姿で」


取り敢えず急いで寝台から滑り出て、上に部屋着を羽織って前をぎゅっと閉じた。


「ああ! いいえ、私の方が失礼しているので!」


確かに、この人たちは事前に知らせなど無しに、しかも時と場所を考えずに顕れる。

困った人たちだが、それなりに理由があるらしいので仕様がない。


「えっと、今は……夜更け、ですか?」

「……構いません。……どうぞあちらにでも。座っていただこうか」


時間の概念が違い過ぎるから諦めろと、今代から鼻で笑って軽く言われた。

この世界に顕現するのにも、それなりに労力が要るし、時と場所を定めるのは相当難しいとかなんとか。


説明されてもいまひとつ理解出来なかったので、訪れる時機に関して文句を言うのはとうの昔に諦めた。


次代様に長椅子を勧めると、ぱたぱたと走って、そこに飛びのるように座る。柔らかさを楽しんでいるのか、その上で何度か弾んだりもしている。

椅子に掛けるとその足先は、床から離れてぷらぷらと揺れている。


その様も愛らしい。


「……代替わりとは聞いていたが、もう?」

「あ、いえ……それは、今からだと少し先の出来事になります。……そうなった時はまた改めて、今代様と一緒に来ますね」

「……では、今日は?」

「はい! お願いがあって」

「お願い、とは?」

「私のわがままなので、聞いてもらえたら嬉しいんですけど……その……」

「錘姫様が、個人的にというのは」

「そうですね……そういうのはよくないと、解っています……なので、見付からないようにこっそり来ました!」

「ふは! ……こっそりバレないように来たのか」


はい、と返事をして得意げに笑っている。

その可愛らしいお願いとやらを叶えるのは、善行を積むような気がしてくる。

そもそもこんなに小さな子どものお願いを無碍に断れるほど、俺も人の心を失くしてない。



この世界から役目を頂いた。

国王という名の柱のひとつとして、錘姫様のためならと、出来得る限りのことがしたくなる。



「……では、そのお願いを聞いてみよう」

「はい。ある人を戴名して欲しいのです」

「……それが、お願い……?」

「はい……もちろん、こんなこと、わたしの立場からお願いするのは、決まりに反すると、解っています! ……けど……」

「……あ。ああ! いや……もっととんでもないことをお願いされるのかと、身構えていたので……そのぐらいのことかと、つい呆けてしまった。……その戴名したい方は、どなたかな」




永きの勤めに耐え得る者は戴名せよ。

この国と己に仕える者は、己の判断で決めよ。


そう自分の命に刻まれてはいるが、その判断は割と適当でも構わない。

間違った人物を戴名してしまっても、お咎めがあるというよりは、自分に面倒が降り掛かる程度のこと。


それなら自己責任なので、後からでも、どうとでもなる。


次代の錘姫様のお願いだとしても、己の判断での戴名ならば、特に世界の命に背いたことにもならないだろう。


不安そうに見上げている目に頷いて笑い返すと、姫様はふわと蕾が綻んだように笑った。


「……もうすぐ、貴方の鷹から知らせが届きます。その人を戴名して欲しいのです」

「鷹? ……クローディオスから?」

「ええ、はい」

「……御意に」

「やった! 本当ですか? ありがとうございます!」

「……その方は次代様のお知り合いかな?」

「はい! 大切な人です! とても、とーっても!」


両腕をめいいっぱい広げて、今一番の笑顔になっている。

年相応の可愛らしさに、自分でも驚くほど柔らかな笑い声が出ている。


「承った。ご期待に添おう」

「はい! ありがとうございます!!」


跳ねるように床に降り立って、体がふたつに折り曲がるほど頭を下げる。


「……んんん! 忙しくなります! 頑張ります!!」


頭を持ち上げた時には、錘姫様は小さな両手をぐっと握りしめていた。


「……え? ちょっと……?」

「なるべく歴史を変えないように! 気を付けましょうね!」

「い……今なんと?」

「あ! そんな大変なことではないので、心配しないで大丈夫ですよ! ひとりの人の運命が変わるくらい、よくあることだし、大雑把にしなければ、なんていうことも無いですから!」

「そう……なのか……?」

「大きな布です!」



それは今代様から、この国の王になった時に懇々と教えられた話。



お前はこの国を包める大きな大きな布を手に入れた。

ゆっくりと、時間をかけて、丁寧に広げ、きれいに伸ばし、広げてゆきなさい。


酷いシワも縒れた部分も、そのままにしていたら上手く包めない。


根気よく、諦めなかった者こそこの国をきれいに平らげ、包み込む。

そうなれて、その時こそお前は本当の王になれる。


今はただ皆から王と呼ばれているだけだということを忘れてはいけないよ。


さあ、私にお前の腕前を見せておくれ。


私に『王よ』と言わせておくれ。




きっとまた、世界に試されている。

未だ『ひとつの、ただの柱』から『この国の王』と呼ばれるために。


「ではとくとご覧いただこう、錘姫様。俺がいかに巧みに布を扱うかを」

「……はい!」


改めて頭を下げると、その場の景色を後ろ手で捲りあげた。

じゃあまた、とその奥へ引っ込みそうな姫様を引き留める。


「次に会う時は、初めて会ったフリをするべきかな?」

「あ! そうですね。そうして下さい!」

「これから戴名する方にはこのことは?」


少女は静かに首を横に振る。


「……いいえ、知らせないで下さい」

「大切な人なのでは?」

「だから、です」

「……承知した」


はにかんだ笑顔で小さく手を振ると、捲りあげた景色の向こう側にぴょんと飛んで消えていく。


「……ふん。いいな……面白いぞ」





夜が明けて次の日、早速にもクローディオスからの蝋封を携えたハルエイクロイドが登城していると知らせがきた。


退屈な書類仕事を放り投げるにも良い口実が出来た。


「すぐに会おう、構わないから、さっさと通してくれ」

「その書に先に目を通して署名を」


溜息ともつかないような軽い息を吐き出して、ムスタファが真っ直ぐ見下ろしている。


「へいへーい」

「返事くらい、まともにしたらどうですか」


呆れたと全身から滲み出させて、この場から出入り口へ自ら向かう。ムスタファは侍従に片手を軽く上げて押し留めた。


署名を終えないと扉を開けないつもりらしい。



そこまでされたところで書の内容など頭には入らない。

気もそぞろ、というやつだ。

久しぶりの気分にふはっと笑いが漏れる。


「ああ……楽しいな、いいぞ」


後方で首を傾げているオリバーに片目を閉じる。

何も見聞きしなかった、このことは黙っていろという合図だ。

オリバーの無反応が了承したという合図。




扉の向こうの衛兵が、来訪者を告げる。

さあ、クローディオスは誰を戴名する気だ。

錘姫様の大切な人とは、どんな人物だ。



いいぞ。

面白いな。















姫様が大きかったり小さかったりなのは、その時々で、必要な能力が違うからです。


大きい方が、力が強い(それだけ必要)とお思い下さい。


大きくなったり、縮んだり、ではなく。

姫様の成長に合わせて、目的を狙って時を遡り、その場所に現れる、ということです。



アメちゃんの復活の力技は、必要な分だけあれこれ鍛えて蓄えて、(ネルも納得のGOがやっと出てから)満を持して戻ったと。


そうご理解ください。



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